第2章 第8話 次の目的

 「あっははははは、コレ美味しいねー」


 ふと聞き覚えのある声がした。

 リアも気が付いたようで、2人で周りを探すと……いた。


「あ、お兄しゃんとお姉しゃんだ! 2人とも飲んでる~? このジュース美味しいよ~、にゃはははは!」


 冒険者に混じって酒を飲んでいるのは、宝石と書いてジュエルと読む少女だった。

 慌てて走り寄り、リアがジョッキを取り上げた。


「お前、未成年じゃないのかよ」


「え? 何いってんのお兄ひゃん、ジュースって言ってんじゃん」


「あ、ユーさん本当にジュースだよコレ」


 リアがジュエルから取り上げたジョッキを飲むと、どうやらオレンジジュースだったらしい。

 紛らわしい!


「もー本当にお兄さんにはドキドキさせられまくりだよ! アレが誰だかしってるの!?」


「誰って、ブラスティーだろ?」


 ジュエルを挟んで俺とリアが座り、ジュースの入ったジョッキを返した。


「そうだけどちがくて! お兄さんとあいつじゃ勝負にならないって事!」


「ああ、俺の数倍は強いな」


「数倍どころじゃなくて、数十倍は強いんだよ? あいつは」


「げ、そこまでかよ」


「……なんで驚かないの?」


 俺があまり驚かず、普通に酒を飲んでいることが不満のようだ。


「どっちみちアイツと勝負しても勝てないからな、どれだけ差があっても驚かない」


「えぇ~? あいつに命狙われてても?」


「選択肢には入ってたな、死ぬって。でも少なくとも直ぐには殺しに来ないだろ? だからその間に対策を考えるさ」


「対策って、数十倍だよ数十倍! 勝てると思ってんの!?」


「ラスボス相手ならそれ位は当たり前だろ? そもそもラスボス戦で主人公の方が強いゲームなんてないさ」


「ゲームじゃないってーの!」


「バーカ、ゲーム感覚で考えなきゃやってられるかよ、あんな化け物相手に」


 感覚的な強さで言うと、ゲーム時代に倒せなかった古代龍エンシェントドラゴンを同時に10匹相手にする感じかな。

 だとしても、勝つ方法はある。


 問題はそこまでってくれるか、って事だ。


「じゃあ勝てる方法があるの?」


「ある、とは言いきれないが、手段はある」


「どんなの? どんなの?」


「お前には言えん。敵ではないけど味方でも無いからな」


「ねぇねぇお兄さぁ~ん、教えてよぉ~」


 誰に教わったのか、ジュエルはクネクネとしなを作って腕に抱き付いてきた。

 う~ん、残念だが無いな。

 美少女には間違いないが、俺の趣味じゃないし。


「だーめ、秘密を共有するのは味方だけだ」


「ケチ!」


「じゃあ俺の味方になるか?」


「やだ、まだまだ遊びたいんだもん」


 こいつの遊びが子供の遊びなのか別の遊びなのかが気になるが、少なくとも敵ではない……はずだ。


「ま、いーや。その内わかるんでしょ?」


「そうだな、その内な」


「じゃ、そーゆーことで、私かえるね!」


 そう言って以前と同じように、何の前触れもなく姿が消えた。

 魔法とかじゃなく、システムで移動してるんだろうけど……ある意味一番警戒しなきゃいけないのはあいつだ。


「ジュエルちゃんって、本当に神出鬼没だね」


「ホント、一体何を考えているのやら」


その後はひたすら騒いでパーティーはお開きになった。




 翌朝、ギルドの3階で目覚め、同じベッドで寝ているリアを眺める。

 生きてる……当たり前だけど。

 手を握りしめて眠りについたけど、もうリアが逃げる事は無い。

 

 色々あった、いや、あり過ぎたけど、やっと元通りになれた。


「ん……ゆーさん……? おはよ~……」


 目をこすりながら俺を見ている。


「おはよう、リア」


「ん……えへへ」


「どうしたの?」


「前と、いっしょ」


「うん、そだね」


 ゆっくりとした時間、2人だけの時間。

 それをさえぎるように扉がけたたましく叩かれた。


「うおーい朝からイチャついてんじゃねーぞ。さっさと降りて来い」


「いいい、イチャついてないわい!」


「いから早く出てこい」


 アズベルは横暴だ! 我々は断固抗議するぞ!


「ヘスティアが朝飯作ってくれたから、冷める前に来いよ」


 ほほぅ? それは興味深いですね。

 急いでいきましょう。


「ヘスティアさんのゴハン美味しいから、早く行こ?」




 2階の会議室に食事が用意してあり、前に使った部屋とは違ってイスとテーブルが並べられていた。


「おう来たか。さき食ってるぞ」


 部屋にはアズベルパーティーとヘスティアさんがいた。

 俺とリアもイスに座って頂いたが、本当に美味しい。

 悔しいけどリアの手料理よりも美味しかった。


 食事が終わるとヘスティアさんが頭を下げてきた。


「ユグドラ様、今回の件、まことにありがとうございました。そしてアセリア様をさらわれた事、申し開きのしようがありません」


 深々と頭を下げて謝罪している。


「いえいえ、ちょっと大変でしたけど、何とかなりましたね。それにリアがさらわれたのだって、冒険者になりすましたあの人でしょ? どうしようもないですよ」


 あの優しい冒険者が間者だったなんて、気付きようがないって。

 それにあの人、リアに危害を加えるつもりは無かったし、最終的に助けてもらったもんだし。

 でも敵なんだよなぁ。


「それよりもユグドラ、お前どうするんだ? 王都へ行く必要がなくなったろ?」

 

 アズベルの疑問もごもっとも。

 リアが喋れるようになった今、王都へ行く必要が無くなってしまった。


「そうなんだよね、このままエリクセンに戻ってもいいけど、ここまで来たんだから王都へ行ってみたい気もするし。リアはどうしたい?」


 リアに訊ねると、なんと悩むことなく即答した。


「王都に行きたい。王都に行って冒険者になりたい!」

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