第40話 痛みで気を失って目が覚めて

 ◆ルリ子⇒ユグドラ◆


 目が覚めた。

 馬車の天井のほろが見える。

 視界が悪いな、何かが目の前にあって良く見えない。

 右手でどかそうとするが、何もない。

 そんなわけ……ああ、溶けたヘルメットが視界をさえぎっていたのか。


 目の前に何かが現れる。

 まだ視界がはっきりしていないのと、ヘルメットが邪魔をして良く見えない。


「あー、あうあ、うーあ」


 これは……リアか。

 リアが俺の顔を覗き込んでいる。

 しかし直ぐに何かが現れて顔が見えなくなる。

 この模様はリアの服か? なんでリアの服が目の前に見えるんだ?


 左右から現れた手で服を押さえ、リアが俺の顔をもう一度覗き込む。

 ……うむ、どうやら俺は今リアに膝枕されているらしい。

 つまりさっき目の前にあったのはリアの豊かな胸だ。


 眼福眼福。


 えーっと、嬉しいのは置いといて、どんな状況なんだろう。

 確かルリ子で狼を倒して、えっと、その後がイマイチ覚えてないな。

 誰かが助けに来てくれたのか?

 随分派手に戦ったから、居場所は分かるだろうし。


 体を起こそうとすると全身に痛みが走る。

 

「ごあ! ガッ! グゥ!」


 耐えきれず起こすのをやめる。

 

「う~、うー! うっ!」


 リアが何か言ってる。大人しくしてろって言うのかな。

 えーっと、この状態で自己診断って出来るのか?

 可能な範囲で調べよう。


 腕、動く。

 足、ちょっと痛い。

 首、動く。

 下半身、いてててて。

 上半身、無理!


 痛いけど骨折とかじゃないな、何とか治療をしたいけど、まずは魔法で回復しよう。


「グゲーゴ……!?」


 え? なんで声が出ないんだ? グレートヒールが使えないじゃないか!

 

「ガー、ギーグーゲーゴー」


 あいうえおって言えない。

 理解した、全身火傷やけどで皮膚と鎧が癒着していて、喉も焼けて喋れないんだな。

 それなら少し、いや結構覚悟を決めれば治療できる。

 

 皮膚を無理やりがされる痛みに耐えれれば、だけど。


 でもやらないと、これは恐らくヒールでは時間が掛かり過ぎるだろう。

 かさぶたが取れるのを待つ時間なんて無い。


「ビア、ミィミィを、フザイデ、オデをみないで」


 一瞬首を傾げるが、何とか理解してくれた。

 でもとても不安そうな顔をしている。

 ごめんね、多分耐えられなくて叫ぶと思うから。


 膝から俺の頭をどかし、距離を取ってふさぎ込むリア。

 よし、根性見せろよ俺! このままじゃリアを護れない、一刻も早く治療を済ませるんだ!


 数回深呼吸をして、勢いを付けて上体を起こす。


「!!! ガァ!! !!!!!!!」


 声にならない悲鳴を上げながら、何とか上体を起こして馬車に背を預ける。

 ま、まずは、第一、段階。

 動く範囲の鎧を脱ぐ。

 腕、足、頭……視界が良くなった。

 足も腕も酷い火傷だ。


 まずはこっちを治そう。

 バッグから治療キットを数個取り出す。

 そういえば今まではバッグの中で使用してから対象を選択してたけど、取り出してみるとかなり小さいキットだったんだな。

 10センチ四方くらいの白い箱で上には赤い十字が書かれている。


 手足と顔を治療し、胴体も治療しようかと思ったが止めた。

 下手に治すと固まった皮膚とくっついた鎧をはがす事になる。それは絶対に嫌だ。


 本番だ。

 幸い皮膚はグズグズで完全には固着していない。

 とはいえかさぶたを取る数倍の痛さだろうなぁ……鎧の金具を外し、脇の下に手を入れ軽く浮かせてみる。

 痛い。上半身を隙間なく針で刺されたような痛さだ。

 ゆっくりだと、絶対に手が止まる。


 つまり……呼吸を整え、せーのっ!!


 一気に引きはがす。

 言い表せない痛み、悲鳴にならない悲鳴、やめればよかったという後悔、視界が真っ白になり思考が止まる。

 意識を失い、激痛で意識が引き戻される。

 痛い、という感覚ではなく、助けてくれ、としか考えられない。


 そしてまた意識を取り戻す。

 ダメだ、急いで治療しないと痛みで意識を失ってしまう。

 震える手で治療キットを手に取り、治療を開始する。


 2秒








 1秒







 

 0秒

 やっと治療が終わり痛みが引く。

 長い……とても長い2秒だった。本当は10時間じゃないのかコレ。

 メニュー画面のステータスを見ると、やっとHPは半分ほどだ。

 体を見ると……うわぁ、キモッ。


 もう一度治療キットを使用しHPが全回復した。


「あ~、よかった。ん、あいうえお、ふぅ」


 よかった喋れる。

 俺までしゃべれなくなったら、王都で医者に診てもらうのに苦労するからな、良かった。


「リア、もう大丈夫だよ」


 耳を抑えてふさぎ込んでいたリアの肩をたたく。

 恐る恐る顔を上げて俺を見る。

 表情が明るくなりオレに抱き付いて……来るかと思ったら動きが止まった。


「どしたの? リア」


 安心したような、心配しているような? でも少し微笑んでいる。

 ゆっくり立ち上がって俺の顔を胸に抱きしめてくれた。

 ギュッっと抱きしめて、頭を撫でてくれる。

 リアの手って温かいな。まるで直接皮膚に当たってるみたいだ。


 いや当たってるだろコレ。ん?

 頭に手を乗せる。

 叩いてみる。ペシンペシンといい音がする。

 え? まさか!!


「髪! 髪はどこだ! どんな髪型だったか覚えてないけど、長くはないけどあったはずだぞ髪!」


 おーまいがー。

 つるっぱげになっちまったよ。


 唯一の救いは、リアが頭にキスしてくれた事だった。

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