第2章 第49話 決戦・転生者vs転生者

 人目に付きにくいように裏道を通り、騎士団の訓練所に到着した。

 王城は街中から離れているため静かだが、周囲には誰もいないためどこへ行けばいいのか分からない。


「こっちだ」


 突然背後から感情のこもらない声をかけられ、振り向くとそこには全身黒い鎧を纏った騎士がいた。

 騎士はそれ以上何も言わずに背を向けて歩き出したため、俺達は黙って後に続くが、一体どこへ連れて行くつもりなんだろう。

 訓練場の宿舎の脇を抜け、少し進むと地下へ続く石階段を下りた。


 階段は長く、随分下に降りたように思うけど、壁にかけられた松明たいまつの位置が段々と高くなっている。

 どうやら天井が高くなっているようだ。

 そろそろなのかな。


 やっと階段が無くなり広間に出た。

 石でできた広間は高さ10メートル、縦横は50メートルほどあり、松明の数はさほど多くないのに広間の内部は随分と明るい。


 狭いな。狭いし低い。

 ここだとルリ子のドラゴンを出すことが出来ない。

 戦力は向こうの方が上なのに、さらにこちらの戦力を削いでくるのか。

 用心深いというかなんというか、鳥かごに入れていたぶるタイプ?


「ん? ブラスティーがいないけど、待ってれば……ってあれ? どこいった」


 俺達を案内した騎士が居なくなっていた。

 どこにいったんだ? 目を離したのはほんの一瞬なのに。


「呼び出したくせに待たせるなんてな、騎士の癖にマナーがなってねーな」


「いないなら仕方が無いわ、待っていましょう」


 待ってるしかないか。でも一応この場所を調べておこう。

 罠が仕掛けられてても困るし。


 探索の得意なディータに交代し、この広い地下室をくまなく調べた。

 分かった事といえば

 1.出入口は降りてきた階段しかない

 2.罠などの仕掛けは無い

 3.魔法反応なし

 4.これを作った奴は暇人

 だった。

 

 ディータいわ

 『うっわwww タネも仕掛けもないうえにただの広間とかwww くっそつまんね! 人を呼んどきながらこれはありえな~い』

 だそうだ。

 いや何も無くていいんだけど。


「じゃあブラスティーはどこにいんだよ」


 というアズベルの疑問も出てくるわけでして……。

 しかしその疑問は一瞬で払拭され、俺達はいきなり窮地に立たされた。


 広間の中央に音もなく魔法陣が現れ、ブラスティーが出てきたのだ。

 一瞬気付くのが遅れ、すぐさま武器を構えて戦闘態勢を取るが、ベネットが大剣で斬られて壁まで吹き飛ばされてしまう。

 俺とアズベルでブラスティーに攻撃をするが、まるで小枝を操るように巨大な剣を振り回し、エバンスがベネットの回復をする時間を稼ぐのがやっとの状態だ。


魔法の矢マジックアロー!」


 リアがブラスティーに攻撃するが、俺と同じく、いや俺以上に魔法を無効化し霧散、何事も無く攻撃を続けている。


大地の精霊召喚アースエレメンタル!」

 

 魔法攻撃が効かないのならと、次はエレメンタルを召喚してブラスティーに攻撃をさせる。

 岩でできた高さ2メートルほどの精霊と共に攻撃し、何とかベネットを回復させる時間を稼ぐことが出来た。

 

「不意打ちとはやってくれるわね! 騎士はせっかちすぎるわ!」


 ベネット・エバンスも攻撃に加わり陣形を作り直す。

 俺が最前衛でブラスティーと打ちあい、アズベル・ベネットは左右から攻撃、リア・エバンスは回復や隙を見て攻撃だ。

 大地の精霊は勝手にやれせてもこっちの邪魔にはならない。


「呼びつけてお話しをするつもりは無いだろうけど、挨拶もなく攻撃するのは騎士団のしきたりなのかな!」


「何を言っている。貴様が俺の命令に従うのは当たり前のことだ。後の事は俺が決める」


 大剣を振り回しながら平然と会話をし、何とか斧で防いでいるが重い! 1撃1撃が異様に重い!

 4つ首ドラゴンの体を叩きつけた時よりも衝撃が大きい!

 くそっ! こっちは何とか会話をするのがやっとなのに、どれだけ力の差があるんだ!


「ふんっ! なんで従わなきゃいけないんだ! 俺はお前の部下でも何でもないぞ!」


「部下? はっはっは、ただの暇つぶしのオモチャの分際で俺と対等のつもりか? 俺はお前を壊すか今後も遊べるかを決めるために呼んだんだ。せめて楽しませて見せろ!」


 俺の斧も、アズベルの細身の剣も、ベネットの剣と盾も全て大剣で防がれる。

 どうなってんだコイツは! ウィズダム・オンラインのサムライだからって、 ここまでの差がある物なのか!?

 俺はこのゲームも侍もよく知っている。

 攻撃特化型の剣技、攻撃特化型の魔法を使う職種だ。

 息をつかせぬスキルでの連続攻撃や、一撃必殺の技、魔法を絡ませた遠距離攻撃と、攻撃に関しては非の打ち所がない。


 しかし防御に関しては強力な防具を装備できず、盾も使えない。

 唯一の防御手段が武器での受け流しだが、こいつが装備している黒い騎士鎧、ゲーム時代は装備できなかったはずの物だ。

 見た目より鎧が薄いのか、ゲームシステムが適応されていないのか……いやシステムは絶対だ。

 それは俺が身をもって体験している。

 ならどうして……!!


 大剣を防ぎ切れず、腹を横一文字に斬られてしまった!

 こんのぉ! 何回も見えない攻撃をしてきやがる!


「考え事をしている暇があったら攻撃したらどうだ? STR力強さで負け、AGI素早さで負け、DEX器用さで負け、どうせINT知性でも負けているのだろう? 日本では何をしていた、イジメられて引きこもりか? うだつの上がらない社畜か? 自分が不幸なのは世間が悪いとなげいていただけなのだろう?」


 ポーションを飲んで傷を治し、直ぐに攻撃を再開する。


「お前の言う通りだよ! 全ステータス負けてるよ! 社畜だよ! 嘆いてばっかりだったよ! だからこそ俺の理想のこの世界で、この世界では絶対に逃げないって決めたんだ!!」

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