第2章 第51話 切断

 しかし俺はまだブラスティーの力を見くびっていたようだ。


 勢いよく斧を振り下ろしたのは良いが、軽くかわされて俺以外の奴に攻撃をされてしまう。

 バトルアックスでは重すぎるのか!? それなら小型の斧で!

 小型斧を2本使い手数を増やすが、それでもブラスティーの刀の速度には追いつけない。


 それどころか俺・アズベル・ベネット・アースエレメンタルの4人の攻撃を平気で受け流す。

 アースエレメンタルが破壊された。

 この狭い空間では炎の精霊や風の精霊は呼べない。

 水の精霊は水場が無く、悪魔はドラゴンと同じく大きすぎて無理。


 魔法使いの2人は回復と能力強化しかする事が無くなっている。

 今のブラスティーに近づくことは自殺行為であり、攻撃魔法はことごとく霧散してしまう。

 アニタも近い状況だ。

 弓を構えてタイミングを見ているだろうが、そもそもブラスティーを目で追えていないだろう。


 そんな時、リアから合図が出された。

 俺はブラスティーの腰にタックルをして目に見えない壁に押し付けた。

 魔力防護壁エネルギーウォールだ。

 ブラスティーの背後と左右にエネルギーウォールを展開して逃げ場を無くし、アニタが姿を現すと正面から爆弾矢を3連射、それに続いてリアとエバンスが魔力雷球エネルギーボルトを発射!

 エネルギーボルトはブラスティーにではなく、ブラスティーの正面でお互いに衝突・爆発を起こし、矢はブラスティーに命中・爆発した。


 逃げ場を無くし、爆弾付きの矢での攻撃と魔法の爆発だけを利用した連携攻撃だ。

 

 俺にもダメージが入るが、強固な鎧を装備した俺よりも、ブラスティーの方がダメージが大きければいい。

 なんならこのまま腰をへし折って……腹に衝撃が走り、俺は天井まで飛ばされてしまう。


「ガ!?……げふ……」


 なんだ! 何が起きた!

 天井から落下し地面に叩きつけられるが、それ以上に腹の痛みが酷い。

 

「少しは考えた様だが、かんしゃく玉がはじけた程度でどうにか出来ると思っていたのか?」


 ブラスティーは左足を下ろした。

 どうやら腹にひざ蹴りを食らったようだ。

 痛てぇ……腹をさすると鎧がへこんでいる。マジかよ……どうなってんだよアイツ。


 腹を押さえながら立ち上がり、斧を構えるとブラスティーの姿が無い。

 ! どこだ!

 姿を探すと俺の背後で背を向けて立っていた。


「このっ!」


「いいのか? 俺に攻撃をして」


 言葉の意味が分からず手を止める。

 俺に攻撃をしていいのか? 何言ってんだ、今戦ってる最中だろうに。


 ゆっくりと、首を俺に向け、それに続いて体がこちらを向く……!

 エバンスが……後ろ首を掴んで持ち上げられており、無造作に刀を腹に突き刺される。


「!!!……!?!?」


 エバンスは首を絞めつけられ、声を出さずに苦しみ血をはいた。

 円を描きながら刀を抜くと、ゴミのようにエバンスを投げ捨てる。


「エバンス!!」


 あの武器で腹を刺された! 回復魔法を無効化するあのアンチマジックの武器で!!


「だからいいのか? 俺を攻撃して」


 斧を構えてエバンスとブラスティーの間に入りたい。

 アズベルとベネットが2秒だけ時間を稼いでくれれば、治療ができるんだ!


 左右を見て2人を確認……。


「え?」


 2人は地面に倒れていた。

 アズベルは両腕を、ベネットは両足を切り落とされている。

 ……い、いつ……いつの……まに……?

 心臓の鼓動が大きくなる。大きく、そして早くなっていく。


 リア……リアは!?

 リアが居たあたりを見る……そこには足が落ちていた。

 足が1本、そしてまた足が1本。

 順番に目線を移動させると、次は腕が1本、そしてもう1本……!!


「うああああああああ! リア! リアーー!!」


 両手両足が無い状態で壁に寄りかかっているのが見えた。

 治療しようと魔法をつぶやいているが、やはり回復できないでいる。

 どうして! どうしてぇえ!!


「もう一人は流石に見つけられないか。まあいい、仲間が殺されるのを指を咥えて見ているがいい」


「リアぁああぁあ!」

 

 治療しないと! 治療しないと!!


