第2章 第13話 オネェの陰謀
「あぁ~ら、こちらがユグドラちゃん? はじめましって、ワタシは王都の受付グレゴリィよん」
王都オンディーナに入ってからの人ごみや規模の大きさに緊張しまくっていた俺は、オネェを見て意識を失いかけた。
何とか踏ん張って、顔を抑えて首を振る。
落ち着け、落ち着け俺。日本でだって(ネット上では)見た事があるはずだ。
それがリアルに現れたくらいなんだ、俺は(ネット上で)色々と耐性があるんだから、これしきの事で取り乱す訳が無いじゃないか。
1回深呼吸をしてあらためてオネェをみると、背景がピンクのハートで投げキッスをしてきた。
ごめんリア、俺は
そのまま意識を失い背中から倒れた。
意識を取り戻した時は長椅子に寝ていた。
そして見覚えのあるものが目に入る。布が目の前にあり、陰になって少し暗い。
うむ、これはリアの双丘だ。
つまり膝枕してくれてるんだな。
……!
そのまま体を起こすと顔面に柔らかい布が当たる。
「きゃっ、ゆ、ユーさん起きたの?」
「わ、リア? あ、あれぇ? 前が見えないぞ?」
「ちょ、ちょっと待ってね」
リアが上体を後ろにさげ、自分の胸を両腕で押さえると、やっとリアの顔が見えた。
膝枕をしてもらうと顔が見えない。
それを欠点とするか利点とするかは意見が分かれそうだ。
「大丈夫? いきなり倒れたけどどうしたの?」
ん? ああそうか倒れた理由か。
下から顔で持ち上げた事を何か言われると思ってた。
頭を膝に戻した。
「倒れた直接的な理由はあの受付の人かな……初めて見るタイプだった」
「あー……うん、凄く個性的な人だね」
スゴイなリア、アレを個性として受け止められるのか。
普通のオネエならテレビでも見るけど、あそこまでの人はネットでも見た事ないぞ。
いや、オネェと言っていいのか? あれ。
「でも、そうだね、間接的な理由は王都に来てからの人ごみで、緊張し過ぎてたからかな」
「ユーさんって人ごみが嫌いな人?」
「嫌いというか、苦手かな。身動きがとりにくいから」
「うん、それは凄くわかる」
そう言って頭を撫でてくれた。
あふん、恋人みたいだ~って、夫婦だろ。
「ん? 起きたのか?」
「はい、今ユーさんが起きました」
「じゃあ話しに加わってくれ」
アズベルが俺達のイチャイチャを邪魔する!
「あら残念、目覚めのキッスが出来なかったわね~」
その声に俺の体が固まる。
オネェや……声を聴いただけでわかる……なんて事だ、この声が脳裏に焼き付いてしまった。
しかしキッスなんてされたくないから起きよう。
体を起こすと木製の長テーブルに長椅子、テーブルの上には小さめのコップが置かれていた。
パーティーメンバー全員がイスに座っていて、オネェは俺の正面に座っている。
どうやらギルド1階の待ち合わせスペース、その一角にある扉の無い個室のようだ。
「さてユグドラ、王都オンディーナに到着したがどうする? 依頼を受けるか?」
椅子に座り直して周りを見回すと、全員が俺を見ている。
ああそうか、一応俺がリーダーになるのか。
「いや受けないよ。まずはリアを鍛えたいし、お前たちも本格的に訓練を開始したいだろ?」
「あらそうなの? あなた達にお願いしたい依頼が山ほどあるのに」
「すみません、王都に来た目的が魔法ギルドなもので」
「そういえばさっき言ってたわね、アセリアちゃんが魔法使いになるって」
「はい。まずはリアに基本的な魔法を覚えてもらって、ついでに皆も鍛えて、それから魔法ギルドに登録して、その後になりますね、依頼を受けるのは」
「ふぅ~ん、泊まる所は決めてあるのかしら?」
「いえ、まだです」
なんだ、オネェが少しニヤけたぞ。
「それなら冒険者ギルドの寮を使うと良いわ。部屋はいっぱいあるし、冒険者が利用するのは無料なのよ」
パンと両手を合わせ、とてもにこやかに提案をしてくれた。
いや~な予感がするな。
「バールドの街でも使ったが、3階にある部屋か?」
「ええそうよ。アズベルちゃん達以外にも何人か使ってるけど、基本的に2人~4人部屋だから、部屋割りはそちらで決めてちょうだい」
「そりゃ助かる。
あれれー? 話しが勝手に進んでいくぞー?
ちょっと止めないと。
「その前に、俺達に何をやらせるつもりですか?」
静まり返ってしまった。
空気を読まない発言をしたからかな……なんか罪悪感。
「別に何もしてもらわないわよ? いやねぇユグドラちゃんったら、ちょっと他の子の面倒も見て欲しいなって考えてなんかいないわよ~?」
考えてるジャン!
ダダもれジャン!
「まぁ少しくらいなら良いですけど、あくまでも“ついで”ですからね」
「もちろんよ~、愛してるわユグドラちゃん! ん~~っまっ!」
また投げキッスをされて意識を失いかけた。
神獣ヴォルフの次に強いぞこのオネェ!
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