第3章 第8話 戦争は嫌ですが、防衛に参加しましょう

「なに? じょうもんじん? 失礼なこと言わないで! ジュエルは現代っ子だよ!」


 ウガー! と両手をあげて怒っていますが違います。


「縄文人ではありません、情報網です。ジュエルは甘いお菓子は好きですか?」


「大好き!」


「では我が家へご招待します。新築したばかりなのでぜひ」


「わーい、行く行く~」


 お菓子で少女を自宅へ誘う……何でしょう、ちょっとだけ悪いおじさんみたいな気がします。

 しかし今の私も女なので問題は無いでしょう。多分。


 



 家に到着し、早速案内するとリビングにはリアが居ました。


「お帰りなさいしずかさん。あれ? ジュエルちゃん?」


「お姉さんも久しぶりっ!」


 右腕をピンと伸ばして挨拶しています。元気ですね若い子は。


 以前メイアで作ったケーキやクッキーをたくさん出して、雑談がてら情報を聞き出します。

 どうやらパンドラ国には転生者は2人。しかしリアやアズベルに当たる人物は存在せず、戦力比でもオンディーナが完全に上回っているようです。

 だとしたらなぜ、パンドラ国は開戦を決意したのでしょうか。


 少なくともブラスティーと私の情報は渡っているはず。

 それを上回る戦力を用意したわけでもなく、国力でもオンディーナが上なので兵士数もオンディーナが上……分かりません。


「オンディーナは敵が多いかんね、まさに人面瘡じんめんそうか! ってやつ?」


「……四面楚歌?」


「そうそう、そんなやつ」


 ケーキをほお張りながら紅茶をグビーっと飲んでいますが、逆に人面瘡を知っている事にビックリです。

 しかし、そうですか、四面楚歌状態なのですか、オンディーナは。


 どうやらもっとこの世界の事を知らないといけないようです。




 ジュエルの相手をリアにお願いし、私は工房に入りました。

 すべての情報をジュエル頼りにするわけにもいかず、かといって今すぐに情報網を広げる事は出来ません。

 なので以前から考えていた鳥型ゴーレムの製作にかかりましょう。

 敵の動きがいち早く察知できればこちらも素早く対応できますし、余計な手間も省けるでしょう。

 問題は鳥型ゴーレムが見聞きした情報をどうやってこちらに伝えるか、ですが……残念ながら魔法を使っての伝達や、テレパシー的な意思疎通はできません。


 今考えているのは魔法の複合技です。

 上手くいけばいいのですが……何事もチャレンジです。


 翌日には全員が帰ってきました。

 なぜかジュエルも居候していますが。


「だってゴハン美味しいし!」


 まぁ色々と情報を提供してもらったのでいいでしょう。


「早速ですみませんが、冒険者ギルドからアグレスの街の防衛隊として参加して欲しいと依頼がありました」


「へー、俺はてっきり傭兵として参加しろと言われるもんだと思ってたぜ」


「防衛に参加しろって、敵が来たら結局は戦うのでしょう? なら傭兵と同じじゃないかしら」


「戦争メンドい。防衛なんて待ちは嫌」


「グレゴリィが言ってきたんだよネ? じゃあ裏があると思うけど」


「戦争は……嫌だなぁ」


 ジュエルはクッキーを口いっぱいにほお張っています。

 リアはジュエルをお気に入りなのか、次から次へとお菓子を用意しています。

 

「しかし防衛に参加しなくても、王都までパンドラ軍が来た場合は戦わなくてはなりません。それならば何らかの行動を取った方が良いと考えています」


 リアが嫌がる理由もいくつかありますが、ユグドラでは戦闘に参加できないため連携に不安が残る事、ルリ子ではやり過ぎてしまう事。そうなると番長しか居ませんが、番長もかなり自分勝手に戦う上、周囲には理解できない理論で行動します。

 しかもポーションは軟弱だと言って回復は他人頼み。


 それでも勝手にやらせておけば戦果をあげますし、倒されることはまずありえません。


「俺は構わねぇよ。国の為とかじゃなくて、仲間や知り合いが危険な目にあうのに、のうのうと遊んじゃいられねぇ」


「そうね、多分直接アグレスに来たらそのまま防いで、エリクセンに行ったら挟み撃ちとか、その位なら構わないわね」


「面倒。でもヤルならやる」


「グレゴリィが冒険者に不利な依頼を受けるとは思わないし、裏があるなら乗ってみるのも良いネ!」


「そうですね、結局戦いになるんだったら、私達で押さえた方が被害も少ないですし……やりましょうしずかさん」


 何とか意思統一が出来ましたね。

 みんなの表情も引き締まっていますし、覚悟が出来ているようです。

 私も色々と準備をしなければなりませんね。


「ねぇねぇ、私も参加するの?」


 1人ジュエルだけが指を咥えて困り顔でした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る