第2章 第9話 大所帯になっちゃった

「王都に行きたい。王都に行って冒険者になりたい!」


 目を逸らさず真っ直ぐに俺の目を見ている。

 冗談や酔狂でなく、本当にそう思っている顔だ。


「リア、冒険者は命が安い仕事だ、そんなモノにリアをさせる事は出来ない」


 昨日のモンスター集団討伐でも、冒険者一人当たりの報酬は金貨10~50枚(10~50万円)で、俺にしても4つ首ドラゴンや各モンスターの買取も含めてやっと1万枚だ。(ちなみに神獣ヴォルフは1千枚)

 今回のモンスター討伐では死者こそ出なかったが、普通ならば大量に死んでいる。

 その命の価格が金貨50枚だ。


「お願いだリア、命を粗末にしないで」


 1度は死んでしまった事で、死への恐怖が無くなってしまったんだろうか。

 俺は……1度死んでもう2度と死にたいとは思わないのに。


「違うのユーさん。自分でも分かってる、私がユーさんの弱点になってるって。だからお願い、私を弟子にして、戦い方を教えて欲しいの!」


 確かにその通りだ、リアが利用されたのは2回。

 どちらとも命に別状はなかったが、片方は気付くのが遅ければかなり危険な状態だった。


 実際の所リアの考えは正しく、なおかつ俺の考えとも一致している。

 ラスボスに勝つための方法、それは強い仲間を見つける事だ。

 しかしそのラスボスは俺の数十倍の強さがあるらしく、俺が数十名相当の戦力を揃えるのは不可能に近い。


 いや不可能だろう。


 そんな無謀な考えにリアを巻き込むのか?

 ブラスティーと戦っても勝ち目はうすい。

 それはつまり死を意味する。

 考えるまでもない。


「ダメだ」


 リアが1回大きく深呼吸をして、再度俺の目を見て口を開く。


「今ユーさんが考えてた事に答えるね。バカにしないで!」


 両手で俺のほおを挟むように叩き、睨みつけてくる。


「確かにあの人と戦ったら私は死んじゃう。でもそれはユーさんも同じでしょ! ユーさんが死ぬかもしれないのに、私には何もするなっていうの? 私達は夫婦。夫が死地に向かうのに手をこまねくだけなんて絶対にイヤ!!」


 俺は自分の事しか考えていなかった。

 俺が死んでもリアが生きていればいいと。

 でもそれはリアにも言える事だった。


 でもリアは俺と少し違う。

 『生きるも死ぬも一緒』


 どちらか、ではなく、どちらも、だ。

 やっと足並みが揃ったから出てきた言葉だろう。


 贅沢な、望みだな。

 でも……!


「リア、すごく辛い戦いになる。一緒に戦って欲しい」


「ううん、一番つらいのは一人になる事だよ。2人で居れば、辛い事なんて無い」


 頬に当てられているリアの手を力強く掴み、互いの目を見て首を縦に振る。


「ありがとうユーさん」


「いや、俺の方こそありがとう。1人で突っ走る所だったよ」


 どうも独りよがりで考えてしまうのがクセになってるな。

 やっぱ引き籠ってたからか!?

 ん? そういえば王都に行く必要ある?


「ねえ、どうして王都に行きたいの? 冒険者だったらこの街でも良いんじゃない?」


「王都オンディーナにはね、この国で唯一の魔法ギルドがあるの。私、魔法使いになりたいから」


「そうだったんだ。魔法ギルドがあるなら登録したいもんね」


「色々な特典もあるみたいだし」


 ほうほう、それは良いね。是非登録しよう。


「さてお2人さん、そっちの話しがまとまったところで、こっちの話しも聞いてもらおうか」


 アズベルが1回手を叩き、身を乗り出した。


「実は昨日こいつらと話してたんだがな、しばらくお前たちと一緒に行動する事にしたんだ」


「え? なんで?」


 温かいお茶を飲みながら、俺とリアは首をかしげた。


「知りたいか?」


「いや? 別に」


「聞けよ! いい勝手に喋る! 俺達は前衛組はバンチョウの、後衛組はルリ子に弟子入りする事にした。だからお前たちに付いて行く」


 弟子? 番長とルリ子の? どこからそんな話しが出てきたの。

 えっと、いきなり大所帯に?

 てかなんでそっち全員うなずいてんの?


「え? なにそれ決定事項なの?」


「ああ、王都だろうがチグリフォーンだろうが付いて行くゼ」


「リア知ってた?」


「初めて聞いた……」


 つまりアレですか、オイラはお一人様(6人パーティー)から、いきなり9人パーティーになったのですか。

 1.ユグドラ

 2.アセリア 

 3.アズベル

 4.小型の盾を持つ戦士・アルファ

 5.大型の盾を持つ戦士・フレディ

 6.短剣2本持ちの女性・ケンタウリ

 7.白いローブの回復役・クリスティ

 8.無口な魔法使い少女・エバンス

 9.若く大型の剣を持つ・ロバート

 の、総勢9名での冒険が始まる事になった。


 こんなに沢山いたら、全員が馬で移動するのも大変だなぁ……しずかで馬車でも作ろうかな。

 あれ? なにか違和感があるぞ? 番長とルリ子の弟子が増えたのは良い……!?


「俺は? 俺の弟子は居ないの??」


 全員が目を逸らす。ヲイ!


「わっ私! 私がユーさんの弟子だから! 魔法はユーさんに教えてもらうから!」


「リア……よし! 俺の1番弟子はリアだ!」


「ちょっとまてー! アセリアはルリ子の弟子だろ!? バンチョウの1番弟子は俺だ!」


「ちょっと待て、ルリ子の1番弟子は私だ」


 アズベルとエバンスが1番弟子争いに参戦した。

 賑やかな旅になりそうだ。

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