第2章 第31話 アニタさん、順調に成長す

 デッドリーボア、確か下アゴから生えた牙だけでなく、ひたいからも角が生えた凶暴なイノシシだ。

 声のした方へ行くと、数匹のイノシシが走り回っている。

 全高は1メートルほどだが、止まる事無く冒険者や作業者の周りを走り続け、しかも早い。


「な、なんだかすっごく早いんだけど!?」


「イノシシはアレくらい出ますね。さ、始めますよ」


「い、いつでびょこい!」


 噛んだ。緊張してるなアニタさん。

 今までは後方で矢を放っていただけだし、俺が補助するとはいえ、メインで戦うのは初めてだな。

 小走りでイノシシに近づき、こちらに1匹だけ来ないかと期待していたが、中々来てくれない。


 ん? いま冒険者の剣が弾かれたぞ?

 他の人もだ。

 イノシシに当たっているはずなのに、全く剣が通じていない。

 どゆこと?


 近くにいる1匹にダッシュで近づき、普通に斧で斬る。

 胴体を横に斬ったけど、なんだ? すごく硬い。

 まるで鎧を斬ったみたいな感覚だ。

 倒したイノシシに触ってみると、毛の下、皮が鎧の様に硬化している。

 硬い革鎧みたいな感じ。


 まさかと思って腹を触るが、こちらは普通に柔らかかった。

 あ、聞いた事がある。

 百戦錬磨のイノシシは、数えきれないほどぶつかり合うから、皮が硬くなるって。

 デッドリーボアもそうなのかな。


 じゃあ今からやる事は他の冒険者にも手本になるかな。

 走り回るイノシシの後を追いかけ、アニタさんの方に蹴飛ばす。

 何回も転がり腹がアニタさんの方に向くが、あっという間に起き上がってしまい矢を撃てなかった。


「ちょ、ちょっと! はやいはやい! 早いって!」


「ダメですよアニタさん。向こうは命がけなんですから、こっちも命がけで撃たないと」


「わかっちゃいるけど……もう一回お願い!」


 その後5回目でやっと腹に矢が命中した。

 が、浅かったようで倒せなかった。


「うそぉ! 当たったのに!」


 やっぱり威力が足りないよなぁ。

 気づいてはいたけど、こればっかりは弓の大きさや弦の強さの影響だから、強過ぎたらアニタさんには引けなくなってしまう。

 腕力に限界が見えたら、新しい弓を渡さないとな。


 結局1匹を倒すのに3発必要で、順調、とは言えない状態だ。

 残りのイノシシは他の冒険者が倒してしまった。

 俺がやったみたいにひっくり返してた。


 イノシシを倒し終えて一息ついていると、さらに声が上がる。


「ショートフェイスベアが出たぞ!」


 忙しい日だ。




 熊は2本足で立つことがあるから、アニタさん的にはイノシシよりも簡単に倒せた。

 とはいえ1匹倒すのに5本以上の矢が必要で、やはり威力不足が目立つ結果となってしまった。

 相手が小型なら問題ないけど、このサイズに手こずるようじゃ苦労しそうだな。


「疲れた……」


「お疲れ様ですアニタさん。少々時間がかかりましたが、上手く倒せましたね」


「今までどれだけみんなに助けられてたか、身をもって実感したネ」


「最初はそんなもんですよ。初めから上手くできる人なんていません」


「次はもっと上手くやるネ!」


 


 街に帰ってきたのは翌日の夜だった。

 その後は特に襲撃もなく、街道もキレイになった。


 アニタさんは毎日の訓練のほかに、筋力トレーニングもするようになった。

 やっぱり非力さを痛感したんだろう。

 力が付けば弓を大きく引けるようになり、威力は上がる。

 しかし実は弓を大きく引いても大きく威力は上がらない。


 しなった弓が戻る時にエネルギーロスが大きいのだ。


 それをある程度解消された弓を作ってあるから、機を見てアニタさんに渡そう。




 みんなが別行動を取り始めて2週間ほどが過ぎた。

 あれから1度も会って無いけど、色々なウワサが耳に入ってくる。


 『アセリアがリザードマンの群れから村を救った』

 『アズベルが山に巣くうモンスターを全滅させた』

 『エバンスが沼の主を倒した』

 『ベネットが5人の貴族から求婚された』


 なんか違うのが混じってるな。

 みんなが成果を出しているのを聞くのは嬉しい。

 アズベルの全滅は凄いのは分かる。


「でもリアとエバンスのってどの位なんだろう?」


「リザードマンの種類にもよるけど、ディフェンダーとかスクアターが居たら熟練以上確定だネ。沼の主っていえば巨大なザリガニかな? 確か全長10メートルを超えるって話しだから、熟練以上は確定だネ!」


「ん? 今更上級・熟練者の依頼を終わらせても驚くほど?」


「あー説明不足だった。熟練以上の複数パーティー・10~20人でやる依頼だネ」


「マジで!? スゲー!」


 想像以上に凄い事やってた!

 次に会う時はどれくらい強くなってるのか楽しみだ。

 

 


 さらに10日以上が過ぎた。

 アニタさんも随分と腕が上り、40センチ以上ある矢を完全に木にめり込ませる様になった。

 次の段階だなこれは。

 アニタさんの武器はその都度強化はしていたけど、店で売ってる弓より良いモノ止まりだ。

 メイアも随分と認めているから、魔法効果の付いた弓でも使いこなせるだろう。


 新しい弓を渡し、早速試し打ちをしようとしていると、宿屋の扉が開かれた。


「ただいまユーさん!」


 リアが俺の胸に飛び込んできた。

 

「おかえり、リア。元気そうでよかった」


 うおおおーーーー! リアだリアだリアだーーー!!

 10年ぶりか!? そんな気分!


 さっそく再会のキスを……ん?

 感動の再会も冷めやらぬ中、リアが俺から離れて頭を下げた。


「ユーさんお願い! ルリ子さんのドラゴンと戦わせて!」

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