第2章 第33話 単独行動の成果

「面白い事してるじゃねーか。ユグドラから1本取ったらドラゴンと戦えるって?」


「ぜひ私とも手合わせ願いたいわね」


「ドラゴンスレイヤー・エバンス、爆誕」


 いつから居たのか、アズベル、ベネット、エバンスが立っている。

 ん? 3人とも随分と装備が痛んでるな、かなり無茶をやってるみたいだ。


「まさかお前ら……死んだことに気づいてないのか?」


「死んでねーよ! いくらみすぼらしい格好してるからって殺すな!」


「みすぼらしい自覚有ったんだ」


「た、多少は……な」


 装備が痛んでることをオブラートに包んで言ったけど、正直言って浮浪者レヴェル。


「アズベルとエバンスは良いとして、ベネットまでなんだその姿は」


「し、仕方ないでしょ!? 大型と戦ってたら殴り飛ばされて湖に落ちるし、ロックちょうに捕まれて上空から落とされるし、ゴブリンの群れなんて山を燃やして逃げて行ったのよ!? どうしろっていうのよ!」


 ギャーギャー騒ぐ2人を無視して話しを聞いたけど、うん、中々に修羅場をくぐってた。


「山は大丈夫だったの?」


「延焼を防ぐためにひたすら木を切り倒してたわ。あの時は本当に斧が羨ましくなったわね」


「木、切れるようになったんだ」


「任せてちょうだい。水に浮かべたおけの上で型を演じきったわ!」


 両手を腰に当てて胸を張っている。

 十分胸を張れる成果だよね。


「おーおめでとう、それじゃあヤル?」


「ええ、お願いするわ」


 ベネットが剣を構え、俺は斧を構えて正対する。


「だから聞けよー!」


 いい緊張感だったのに、アズベルとエバンスが間に割って入った。

 まったく、男と女の関係を引裂くなんて無粋だなぁ。


「せめてジャンケンにしろ! 抜け駆けは許さん!」




「ふふふ、結局は私が先ね」


「2番。まあいい」


「クッソー! なんで負けるんだ俺!」


 再びベネットと対峙し、気を取り直して斧を構える。


「じゃあ愛弟子の成長を見せてもらいましょうか」


「ええ、まばたきする暇がない程に見せてあげるわ!」


 スッと流れるように移動して、接近してくる。

 走っているはずなのに、全く体が上下しない。

 いや上下どころか左右にもブレがない。

 まるで氷上をすべるように移動している。


 なにコレなにコレ! 面白い!


 速度は速くないはずなのに、距離感が掴みにくいな。

 距離はすでにベネットの剣の間合いだ。

 しかし攻撃せずにさらに接近し、俺の斧の間合いになる。


 へぇ、攻撃して来いって事かな? じゃあ行かせてもらうよ!


 ベネットの左肩を目がけて右から左に斧を振ると、軽い抵抗と同時に斧はベネットの体を貫通した。

 え!? 斬っちゃった!? いや違う……うん生きてる。

 しかも無傷で。

 ちょっと理解が追いついてない。もう一度。


 今度は折り返し左から斧を振ると、やはり軽い抵抗と共に斧はベネットを貫通……ああ、そう言う事か。

 貫通したと勘違いしたのか俺は。

 あまりにも自然に剣で受け流し、体はしっかり後ろに避けているけど、全くブレが無いから避けてない様に見えたんだ。


 これは凄い。斬ったと勘違いさせて反撃したらほぼ決まるんじゃないか?

 ワクワクだ! どの位まで受け流せるんだろう。


 縦に斬り、横に斬り、斜めに切り、徐々に速度を上げて行くが、かなりの精度で受け流してくる。

 まるで水を相手にしてるみたいだ。

 さあさあ、どんどん行くよー!


 何十回何百回斬りつけたか忘れたけど、ついにベネットが斧を受け流せず地面に叩きつけられる。


「きゃぁ! あいたたた、もう、少し……いけると、思ったのだけど」


 肩で息をしながら悔しがってる。

 

「いやいや、それだけ出来れば凄いと思うよ。俺も楽しくなって調子に乗っちゃったし」


「でも、ドラゴンはお預けね」


「次も頑張ってね」


 剣を杖にして、足を震わせながら立ち上がり、場所をエバンスに譲る。


「じゃあ、いく」


「おう、いつでもこ―――」


 俺の顔を目がけて魔法が飛んできた。


「いやー!?」


 慌てて避けると森の中で爆発が起こった。

 

「チッ」


 無表情で舌打ちしやがった! 


「おいコラ! いきなり魔法を撃つな! 危ないだろ!」


「戦いは危ないモノ、違う?」


「そ、そうだけどさ、訓練なん―――」


 俺の左側の地面から2メートルを超える剣が突きだしてきた。

 ん? これは!?

 バナナの皮をむく様に剣の花が咲き、高速で回転し俺に襲い掛かる!


「だからぁ!」


 流石に今の俺が剣の精霊ブレードスピリットに負ける事は無いが、不意打ちだとビビる。

 斧で1撃のもとに葬り去ると、俺はエバンスに言い寄った。


「いい加減にしろよ! お前の魔法の腕を見たいのに、不意打ちは―――」


 今度は足元から石の壁がせり出し、俺は空に放り投げられてしまった。

 

「やめてー!」


 クルクル回転し、空気イスのポーズで着地、足から全身に痺れが走る。

 ふ……ふふふ。


「ふはーっはっはっは! エバンス君、君はやり過ぎた」


 大股でエバンスに詰め寄る。今度は魔法を使われても良いように油断なんてしない。

 そしてあと1歩の所で、何を考えたのかエバンスは突然、服の前を開けて胸をさらけ出した。

 その胸を見ておれは……迷うことなくエバンスの顔をひっつかみ、持ち上げた。


「な、なぜだ、エロドラならおっぱいに気を取られるはず」


「なぜか? 俺はな……大きいのが好きなんだ! お前のツルペッタンを見ても惑わされる事など無い!」


「酷い屈辱を受けた。エ、エロドラの分際でぇ~イタイタイタイタイ」


「誰がエロドラか!」


「まぁまぁ落ち着けよエロドラ」


「そうよ、落ち着きなさいエロドラ」


「落ち着いてエーさん」


 俺がエロイのは共通の認識のようだ。

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