第2章 第23話 弟子、増殖

「どうしてここに居るんだ! エリクセンの受付はどうしたんだ!?」


「そんなの辞めてきたに決まってるでしょ! 覚えてるわよねーアズベル、誰か仲の良い人が結婚したら私と結婚するって言ったよネ!」


「いや、まぁ、なんだ、そのぉ~うん、ぃった……かな」


 なになに? 何の話ししてるの?

 いきなり置き去りな展開に体を起こして見ている。

 腰よりも下に真っ直ぐ伸びた長い髪は青みのある銀色。瞳も薄い青色の女性。

 見た事あると思ったら、エリクセンの街のギルドの受付のお姉さんじゃないか。

 なんかアズベルに対してだけフランクだと思ったら、恋人だったのか。

 どうりでアズベルも待合スペースのお茶を用意するわけだ。


「アズベル、年貢の納め時」


「おいエバンス! 誰も結婚するとは言ってないだろ!」


「ヘー、結婚する気ないんだ? 約束と違うネ!」


「いやまて、まってくれアニタ、結婚するに決まってるじゃないか! 男アズベルに二言はないぜ!」


「本当に? じゃあアレ言って」


「え、いまここでか?」


 アニタさんは何も言わず、微笑んでいる。

 諦めたように1回咳ばらいをして立ち上がるアズベル。

 そして……。


「俺にとって君は太陽だ! 君はいつも光り輝いていて俺を照らしてくれる女神さまだ! 君と一緒に居たら他の女性はみんな霞んで見える、君と一緒に居られるなんて俺は幸せ者だー!」


「アズベル、そんなに私の事を好きなのね! 結婚しましょう!」


「「二人で一緒に夫婦の太陽になりましょう!」」


 二人で抱きしめ合って空を指差している。

 そこ天井ね。


 ……

 …………

 ………………

 ハッ! いかんいかん、あまりの衝撃に場が凍ってしまっている。


「アニタ、これを」


 そう言ってアニタさんの左手薬指に指輪をはめた。

 続いてた!





 アズベル・アニタ夫妻が誕生し、なんとな~く拍手をしている。

 間が悪いったらない。


「おめでとう2人とも、出来れば話しを戻したいのだけれど、いいかしら?」


「あ、ごめんねベネットさん、何の話しをしてたの?」


「ユグドラが人を殺せなくなったのよ」


「なにか問題があるの?」


「何ってお前、盗賊が出て来ても殺せないんじゃ、護衛も討伐も依頼を受けられないだろうが」


「なんで? 護衛も討伐も殺さなくても達成できるよ?」


 あれ? なんか本当に疑問に思ってるぞ? ギルドの受付がこんなこと言ってるけど、本当に殺さなくてもいいのか?

 でも討伐は?


「あーみんな勘違いしてるんだネ。護衛はもちろん、討伐も相手の無力化が目的だから、別に殺す必要は無いんだけどネ」


「じゃあ賞金首はどうなんだ? 殺すんだろう?」


「それは執行官の役目でしょ、冒険者の役目は賞金首を捕まえてくることで、殺すことじゃ無いからネ?」


「じゃあじゃあ! ユーさんは盗賊を殺さずに捕まえられれば問題ないんですか!?」


「全然問題ないわよ。盗賊が暴れて逃げたとか、返り討ちにあうとかが無ければ、だけど。まぁあなた達なら問題ないよネ?」


 全員が順番に顔を見る。

 まぁまず盗賊に後れを取る面子では無いな。


「えっと、殺さなくていいの? ホント? 俺、役立たずじゃないの?」


「人と戦うのが大丈夫なら問題ないと思うけどネ」


 訓練では相手をコテンパンにしてたから、戦うのは大丈夫だ。

 問題なのはリアみたいな人を増やさない事だし。


「問題……ないね」


 今度は俺以外が息を吐いた。

 

「あー、ごめん心配かけて」


「いいよ、別に」


 そう言ってリアが俺の横に座って腕を組んだ。

 すると、なぜかアニタさんがアズベルと腕を組んだ。


「ん? どうしたんだ?」


「なんか羨ましいからマネしてみた。ほらほら、次のセリフは?」


「セリフ? なんだそれ」


「ゴメン心配かけて、いいよ別に、に決まってるでしょ!」

 

 頭を平手打ちした。


「イテッ、分かるかそんなもん!」


 この2人、夫婦漫才だ! しかもどつき漫才だ!

 問題が解決したのは嬉しいけど、全部持っていかれた気分。


「それでアニタはどうするの? エリクセンに戻るのなら送るわよ」


「それなんだけどね、ユグドラさんに弟子入りする事にしたから」


「おいおい、お前は昔も冒険者になろうとしてダメだっただろ」


「昔の話しだよ! 今もトレーニングは続けてるから強くなってると思うけどネ」


「ですがアニタさん、他の冒険者の手前特別扱いはできません。王都の外周を1日で走るくらいの体力が無いと訓練は受け付けられません」


 武術大会の上位連中が1週間かかってやっと出来たレベルだ。

 トレーニングしてるとはいえ、流石に無理だ。


「それなんだがなユグドラ、アニタは体力と身体能力は高いんだ。だから喧嘩は強い」


「喧嘩じゃないよ! 格闘だよ!」


「剣の練習をしてるんだが、全くこれっぽっちも才能が無いんだ。だから冒険者は諦めたんだ」


「じゃあ私と同じく、ルリ子さんの弟子になって魔法使いですか?」


「魔法は……その……」


「アニタは魔法の才能も全く無い!」


 アズベルが胸を張って自慢げに言ってる。

 反対なんだな、アニタさんが冒険者になるの。


「えっと、じゃあ一体何を教えれば?」


「どうしよっか? エヘ♪」


 エヘ♪ じゃねーよ。

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