第54話 さーて、久しぶりに暴れるとしようか

 ギルドの1階に降りるとすでに冒険者達は出発した後だった。

 早いな。やっぱり街が防壁で囲まれてるって事は、こういう事を想定しての事なんだろうか。


「ヘスティアさん、リアがまだ3階にいます。避難場所は決まっていますか?」


「はい、今は戦闘員を集めるため避難はしておりませんが、一通り終われば避難行動に入ります」


「そうですか、では全てが終わった後、これをリアに渡してください」


 バッグから小さなリュックサイズの革袋を出してカウンターに置いた。


「これは?」


「王都への移動費と治療代です。1千G(1千万円)あれば足りるでしょう。もし足りなければ後で払います」


「ユグドラ様、残念ですがこれはお預かりできかねます。ご自分でアセリア様を王都まで送り届けてくださいまし」


 ああ、俺って死亡フラグ立ててるかな。


「大丈夫ですよ、死ぬつもりはありません。ただ、もう無理だと思いますから」


「そのようなお顔で言われましても信用できません。何があったか存じませんが、気を確かに持ってください」


 そのような顔? 俺って今どんな顔してるんだろう。


「いえ本当に死にません。少なくともリアが治るまでは近くに居ます。だから、お願いします」


「本当でございますね?」


「ええ。それじゃ俺も行ってきます!」


「ご武運を」


 心配をかけた様だから、精いっぱい元気よく挨拶して出てきた。

 みんなはどこに居るのかな。




 冒険者や兵士たちは門の外に集合していた。

 ざっと見た感じ300名といった所かな。

 これだけいれば後始末は出来るだろう。

 俺が暴れた所でどうにかなる数じゃないよな、アレは。


「おいユグドラ、こっちだ」


 アズベルの声がした。

 大きめのテントから体を半分出して俺を手招きしてる。


 テントに入るとイスを勧められた。

 テントの中にはアズベルと数名の冒険者、数名の兵士と指揮官らしき人がいた。


「よし、これで一通り揃った。おい、なんて顔してるんだお前は、なにがあった」


「え? 別に何もないよ?」


「何もないって顔じゃないだろう。この世の終わりみたいな顔しやがって、お前まで負けるつもりで居るのか?」


「負けるつもり? ああ、今迫ってるモンスターの事か。俺は負けるつもりは毛頭もうとうないよ、確実に全滅させるから」


「心強い言葉だが、じゃあなんでそんな顔してるんだ」


「ん、大丈夫だよ」


 そうして対モンスター会議が始まった。




「大丈夫だよ、今日1日でモンスターを1割まで減らすから、残りをみんなで迎撃して欲しいんだ。あ、空を飛んでるやつは最優先で倒すけど、一応警戒はしておいて」


「おい、君が強いとは聞いているが、いくら何でも無茶だ。敵の数は数万を超えているんだぞ」


「報告によれば人型・獣型・大型はもちろん、ワイバーンやグリフォンも確認されている。1日どころか一ヶ月単位で対処する相手だ」


「その辺りはドラゴン3匹を使いますし、魔法でも対応して、足りなければ召喚魔法を使います」


 ざわめきが起こった。


「ルリ子なら大量のモンスター相手でも即時対応可能ですし、ワイバーンやグリフォンなら相手にはなりません。ただ数が減った時の小回りが利かないので、その時は別の奴を呼びます」


「お、おいユグドラ、どういう意味だ? お前って“あの”ルリ子と知り合いなのか?」


 アズベルが驚いてる。まあそうだよね、驚くよね、街の入り口を木っ端みじんにした奴だし。


「知り合いっていうか、俺なんだ」


 全員の動きが、言葉が止まった。

 今回は隠しきれないから、このまま話してしまおう。

 それだけ数が多すぎるんだ。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

 ⇒ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ユグドラ ⇒ ルリ子◆


 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。


「こういう事さね。アタシの話しは覚えているね? 分かったら街の前にしっかりと陣を張るんだ。その時間はしっかり稼いどくから、頼んだよ」


 指揮官らしき奴が椅子から転げ落ちてテントの隅まで転がった。

 震えながらアタシを指を差してる。


「ど、どどどドラゴンテイマー!」


 ああ、どうやらアタシを見た事がある様だねぇ。

 他の連中は驚いてはいるが、そこまでの反応じゃないな。

 それなら話しが速い。


「アタシが手を貸してやるってんだ、街の護りに失敗したらお前をドラゴンのエサにしちまうぞ」


 ワザとらしく倒れてる指揮官の前に立って顔を近づけた。

 カクカクと首を縦に振ってる。頼りないがまあいいだろう。


「じゃ、しっかりな」


 テントを出てモンスターが迫ってくる方を向く。

 ここからでも砂煙が見えるねぇ。馬で4日の距離だが、空を飛べば1日、休まず走れば2~3日で着くだろう。

 飛んでる奴らには、もう向かわないといけないね。


「ゲート! 出ておいで、アタシのカワイイ子たち!!」


 高さ2メートル、横1メートルの青白い楕円形の光が、私の左右に距離を置いて5つ現れた。

 すぐ近くからは漆黒の馬・ナイトメアと始祖鳥しそちょうに似た小型の龍・飛龍が姿を現す。

 さらに離れた場所からは全身が真っ赤な鱗に覆われた全高40メートル近い巨大な翼をもつ龍が2匹、大地の様な色の鱗で真っ赤なドラゴンより少し小さい龍が1匹出てきた。


 何やら周りが騒がしいが、お前たちに構ってる暇はない。


「さあ、行くよお前ら!!」

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