第11話 職人のプライド

「はい。商工会しょうこうかいの会員の紹介が無いと、商工会には登録できません」


 なんて事でしょう、私はこの世界に知り合いなんていません。ましてや商工会に登録してある知り合いなんてもってのほかです。


「他に登録する方法はありませんか?」


「特例的な処置としては貴族の紹介や、各ギルドマスターの推薦状があればできます。しかしそれができるかたでしたら、紹介状の入手に困りませんので……」


「そうですか。仕方がありません、今回は諦めます」


「あ、あの、登録してある人に弟子入りをして、認めてもらえれば紹介してくれると思いますので!」


「ご親切にありがとうございます」


 逆に心配させてしまいました。あまり根掘り葉掘り聞いて困らせる訳にも行きませんね。




 商工会を出て頭をひねります。

 ギルドマスターの紹介状ですか……鍛冶ギルドへ行ってみて、私の作品を認めてもらえれば推薦状を貰えるでしょうか?

 いえ、そもそも、そこまでして身分証明書が必要ではありません。


 街の出入りが楽だから必要というだけで、ユグドラとルリ子で街に入ってしまえば、今の様に自由に行動できます。

 

 なのであきらめ……られませんね。私の腕を否定されているようで気に入りません。

 ふふふ、ダメと言われたらやりたくなるものです。それが人の心というモノでしょう?


 鍛冶ギルドへ来ました。


「こんにちは。ギルドマスターはいらっしゃいますか?」


「おやあんたか。どうしたんだ? マスターなら2階にいるが、用件を言ってくれ」


 これまでの経緯いきさつを話しました。


「そう言う事か。これはワシの説明不足だったな、すまん。しかしマスターに話しは通すが、そうそう簡単な事ではないぞ」


「それは承知の上です。お会い出来ますか?」


「わかった、では一緒に2階へ行こう」


 2階に上がり、木製の扉を受付の方がノックします。


「マスター、入るぞ」


 部屋の中に入ると、随分と小柄な、でもしっかりとした体つきの男性が窓の外を見ていました。


「この女性がマスターの推薦状を欲しいと言っとるが、どうする?」


 ギルドマスターがゆっくりと振り向きます。髪は長くボサボサ、さらに立派な長いヒゲは地面に届きそうなくらい長いです。

 ヒゲで口が見えません。


「お嬢ちゃん、お名前は」


「初めまして、私はしずかと申します」


 お嬢ちゃん、初めていわれました。自分設定ではキャラの年齢は20前後ですが、鏡を見た感じだと30近くに見えたはずです。

 老けているわけではありません。


「そうじゃ、初めましてなのに、なぜ推薦状を出すと思った」


「職人なら腕を認めてもらえれば、きっと出してもらえると思いました」


「ほほぅ、随分と自信があるようだな。だがワシは鍛冶ギルドのマスターとして、様々な職人を見て、育ててきた。そのワシに認めてもらえると思っとるのか?」


「それでは、これはいかがでしょうか」


 私はバッグから、お気に入りのヴァイキングソードを出しました。幅広の両手持ちもできる剣です。

 ヴァイキングソードをギルドマスターに差し出すと、ギルドマスターは受け取り、まじまじと見ています。


 ……ん? 随分と長く見ていますね。良いか悪いかの判別はすぐにつくと思うのですか。


「ま、まぁまぁの仕上がりだな。だがコレを本当にお嬢ちゃんが作ったのか? お嬢ちゃんの師匠が作ったんじゃないか?」


「間違いなく私が作りました。それに私には師匠はおりません、全て独学です」


 正確にはゲーム内のNPCノンプレイヤーキャラから初期値を買いましたが、あれは師匠とは言わないでしょう。


「師匠がいないだと!? ふざけるのも大概にせぇ! そんなやつに推薦状などやるものか、帰れ!」


「いえ帰りません。もしヴァイキングソードを作ったのが私だと信じられないのなら、今から作っても構いません。なんなら指定してもらえれば、それを作ってみせます」


 顔を真っ赤にしてうなっています。

 いけませんね、ついつい熱くなってあおってしまいました。


「まぁまぁマスター落ち着いたらどうじゃ。どれ、その剣をワシにも見せてくれんか」


 渋々、というか半分やけくそに剣を渡しました。

 結構重たい剣のハズですが、片手で簡単に渡しましたね。しっかりした体つきの通り、かなりの力持ちのようです。


「ほっほぉ~、これはなかなかの業物ではないか? これなら推薦状を出しても問題ないように思えるが」


「バカモン! どれだけ良い仕事をしていても、初対面の小娘に出すなど前例がないわ!」


 小娘ですか……なんでしょう、イラつき半分、嬉しさ半分な感情は。


「まったく、相変わらず頭硬いのぅ。この女性も言っておったじゃろ? 職人なら腕を認めればそれで良いのではないか?」


「しかしぃ~、しかしなぁ~」


 頭を抱えて悩んでいます。

 初対面なのはもちろんですが、私は嫌われるような事をしたでしょうか?


「それではホレ、あれじゃあれ、あれを久しぶりにやってみてはどうじゃ?」


「あれか……あれなら……まぁどうせ無理だろうからな」


 どうせ無理、ですか。ふふふ、面白い事をおっしゃいますね。


「ではお嬢ちゃんに『鍛冶・100人勝負』に挑んでもらう!」

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