第2章 第24話 嫌よ嫌よも好きのうち

 ギルドに併設された訓練場で色々試したけど、結局アニタさんが得意なのは格闘技だけだった。

 格闘か……現実問題としてモンスターと格闘戦なんて自殺行為だ。

 人間サイズのモンスターですら身体能力では勝負にならない。

 大型に殴り掛かってもダメージなんて雀の涙だ。


「そんなに身体能力が高いのに、どうしてナイフすら使えないのか分かりません」


「そんな事言わないでさ、ほらいっぱい武器あるでしょ? どれか1つくらい使えそうな物が」


「全部試しました」


「そ、そんなことないよネ?」


 無言の肯定を返す。

 不思議だ。身体能力が高ければ武器の扱いも上手いと思ってたけど、別物なのかな。

 一応他にも武器が無いか探してみよう。


 メニュー画面のバッグを漁っていると、試してない武器が1つあった。

 弓矢だ。

 どうなんだろう、一応試してみよう。


「弓って使った事ありますか?」


「弓? なんか性に合わないから使った事なかったネ」


 あまり大きくない通常サイズの弓矢を取り出して渡す。


「嫌そうな顔してますけど、それでダメだったら冒険者は諦めてもらいますからね?」


「う……」


 しぶしぶ受け取って、丸いターゲットがかけられた人形に向き直る。

 一応基礎知識はあるようで、構えから発射までスムーズに進んだ。

 射出された矢は真っ直ぐ飛んでいき、人形の足元に刺さった。


「あれ? 弱かったのかな。もいっかい試してみるネ」


 人形までの距離は15メートルほど、初心者が当たる距離じゃないけどね。

 ……ん? 足元に刺さった? 左右のズレがないぞ?

 そして2本目が発射されると、今度は的にカスるように人形に当たる。

 まぐれ……じゃない?


 3本目が撃ち出され、矢は軽い弧を描いて的の真ん中に刺さる。


「「ええーー!!」」


 まさかと思ったけどアニタさん、弓の才能があるんじゃ?

 他のメンバーも、たまたま見学してた人もビックリしてるし。

 いやぁ~、これは意外だ。

 でも俺じゃわからん! メイアの出番だけど、流石に人前に出すわけにはいかない。


「ん~、人気ひとけのない所に行きたいな」


「え、なになに、お姉さんを人気のない所に連れて行ってどうするつもりなのかな?」


「そりゃーもちろん足腰立たなくなるまでヤリますよ」


「ま! ユグドラさんったら大胆!」


「善は急げと言いますから、早速行きましょう。あ、みんなは日課をやっといてね」


 俺はゲートを出してアニタさんの手を引く。


「あ、あれ? あの、その、あ、アズベル、アズベルー!」


「気を付けていって来いよ」


 手を振るアズベルに片手をあげて答え、アニタさんをお借りした。


 △▽▲▼△▽▲▼△▽▲▼△▽▲▼


 街に帰ってきたのは日が落ちてからだった。


「ただいま」


 ギルド横の訓練場に戻ってくると、背負っていたアニタさんをベンチに座らせた。

 座らせたがそのまま横になってしまう。


「酷い……あんな、あんな無理やりだなんて……」


 シクシク言っているが、涙は流れていない。

 思ったより強いなこの人。


「おーお疲れ。どうだったアニタは」


 どうやら片づけをしていたらしいアズベル達が寄ってきた。

 リアとベネットはアニタさんの頭を撫でている。


「相性もいいし、嫌がる事もなく全て受け入れてくれたよ。なんだかんだとアニタさんもノリノリだった」


「そうか、じゃあアニタは冒険者に?」


「ま、そこらへんはアズベルに任せるよ。お前が嫌だったら連れて行かないし」


「嫌なのは嫌なんだが、実のところ武器を使えないからダメだと言ってたんだ。弓が使えるならあいつの夢をかなえてやりたい」


「夢だったの?」


「ああ、アイツは元々俺の追っかけをしていてな、本当は俺と一緒に冒険に行きたかったらしいが、武器が使えなかったから、せめて冒険者とかかわれる受付になったんだ」


「へーそうなんだ。って追っかけ? アニタさんを追いかけてたのか?」


「ちげーよ逆だ、アニタが、俺の、追っかけしてたんだ。言っとくけどな、俺モテるんだぞ?」


「ふーんそうなんだ。アニタさんって変わり者なんだね」


 鼻くそほじりながら聞いてた。


「おま! まあいい、冒険者になれるのなら一緒に旅をしたい。頼めるか?」


「ん、分かった」


「メイアはアニタの事なにか言っていたか?」


「筋が良いって。今すぐ実戦は無理だけど、パーティーで保護しながらの冒険なら連れて行っていいってさ」


「そうか。ならあいつも喜ぶ」


「特に接近された際の防衛力が素晴らしいって」


「格闘技が意外なところで役に立ったな」


 そしてメイアの弟子が誕生し、戦闘系の4人には弟子が誕生した。

 あ、ベネットは俺の弟子らしい。

 斧は使ってないけど、戦い方を参考にするから弟子にしてちょうだい! って。


 チョット嬉しかった。


 


 その日は食事を取って宿で休憩した。

 明日は王都へ戻るルートの馬車護衛依頼を受けるつもりだ。

 リアの実戦訓練のつもりが、パーティーメンバーが増えちゃったな。

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