第2章 第50話 装備ペナルティ

「お前の言う通りだよ! 全ステータス負けてるよ! 社畜だよ! なげいてばっかりだったよ! だからこそ俺の理想のこの世界で、この世界では絶対に逃げないって決めたんだ!!」


 どういう理由か知らないが、念願かなって異世界に来れたんだ。

 この世界でも嘆いてばかりだったら、俺は本当にダメ人間になってしまう。

 それに俺はこの世界が好きだ。

 いけ好かない奴もいたが、みんないい奴ばっかり。

 ギルド職員も、冒険者も、宿屋も、武器屋も、鍛冶屋も魔法ギルドも。


 なによりこのパーティーメンバーが好きだ!


「お前とユグドラの関係なんて俺には分からん。だがな、俺はユグドラに勝つ! ユグドラに『アズベルは俺の片腕だ』と言わせるまで強くなる! だからお前に負ける訳にはいかねぇ!!」


 アズベルの剣戟けんげきが速くなる。

 ただでさえ捉えにくい剣先が、さらに鋭くブラスティーにせまる。

 それだけではない、動きが速すぎてアズベル自身の体がユラユラとぶれ始めた。

 

「冒険者はね、腕や階級だけではなく人格も必要だと考えているの。人々から尊敬され頼りにされ、居るだけで安心させることのできる人物。それがアナタに負けるわけがないわ!!」


 ベネットの体を大剣がすり抜ける。以前俺が体験したように全く体がブレることなく避けるため、遠近感覚が狂わされるのだ。

 さらに今では避けたと同時に元の位置に戻るため、まるで実態の無い幻影と戦っている気さえするだろう。


「魔法は便利。でも使う奴は最悪。前衛の後ろの安全圏から攻撃して、危なくなったら逃げる。でも一緒に戦えるって言った。方法を教えてくれた。命を預けられる仲間にしてくれた!!」


 エバンスが魔力雷球エネルギーボルトを発射する。ブラスティーに命中する事なく霧散するが同時に接近し、小柄な体を生かして前衛の隙間をすり抜けてブラスティーの腹に手を当てて魔法の矢マジックアローを射出、腹を貫通して背後の壁に当たり消滅した。


「犯罪者の兄を持ち、生きているのが嫌になった。でも私の希望が現れた。迷惑をかけっぱなしだけど、その希望は私だけじゃない、みんなの希望! 人に恐れられてるアナタに、負けたりしない!!」


 リアが荒れ狂うエネルギー魔力の渦ヴォーテックスを唱えると、人間大の魔力の竜巻が現れた。魔力の渦はブラスティーの鎧を削り取り、上半身の鎧を弾き飛ばす。

 しかし魔力の渦を力ずくで破壊されてしまった。


「ふんっ! 何をほざくかと思えば、下らぬ自己満足で俺を否定するのか? お前たちは俺の何を知っている。知りもしない人間を否定するとは、冒険者とは偉いものだな!」


 ブラスティーは傷ついた腹をなでながら、大剣を振り回して距離を取る。

 そして黒い鎧を脱ぎ捨てると、下からは薄手の革鎧が現れた。

 あれはウィズダム・オンラインの盗賊シーフが装備する鎧だ。

 アレなら侍も装備出来るから正常なんだが……いやまて、確か重鎧も装備できたはずだ。

 確か装備する事で……そう、防御力は上がるが、ステータスが低下するペナルティが発生するはず。


「……え? 全然本気じゃなかった……?」


 ブラスティーを見ると大剣をも捨て去り、日本刀を取り出した。

 さやから抜いた刀は刀身が黒く、何か文字の様なものが刻まれている。

 

「アンチマジックの―――」

 

 ブラスティーの姿が消える。

 瞬きをする暇もなく目の前に日本刀が現れ、とっさに斧を持ち上げるも斧ごと吹き飛ばされ、俺は壁に激突してしまう。


「ガ!……あ、くっ……」


 背中を強く打ち息が出来なくなる。

 しかし苦しむ間もなくさらに刀が俺にせまる。

 斧が……間に合わない!!


 刀が俺にせまる、が、爆発と共にブラスティーは膝をついた。

 

「俺の事を知らないですって? アナタこそ何をほざいているの。調べは付いてるんだからネ、国王を裏で操る国賊ブラスティー。冒険者ギルドをなめないでほしいわネ」


 何も無い所から険しい表情で姿を現すアニタ。

 隠密ステルススキルだ。戦う場所が狭い場所だったら姿を消す、そう打ち合わせしておいたのだ。

 そして矢じりにつけた爆薬のお陰でダメージを与える事に成功した。


「姿が見えないと思ったら……コソコソ隠れていたのか」


「ラスボス相手に無策で来るはずがないだろ? さあ、仕切り直しだ!」


 立ち上がると、すでにブラスティーを包囲していた。

 アニタは再び姿を消し、それぞれが武器を構えて機をうかがう。

 重鎧を脱ぎ捨てて防御力がかなり低下したのは確認できた。

 しかしステータス低下のペナルティが無くなったブラスティーは、俺の目でも捕らえる事が難しい程の早さだった。

 STRも上がっているだろうし、何よりもアンチマジックの刀が厄介だ。

 アレの傷を治せるのは実質俺だけで、治療中は攻撃の手が止まってしまう。


 そもそも攻撃を防げるのか、という問題点もある。

 しかしやるしかない。

 

「うおおおお!」


 大声を上げて斧を振り下ろし、何とか俺に注意を向けさせて、わずかな時間差でアズベル・ベネットも攻撃をする。

 エバンスは祝福ブレッシングで全員の底上げをし、リアは破壊されたアースエレメンタルを再召喚した。

 俺が倒す必要はない、誰かの攻撃が当たればいいんだ!


 しかし俺はまだブラスティーの力を見くびっていたようだ。

 

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