第53話 目の前での入れ替わり

「ストーンウォール!」


 遺跡からあふれ出すモンスターをせき止めようと、高さ2メートルの魔法の石壁で遺跡を囲った。

 少しでも足止めが出来れば……!


「早く! 今のうちに逃げて!」


 流石に魔物があふれ出したのを目の当たりにして、兵士も冒険者もわき目もふらず逃げ出してくれた。

 これで少しは時間が稼げるか……なぁ!?


 全然ダメだった。モンスターはまるで巨大な津波の様に壁をよじ登り、もしくはあふれ出す様に次々と飛び降りてくる。

 そしてストーンウォールが破壊され、一気にモンスターの波が私に押し寄せた。


「テレポート!」


 地面に居たら波に飲まれそうだから、空に移動した。

 空から見た遺跡は完全に破壊され、ただただ魔法陣からおびただしい量のモンスターを吐き出している。


「マジ……? え? あれが大型?」


 遺跡があった場所、丁度4つの尖塔せんとうの中心から巨大な長い何かが現れた。

 それは黒い鱗に覆われ、もたげた首をゆっくりと上げた姿は、そうドラゴン。

 ただのドラゴンじゃない、長い首が4つある、まるでヒュドラの様なドラゴンだった。


 4つの首と巨大な胴体、そして不釣り合いに小さい翼をもつ漆黒のドラゴンだ。

 尖塔よりも高い位置に頭があるから、きっと高さは60メートルオーバー。

 あははー、ルリ子のドラゴンの倍じゃん!!


「見た事ないよあんなの。なにあれ」


 首の一つと目が合った。

 と同時に赤黒い光が私に飛んでくる!


 瞬間的にテレポートで避けたけど、ちょっと! いきなり何よソレ!

 口を開けてたから、どうもアレはドラゴンのブレスっぽい。

 赤黒くてぶっといレーザーってずるくない!?


「無理! むりムリ無理!」


 地面を見ると、逃げ遅れた兵士や冒険者が襲われてる。

 襲われてる訳じゃないね、波に飲み込まれてるね。

 他の人達は見えないけど、無事を祈るっきゃない。


 モンスターの大群が向かう先には、バールドの街がある。

 急がないと!


再呼び出しリ・コール




「あいた!」


 変な体勢でリ・コールしたもんだから、背中から床に落ちた。

 ここはバールドの街のリアちゃんの部屋。

 リアちゃん、いるかな。


 あ、ベッドに座って枕を抱えて驚いてる。

 そりゃそーだよね。


「ごめんねリアちゃん驚かせて。あと、今から見る事は後で説明するから、騒がないでね」


 立ち上がってスカートをはらう。


「キャラクターチェンジ」


 キャラクターチェンジ

 ⇒ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ディータ⇒ユグドラ◆

 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 

「ただいま、リア」


 リアは大きく目を見開いていた。

 むり……だったかな。もっと普通の仲の時だったらまだマシかもしれないけど、今の関係じゃ怖がられるかもしれない。


「ごめんね、今急いでるから、詳しい話しは後でするよ」


 扉を開けて部屋を出た。

 部屋を出て、俺はほっとしていた。

 なに、王都に着いたら別れるつもりだったんだ、少し早くなるだけさ。


 階段を降りてヘスティアさんに報告へ向かった。




 階段を下りる途中で何度か地響きが起こった。

 モンスターの大群のせいか、4つ首のドラゴンの攻撃か。


「ヘスティアさん、急ぎの報告があります」


「ユグドラ様? お早いお帰りですが、今の地響きは何事でしょうか?」


 遺跡でのことを説明し、モンスターの大群がこの街に押し寄せている事を説明した。

 もちろん4つ首のドラゴンの事も。


「そのような事が!? それではただちに緊急警戒に入ります。軍への連絡も……完了しました」


 なにかカウンターの下で操作していたようだけど、多分緊急事態を伝える何かだろう。


「それではユグドラ様、ただいまよりバールドは完全閉鎖され、対モンスター迎撃体制へと入ります。つきましてはユグドラ様には詳しい説明をお願いしたいのですが、よろしいですか」


「ええ、構いません。ただちょっとだけ、3階に行かせてください」


「分かりました。それでは準備を整えております」




 3階のリアが居る部屋の前に来た。

 ドアをノックする。


「リア? 入ってもいい?」


 少し間をおいて、ゆっくり扉が開かれた。

 リアは下を向いて、俺と目を合わせないようにしている。


 俺が部屋に入ると、リアはベッドに座って枕を抱えた。


「さっきの事なんだけど、あの、女の子が俺に替わった奴」


 強く枕を抱きしめ、俺を上目遣いで見ている。


「俺ね、自分でも理由は分からないけど、6つの体を持ってるんだ。ユグドラである俺が1人、さっきのは6人のうちの1人でディータって言うんだ」


 リアは目を逸らさずに俺を見ている。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

 ⇒ディータ

  メイア

 ◆ユグドラ⇒ディータ◆

 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「こんな感じでね、好きな時に交代できるんだ~」


 少しおどけてスカートをつまんで挨拶をしたけど、リアちゃん、怯えてる。

 ……そりゃそうよね、人格が変わるどころか性別も何もかも変わっちゃうんだし、私が世界で1番怪しい化け物だよね。


 こりゃムリ、かな。


 キャラクターチェンジ

 ⇒ユグドラ

  ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ディータ⇒ユグドラ◆

 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「リア……黙っててゴメン、でもだますとかそんな事を思ってたわけじゃなくて」


 手を伸ばすとリアはベッドから逃げて転げ落ち、部屋の隅で枕を抱えて震えている。

 これが……俺が一番恐れていた事だ。

 化け物じみた戦闘能力に化け物じみた入れ替わり。

 普通の、反応、だ。


「リア、今この街にモンスターの大群がせまってる。俺は今から迎撃に向かうけど、街の中には1匹も入れない。だけどリアはギルドの指示に従って避難していて?」


 ただ、ただ震えている。

 俺の声は、届いていない。


「騒動が終わったら……ちゃんと王都へ向かって欲しい。そうしたら、きっと喋れるようになるから」


 俺は部屋から出て行った。

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