第3章 第7話 情報不足

「宣戦布告……ですって?」

 

 パンドラ国というのは確かオンディーナの北にある国です。

 あまり良い関係では無いと聞いていましたが、こんなに早く勃発するとは思いませんでした。

 確か相手の国にはブラスティークラスの人が居るとウワサされていました。

 2人が戦いを始めたら当分終わらないでしょうし、戦争の決着はそれ以外のモノで決まる、という事です。


 確か1番近い街はエリクセンかアグレスのハズ。

 ああ、それで街の規模の割に防壁が大きかったのですね。


「困りましたね。アズベル達、早く帰ってきてくれないでしょうか」


「しずかちゃ~ん、こっちこっち、こっちよ~ん」


 人ごみの向こう側、カウンター越しにピョンピョン跳ねながら手を振っている人が居ます。

 野太い声で厚化粧、筋骨隆々なグレゴリィオネェさんです。

 一体何の用でしょうか? などと、とぼけるつもりもありませんが“自由”のランクを渡されて直ぐなので、ああやっぱり、といった感じです。


 アズベル達の事も聞きたいので、一応話しくらいは聞きますか。


「まってたわよ~しずかちゃん! この依頼をお願いしたいのよん」


 挨拶も程々に、カウンターに出された依頼書は予想通り……おや?


「アグレスの街の防衛参加要請、ですか」


 パンドラ国に近い街の一つ、小さい方の街アグレスの防衛ですか。

 てっきり前線に出てくれと言われると思っていました。


「そうなのよ、あの街は防壁は大きいんだけど、戦力自体は少ないの。だから防衛の任についてほしいの。お願いできる?」


 アグレスの街はこの世界に来て最初に入った街です。

 いきなり牢屋に入れられたりしましたが、やはり思い出深い街ではあります。

 しかし。


「そういった仕事は兵士の役目ではありませんか? 確かパンドラ国に最も近い街ですし、戦闘になる可能性が非常に高いと思いますが」


「そうねぇアグレスかエリクセンが最も近いわねん。だから王都に近い方、エリクセンを攻めてくると思うの、だからアグレスは念のための防衛、だと思うのよねん」


 そうでしょうね、わざわざ遠い方を狙う意味がありません。

 仮に後方の憂いを無くすというのなら、エリクセンを落とした後で街に守備隊を置けばいいだけですし。

 ……ああなるほど、そういう使い方をするつもりですか? 私達は便利な駒ですね。


「この依頼を出したのはブラスティーですね? グレゴリィオネェさんも人が悪いですね、どういう使い方をされるか理解したうえで、これを見せるなんて」


「何の事かしら? ワタシには分からないわねん」


 しらばっくれてますね。

 ギルドの受付は例外なく頭が切れます。

 今まであってきた人すべてそうでした、もちろんアニタもキレ者です。

 もちろんそれに見合った情報網もあります。

 

 つまりブラスティーは見え見えの依頼を出したという事ですが、私との約束を守る気がありませんね。

 なんでしょう、ちょっとイラついてきました。


「分かりました。しかし直ぐには返事が出来ませんので、少し考えさせてください」


「出来るだけ早くお願いね」


 ギルドを出て家へ向かいます。

 流石に私1人で判断できる内容ではありませんし、リアや他のメンバーにも確認しないといけません。

 簡単に説明すると、エリクセンを犠牲にして敵を挟み撃ちにするのでしょう。

 北のアグレスに私達を配置して、エリクセンににらみを利かせる。南の王都側からバールドの街を経由してエリクセンを挟み込む、そう言った作戦でしょうか。


 ブラスティーはもう一人の強い人物と、そして他にも転生者がいる場合は私が相手をする。

 その場合はそれに準ずる戦力であるリア達が蹂躙する事になりますね。


 最大の問題は、パンドラ国にもリアやアズベルに相当する戦力が在るかどうか、です。


 ふぅ、この辺りの情報は私が考えても分かりません。

 情報網……ほしいですね。


「はぁ~い、お姉さん久しぶりっ!」


 背後から声をかけられ振り向くと、そこには少女が居ました。

 その少女は輝く銀色の長い髪をもち、身長は130センチほどで黒い皮のジャケットと長ズボン、ブーツを身に着け、小さな鎖やアクセサリーを沢山付けている。


「あなたは宝石ジュエルではありませんか。久しぶりですね、元気ですか?」


 命の恩人であるジュエルがピョンピョン跳ねながら手を振っています。


「元気だよ! お姉さんたち凄いね! ブラスティーに勝っちゃうんだもん!」


「ああ、あなたには隠し事が出来ないのでしたね。ありがとうございます、色々な方に助けられて、何とか勝てました」


 ジュエルはブラウザゲームがベースの転生者で、APアクションポイントを消費する事で様々な情報を手にすることが出来ます。


 あ。


「情報網、確保しました」


「え? なにが?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る