「五月蠅い」


 リアに駆け寄ると蹴り飛ばされた。


「リア!」


 また蹴り飛ばされる。

 なんで邪魔するんだ! 俺はリアを治さないといけないんだ!

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も蹴り飛ばされ、ついに鎧が破壊され、俺は動けなくなった。


「チッ、随分となれている風だったから複数回の転生者かと思ったが、1回目か。もういい、いらん」


 リア……リア……ごめん、また、守れなかった……絶対に守るって誓ったのに……っ!

 大きな音が鳴り響く。ついに俺の鎧が破壊されたかな……いやもう破壊されてるよね?

 何とか首を動かして音の方を見ると、大きな盾が俺とブラスティーの間に立っていた。


「なにやってんだ? 女ばっかりのパーティーでよろしくしてるかと思ったら、ブラスティーによろしくされてどうするんだ」


 フレディ……以前アズベルとパーティーを組んでいたフレディがどうしてここに?


「どこから現れた、このゴキブリ風情がぁ!」


 もう1度、刀で盾を打ち付けると盾が宙に浮く。

 なんて力してるんだコイツは!

 しかし浮いた盾と地面の隙間からブラスティー目がけて短剣が2本突き出され、わき腹に突き刺さる。


「ゴキブリだからねぇ~、どこからでも現れるよぉ~?」


 ケンタウリ……短剣2本持ちの女冒険者、ケンタウリもいる。


「ぐあっ! おのれ……! セルフヒー……」


 数歩後退して短剣を引き抜き、呪文のようなものを唱えようとする。

 しかしその時間を与えない。

 両手持ちの剣が腹部に命中し、さらに傷口が広がる。

 さらに小型の盾がブラスティーの顔面に命中、頭が大きく後方に弾かれ倒れようとするのを石の壁ストーンウォールが阻む。


 あの両手剣はロバート、小型の盾はアルファ、それに石の壁はクリスティか?

 クリスティは姿が見えないが、どうやらアズベルと組んでいたメンバーが勢ぞろいしたようだ。


 石の壁にもたれかかり、俺達を睨みつけるブラスティー。

 俺は今のうちに治療を開始した。


 俺が治療をしている間にも、さらなる攻撃が続いていた。

 石の壁を背にしたブラスティーにボウリング玉に太く短いトゲの生えた鉄球が2つ命中し、さらには巨大なハンマーがブラスティーを石の壁にめり込ませ、壁が破壊された。


「ほっほっほ、まだまだ腕は鈍っとらんなぁ」


「しずかさんに作ってもらったんじゃ、きちんと成果を出さんとな」


「ジジーの癖に相変わらず元気だな、んん?」


 鍛冶・100人勝負の時にお世話になった船大工のお年寄り2人と、コレオプテールの、リアが働いていた食堂の店長じゃないか!

 どうしてここに?


「きさ……貴様らぁー! ふざけるな!」


 店長のハンマーが刀で破壊され、その刃が首に向く。


毒の沼地ポイズンフィールド!」

 

 ブラスティーの足元に赤と緑の毒々しい沼が現れた。

 あと1歩踏み出していれば毒に汚染されていただろう。


「ユグドラさんユグドラさん! 私強くなったでしょ!」


 あれは……あれはエロ占い師! いや、魔法ギルドのギルドマスター・ハリスさんだ!

 そういえばハリスさんが使ってた杖が壊れたからって、新しいのをあげたんだったな。


「みんな、どうしてここに?」


「ギルドで話題になってたんだって。お前たちがとてつもなく深刻な顔をしてたってんでな」


「心配になって後を付けてたらぁ~、こんな事になってるじゃ~ん?」


「ほっほっほ、これは祭りに参加せねば男が廃ると思いましてな」


「ウチの店員と俺のお気に入りが怪我されたら困るしな!」


 そんなに話題になってたんだ。確かにブラスティーとの戦いを控えてナーバスになってたけど。

 でも……嬉しい。俺に関わった人が助けに来てくれた。

 嫌な事も沢山あったけど、この世界は良い人が多いな。


「ありがとう、みんな。お陰で治療が終わったよ」


 そう、リアも、アズベルも、ベネットもエバンスも、完全に回復した。

 総勢15名。全員がしずかの特製武器を持っている。


「さぁ! 反撃といこうか!」

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