第8話 わっかんない奴だねぇ、そこをおどき!

「キャラクターチェンジ!」


― ― ―


 体が光る。段々と俺ではない姿に変わっていく。そう、やっとアタシの出番かい?

 首の長い、始祖鳥しそちょうにも見える龍に乗ったまま、アタシは魔法を使った。


降りそそぐ流星群メテオ・スウォーム!」


 頭ほどの大きさの無数の石が、空から降りそそぐ。

 動きのおそいゾンビは何もできずにつぶされ、スケルトンは無駄な行為だと気づかず防御や回避行動を取っている。

 アタシの周りに居たゴミは片付いた。次はヘタレ共を助けてやろうかねぇ。


 龍の羽が一度上下すると馬車の側に降り立った。


「死にたくなかったら頭抱えてビビってな! 連なるチェイン・轟雷ライトニング!」


 天を指差し呪文を唱えると、鳴りやまないいかづちが響き渡る。

 かなりの数が残っていたからねぇ、10秒以上は雷がやまなかった


「ふんっ、やっと生ゴミが片付いたか。さ、とっとと街へ向かうよ」


 街の方向を向くが、なんだ? なんでこいつ等動かない?

 よく見ると、武器を構えてアタシを見てる。なにやってんだ。


「お前は何者だ! ユグドラが助けに行ったはずだが、あいつはどうした!」


 スキンヘッドの冒険者リーダーが震えながら剣を構えている。

 ユグドラ? 何いってんだい、アタシがユグドラ……ああ違うか、今はルリ子だねぇ。

 しかも今のアタシは女で、赤い魔法帽子に白いシャツに袖なしの赤いチュニック、赤く短いタイトスカートをはいている。ああ、黒く長い髪と、ひざまである黒いブーツもはいてるねぇ。


 これは全くの別人になってるね。

 ユグドラと言っても信じてもらえないだろう。

 

「ユグドラなら後をアタシに任せて帰っていったよ。ほら、護衛の依頼書だ」


 バッグの中にあった依頼書を見せた。

 キャラは変わっても、バッグの中身は共通らしい。


「ほ、本物のようだな。ではその大きな鳥はなんだ!」


「鳥じゃねぇ! 飛龍ひりゅうだ! なめた事ぬかすと殺すぞ!」


 飛龍から飛び降りてスキンヘッドを頭から踏みつけた。

 ん? 地面に倒れたハゲの首の向きがおかしいねぇ……やり過ぎたか。


「グレート・ヒール」


 一応こいつらは仲間のハズだから、殺すわけにはいかないしねぇ。

 ん、目が覚めた様だね。


「おいそこのデブ、行くのかい、行かないのかい? 行かないのならこれにサインしな」


「いいいいいい、行きます! 行かせていただきます!」


 顔が真っ青だねぇ、こいつが金づるのハズだが、こんなんで大丈夫なのかい?

 まあ行くってんなら行こうかね。




 暇だ。

 暇だ暇だ暇だ暇だ。

 飛龍の上で横になっているが、何もする事が無い。


「おい脂肪の塊、午前中の護衛はモンスターが多いんじゃないのかい?」


「え!? あの、その、今日はもう出て来ないかもしれません」


「そうかい、ならアタシは寝てるから、着いたら起こしな」


「その、飛龍……さんは?」


「こいつは寝ねーよ」


「いえ、襲ってきたりは……」


「何もしなきゃ何もしねーよ」


「わ、わかりました」


 飛龍は馬より大きいからねぇ、ちょっと怖いのかもしれない。




「おはようございます。おはようございます」


 キモイ声がする。なんだい気持ちよく寝てるのに。


「おはようございます。街に到着しました、起きてください」


 ん? ああそうか、着いたら起こせって言ったんだったねぇ。

 上半身を起こしてあぐらをかき、背伸びをする。


「じゃあサインしな」


「申し訳ありません、サインは街に入ってからの決まりでして」


「そうか、じゃあさっさと入るぞ」


 そしてアグレスの街の門に着いた時、沢山の門番が槍を構えて待っていた。


「止まれ! それ以上進めば攻撃する! 止まれ!」


 お? なんだなんだ? 実はこの脂肪達磨は犯罪者でした、ってオチかい?

 面白くなってきたじゃないか。


 脂肪達磨だるまとハゲリーダーが走って門番の所に行った。

 なんだ、犯罪者じゃなかったのか。

 血相を変えて戻ってくると、アタシに身分証明書を出せといってきた。

 そういえばアタシは持ってないねぇ。流石にユグドラのを出すわけにはいかないしねぇ。


「じゃあ冒険者ギルドへ行って貰ってこよう」


 飛龍を前に進めると、石ころ共がアタシの前に立ちはだかった。


「止まれと言っている! 早く身分証明書をだすんだ!」


「うっせーな、だから今からギルドに行くんだろうが。そこをどきな」


「ああっ 早く証明書をだしてください! じゃないと街に入れません!」


「お前まさか持っていないのか!?」


 髭達磨ひげだるまとツルッパゲが焦りまくっている。

 なんだいお前たちも話しがわからないのかい?


「だから今からギルドで証明書を出させるんだろうが。そこをどきな」


 なんだか追加で石ころがぞろぞろ湧いて出てきた。

 まあ石や砂粒が増えた所で変わらないがね。


 門をくぐろうと前に進むが、門が閉じられた。


「おい何やってる。入れないじゃないか」


「その鳥から降りろ!」


 鳥? 鳥っつったかウジ虫ども。この子は飛龍だと何度言えばわかるんだろうねぇ……。

 そうかいそうかい、そんなにデカイ鳥が見たいかい? いいよ見せてやるよ。


「ゲート! 出ておいでドラゴン!」


 高さ2メートル、幅1メートルの楕円形の青い光が発生し、そこから全高40メートル程のドラゴンがゆっくりと姿を現した。

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