第3章 第9話 気弱な貴族も困ります

「いえ、ジュエルは参戦しなくて結構です。あなたが出るとバランスが崩れるどころの騒ぎではなくなるのでは?」


「ん~そうでもないよ? 国とやり合うほどの兵力は無いし、失った兵士の回復には時間かかるし」


 おや? 思ったほどの戦力を持っていないのでしょうか。

 国盗りゲームかと思っていましたが、違うようですね。


「来てくれると嬉しいですが、人がたくさん死にます。あまりお勧めは出来ません」


「じゃあご飯はどうしたらいい?」


 ご飯? 一体何の事でしょうか。

 今まで1人でやっていたのに、なぜご飯の心配をするのでしょう。

 

「いや、ていうか、この子誰だよ」


たちばな宝石ジュエルです。覚えていませんか?」


「少なくとも私は初対面のハズよ?」


 ん? そうでしたか。

 えーと……ああ、ベネットはまだ居ませんでしたね。


「4つ首のドラゴンを倒した宴会の場に居ました。あと、私の命の恩人です」


 リア以外がビックリしていますので、そこら辺の説明をしました。

 そういえば言っていませんでしたね。

 そもそもあまり現れませんし。


「マジかよ。こんな小さな子なのにそんな力が……」


「うふふ、私よりも小さい」


 エバンスがほくそ笑んでいますが、そういえばエバンスはいくつなのでしょう。


「え? 同じくらいでしょ?」


「私は大人だ!」


「「「「「えー?」」」」」


 見事に全員がハモりました。

 とっても恨めしそうな顔をしていますが、それが世間の評価というモノでしょう。

 この話題にはもう触れない方が良いでしょうね。


「来たいのなら来ても構いませんが、血を見ても大丈夫ですか?」


「この世界に来たら慣れちゃった。この世界って簡単に死んじゃうから」


 確かにそうですね、人を殺すのは犯罪とはいえ、盗賊やモンスターを殺し殺され、ユグドラの様に理由がない限りトラウマになる事もないでしょう。

 こんな少女まで慣れてしまうのですね……ある意味人間の強さなのでしょうか。


「それでは一緒に行きますか、美味しい食事も提供できますし」


「わーい、ありがと! きっとお礼はするからね!」


 その日のうちにギルドへ向かい、依頼を受ける旨を伝えました。

 グレゴリィオネェさんはとても安心していました。

 やっぱり裏では色々とあるのでしょうね。


 荷物を馬車に積み込み、今すぐに王都を出発しましょう。

 ゲートでアグレスの街まで一瞬で到着しますが、すでに宣戦布告を受けた後ですので、今にでも街が攻められるかもしれませんしね。

 慌ただしくなりますが、まあ仕方がないでしょう。


 


 準備が終わりみんなが馬車に乗り込みます。


「な、なぁ、これは馬……なのか?」


「ああ、それは馬型のゴーレムです。馬の10倍は役に立つでしょう」


 鳥型ゴーレムの前に馬型ゴーレムを作っておきました。

 通常の馬よりも大きく、ルリ子のナイトメアほどの大きさでしょうか、遠くからなら馬に見えますが、近くで見ると出来の悪い馬のオモチャみたいです。


「操作方法は今までと変わりません。それと馬車に付いているハンドルは進行方向に曲げてください。よりスムーズに曲がれます」


 ハンドルで前輪を動かせるようにしました。

 そのほかにもショックアブソーバーや車輪にはゴムを、馬車自体の強度を増して軽量化に成功しました。スポンジや綿わたも作れるようになったので、ソファーの座り心地も格段に上がっています。

 エンジンが付いたら車と同じですね。


「キャー! なにこれタクシーに乗ってるみたいだよ!?」


 ジュエルがはしゃいでいますが、他のメンバーも乗り心地が良くなっているので喜んでいます。

 技術というモノは生活を豊かにしてくれます。


「では出しますよ。ゲート」


 馬車の前方に青白く光る楕円形が現れ、馬車はその中に入っていきます。


 ゲートをくぐるとアグレスの街近くの森に出ました。

 あまり直近に出すと他の馬車と衝突するかもしれませんからね。


 門で受付をしてすぐにギルドへ向かいます。

 やはりアグレスでも兵士の募集がされていて、沢山の冒険者や傭兵たちで溢れかえっています。

 私達は王都でアグレス防衛の受付を済ませてあるので、簡単な挨拶をした後で貴族の屋敷へ向かうように言われました。


 なぜ貴族? と思いましたが、どうやら街の防衛は貴族が指揮を執るそうです。

 防衛だけでなく街の事は統治する貴族がやるとか。

 しっかりした貴族ならよいのですが……。




「おおお、お前たちが、まちまちまち、街の防衛をしてくれるのか?」


 屋敷は超が付くほど豪華ですが、出てきた貴族はとても気が弱そうでした。

 どうなんでしょう、権力至上主義は困りますが、ここまで気弱な人も困ります。

 おどおどしながら案内されたのは街の兵士が集まる兵舎、その中にある会議室の様な場所です。


「こここ、ここで作戦を立てるんだ。うまうまうまく、上手くいけば褒賞ほうしょうをやるぞ!」


 それだけ言って出ていきました。

 作戦は? 貴族が指揮を執るのではないのですか?


「ごほん、よく来てくれた、俺は街の守備隊長だ。おそらくこの街にはパンドラ軍は来ないと思うが、万が一に備えてしっかりと防衛しよう」

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