第21話 討伐報酬は嫁の居場所

「それでは馬車の割り振りを発表する」


 冒険者の打ち合わせは思ったよりも細かかった。

 大雑把な話しかと思ったが、昨日の反省点の洗い出しや改善点、フォーメーションの変更など、冒険者というよりも軍隊みたいだった。

 しかも意見が活発に出てくる。


 正直圧倒された。

 漫画やゲームでは荒くれ者のイメーシだけど、凄く統制が取れてる。

 でも考えてみれば命が掛かってるんだもんな、真剣な話し合いにもなるか。


 それで護衛する馬車の割り振りだけど、なんとかアセリアさんの馬車にならないかと頑張ったがダメだった。

 アセリアさんの乗っている馬車は中央付近になり、護衛は外周の馬車に乗るため必要ないそうだ。

 旅行客や商人は内側の馬車に乗るらしい。言われてみればそれもそうだ。


 こればっかりは仕方がない。まぁ道すがら同乗する冒険者に色々と話しを聞こう。




「ねぇハニー、式には何人呼ぶ? 私は知り合いを沢山呼びたいな」


「ですから結婚しませんってば」


 なぜかエリーナさんと同乗する事になり、当たり前のように結婚式やハネムーンの話題になった。

 約20台の馬車は楕円形だえんけいに並んで進み、俺とエリーナさんは前列左側に居る。

 先頭はリーダーのアズベルさんだ。


 3日間の馬車護衛は、朝と夜は必ずモンスターが襲い掛かってきた。

 やっぱり腹が減っているんだな。

 でもオーガ5匹プラス狼50匹なんて集団には会わなかった。

 かなり特殊な事例らしく、年に1回話しを聞くかどうからしい。


 アセリアさんとは食事の時以外は話せなかった。

 まあ仕事だから我慢しよう。




 3日目の昼過ぎ、エリクセンが見えてきた。

 アグレスの街よりも随分と大きいが、防壁の高さはあまり変わらない。

  

 エリクセンの門の前で停車し、アズベルさんと依頼主が馬車から降りて手続きをしている。

 特に問題なく手続きが終わり街に入る。


 馬車の降車場こうしゃじょうに入ると、乗客たちが次々に降りていく。

 アセリアさんはどこかな、護衛の仕事が終わったんだから、お話ししても問題ないよね?

 

「よし、護衛の者は集まれ! 今からギルドへ行くぞ!」


「ハニーいくよー」


「え!? う、うん」


 なんてこったい、アセリアさんに挨拶する暇さえないのか!

 後ろ髪を引かれながら付いて行くと、アセリアさんが大きく手を振ってる。

 いた! 俺も大きく手を振り返しているとエリーナさんに引っ張られ、人ごみに入ってしまいアセリアさんが見えなくなってしまった。


 


 エリクセンの冒険者ギルドに到着した。

 建物自体はアグレスの街と同じだな。そういえばバグレスのギルドも同じだったから、統一されてるのかもしれない。


 代表で受付をしていたアズベルさんが戻ってきて、順番に護衛報酬を冒険者に渡していく。

 3日間の護衛で6ゴールド、途中の討伐報酬で4G、合わせて10Gだ。

 日本円にして約10万円だ。


 3日で10万円なら高い気もするが、命の危険がある仕事なうえ、装備の整備もしないといけないから一概に高いとは言えないな。

 因果な商売だ。


「ハニーハニー! これこれ、これ一緒にやろ?」


 エリーナさんが1枚の紙を持ってきた。

 これはギルドの掲示板に貼ってある依頼書だ。

 内容はバールドの街へ向かう馬車の護衛。


「バールドってどこですか?」


「バールドはね、王都オンディーナの方にある街だよ」


「オンディーナって?」


「え? えっとね、オンディーナは、んっと、この国オンティーナの首都で、王様が住んでる街だよ」


「そうではなく、アグレスの街の方向ですか? それとも反対方向?」


「アグレスの反対方向かな~、アグレス ― エリクセン ― バールドって並んでる感じ」


 エリーナさんが頭の斜め前に右手を置きアグレス、左手を顔の前に置いてエリクセン、胸の前に右手でバールドと簡単な位置を教えてくれた。

 反対方向か。


「止めておきます。しばらくはこの街で活動しますので、私は他の依頼を探します」


 依頼を探す、といっても今の最優先はアセリアさんを探す事だから、俺はギルドを出ようとした。


「おいおい待てよ」


 肩を抑えられた。

 振り向くとアズベルさんと数名が俺を取り囲む。


「流石にこの街の中ってわけにはいかないが、街の周辺の依頼で良いのがある。一緒にやらないか?」


「街の周辺、ですか?」


「そうだ。内容はモンスター討伐で、対象はワーウルフ約20~30匹だ。順調にいけば一泊二日で帰ってこれるぞ」


 一泊二日か、アセリアさん探しが遅れるけど、アズベルさんにはお世話になったから無下むげには出来ない。

 悩んでいる俺に、アズベルさんが囁く。


「仕事が終わったら、お目当ての子の居場所を教えてやるからさ」


「お受けします」


 一も二も無いだろうそんなの!

 当てもなく探すより、2日我慢して確実に見つかる方がいい。


「そうこなくちゃな。明日の朝出発するが、お前は体一つで来てくれ。必要な物はこちらで手配しておく」


「分かりました。それよりも彼女の居場所は間違いないんですよね?」


「おうさ! 間違いなくお前の思い人だよ」


 俄然がぜんやる気が出て来た! やる気スイッチが10個以上入ったぜ!

 これでエリーナさんとはお別れか。押しが強すぎるけど、美人さんだから残念だ。




 翌日の朝、ギルドへ向かうとアズベルさんとそのパーティ6人、そしてもう一人現れた。


「おっはよーハニー! 今日も頑張ろうね!」

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