第28話 〇〇〇、〇〇〇〇。
翌日は早朝から出発だ。
アセリアさんは何度も素材集めをやった事があるだけあって、専用の服装まで持っていた。
厚手の革製のズボンと上着、靴も厚みがある物だ。
昔映画で見た冒険家みたいだ!
「それでは出発しましょう」
「はい、今日はよろしくお願いします」
「おー」
アセリアさんが右手で拳を作って上に挙げる。ん? エリーナが大人しいな。
昨日から少し元気がないけど、体調が悪いんじゃないだろうな。
でも手慣れた冒険者に『大丈夫?』なんて聞くのは失礼だし、ここはエリーナを信用しよう。
素材がある場所は山の奥地で、馬では進めない程
アセリアさんって馬も乗れるのか~カッコイイ!
先頭をエリーナが歩き、アセリアさんを挟んで俺が続く。
とはいえこの場所に一番詳しいのはアセリアさんで、一番知らないのが俺だ。
おいて行かれることは無いけど、2人の進むペースは結構早い。
「エリーナさん、ここら辺には依頼とは違いますが、売れる素材が沢山あります。持っていきますか?」
「え? あーううんいい。帰る時に残ってたら持っていこ」
「そうですね、わかりました」
アセリアさんとエリーナが話してるのってあまり見た事が無い。
2人は時々けん制し合うようにさえ見える。
エリーナは可愛いけど、諦めて欲しい。
「止まって。何かがこの先で動いた」
エリーナの指示に従いその場で止まり姿勢を低くする。
アセリアさんも慣れているようで、すぐに指示に従った。
何がいるんだろう。事前に聞いた話しでは熊やイノシシといった野生動物が多いらしいけど、かなり大型化した個体もいるため油断は出来ない。
「見えた。大型の熊がいるから、私とハニーで倒そう。アセリアはここで待ってて」
「了解」
「わかりました、待っています」
「ハニー、行こう」
無言でうなずき、音を立てない様に前進を開始した。
「ねぇ、随分と歩いたけど熊はどこに居るの?」
「もう少し先だよ。熊も移動してるのかもね」
熊も生きてるからな。移動くらいはするだろう。
だけど。
「離れてるなら追いかける必要はないんじゃないか?」
「ダメだよ、この距離は熊なら走ってすぐだもん」
「そうか……」
でもアセリアさんと別れて10分以上は歩いてる。
方向音痴の俺では、元の場所がどこかも分からないから戻ることも出来ない。
今は熊を倒す事が先か。
さらに10分ほど歩くと少し開けた場所に出た。
「私達とは随分離れたみたい。これなら大丈夫かな」
結局熊の姿は確認できず、ただひたすらに歩いただけだった。
「なら早く戻ろう。アセリアさんも心配してるだろう」
「まってハニー、
革製の水筒を腰から外して飲んでいる。
ふぅ、確かに喉が渇いたな、俺も飲もう。
バッグから水を取り出そうとすると、エリーナがもう一つの水筒を投げてよこした。
「それはハニーの分だよ。果物とハチミツを混ぜた特製のジュース。飲んで」
「ありがとう」
そういえばコレオプテールでも、色んな果物とハチミツを混ぜた飲み物が沢山あったな。
どれも美味しかったから、これも美味しいだろう。
「ねぇハニー、私とパーティー組まない? お願いだから」
「何度も言ってるけど、俺は当分の間1人でやるよ。アズベル達みたいに用事がある時は臨時で組むけど、ずっとは無理だ」
「そ……っか。残念」
気に入ってくれてるのは嬉しいけど、あまりエリーナに振り回されるのは困る。
なによりアセリアさんとの間に誤解が生じるのは絶対に避けたい。
水筒の栓を開けて一口飲む。
「ん~~~っ、甘酸っぱい! でも美味しいねコレ」
「ふふっ、そうでしょ? たっくさん飲んでね」
歩き疲れた体に甘酸っぱさが染み渡る。一気飲みに近い感じで飲み干してしまった。
「はー美味しかった。ありがとうエリーナ、今度なにかお礼をゴフッ! ゲホッツゲホッ!!」
む、むせたのかな? 口に当てた手に何かが当たる。げ、
そっと手を見る。
ん? 赤い。手が真っ赤だ。
「え? なにこれ、なんで手が真っ赤に、血? 血かこれ?」
視界が歪む、咳が止まらなくなった。く、くるしい。
なにが、おこって、る、んだ 。
咳と一緒に血が口から大量に出てくる。
体に力が入らない。立っていられない。
地面に倒れ込み、
「ハニーが悪いんだよ。私が何度も誘ってるのに来てくれないから」
「エリーナ……なに、を、いって だ」
「ワーウルフに殺された私を生き返らせてくれた恩があるけど、あの方の味方にならないなら、こうするしかないの。死者蘇生とか、過ぎた力を使う人を自由にさせとけないから」
あの方……だれだ……そいつが、いや、今、は、ちりょ、う、を。
治療キットを取り出して自分に使う。
「ダメだよハニー。解毒しようなんて考えても無駄だよっ!」
エリーナが俺を蹴る。鎧の上からだから直接のダメージは入らないが、手が滑る、治療が、治療の効果が減っていく。せめて
ダメだ。カウントが0になっても回復量は0、解毒も失敗だ。
毒なら、魔法のキュアを使おう。
「
……発動しない!? どうして!?
そうか! 毒が入っている場合は詠唱妨害が発生して、魔法が使えなくなるんだった!
こんな、こんな場面でゲームシステムが邪魔をするなんて……!
くそ、意識が、なんとか、解毒、解毒を、しないと。
ポーション、そ、うだ、解毒のポーションなら、スリップも妨害も関係ない。
バッグからオレンジ色の小瓶を取り出し、栓を抜く。
「往生際が悪いよハニー、これ以上手間をかけさせないで」
ポーションを持った手を踏みつけられた。
手の中から液体がこぼれ落ち、踏まれた指は無残に折れ曲がっている。
この手では……なにも持てない……他に……手は……。
こんな所で、なにも、できず、一方的に、なぶり、ごろしに、されて 。
や っと いせ かいにこ れたの に あせりあさん に あえ の に 。
しにた く ない や だ おれ は 。
俺は全ての生命活動が停止した。
死んで、しまったのだ。
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