第7話 キャラクターチェンジ

 集合場所へ行くと、すでに荷馬車や護衛の冒険者達が集まっていた。

 荷馬車の数は8台、護衛する冒険者の数は20名を超えている。昨日の午後からの依頼とは大違いだ。


「おはようございます。護衛の依頼を受けたユグドラといいます」


「おお、これで人数がそろいましたね。今日はよろしくお願いしますね」


 どうやら依頼主らしい商人だが、何というか……丸い・金ぴか・ひげと、三拍子そろっている。

 その隣には背の大きい冒険者が立っている。


「今日の護衛でリーダーを務める者だ。よろしくな」


「よろしくお願いします」


 冒険者リーダーはスキンヘッドでとても筋肉質だ。剣を腰から下げ、鎧は要所は金属プレートで堅めているが、大半は鎖帷子チェインメイルだ。


 昨日の冒険者もそうだけど、ほとんどの冒険者の武器や防具の質が悪い。

 このリーダーの鎧は標準品質だけど、大体が粗悪、とまではいかない低品質だ。


 俺の武器を修理に出すときはどうしよう。いい鍛冶屋さんがいればいいけど。


「よし、それでは出発するぞ!」




 荷馬車1台につき冒険者が2~3名乗り込み、俺は初心者という事で真ん中の比較的安全な場所にいる。

 やっぱり尻が痛い。


「お前だろ? E・D・Dを倒した見習い冒険者って」


 一緒に乗っていた角刈りの冒険者が、前触れもなく聞いてきた。


「えーっと、はいそうです。5人で倒しました」


「かーっ! 俺も狙ってたのによう! 先に持ってかれちまったぜ!」


 随分とオーバーリアクションな人だな。天をあおいで片手で顔を掴んでいる。


「昨日一緒にいた人もE・D・Dを狙っていると言ってましたが、有名なんですか?」


「有名ってーか、あんまりにも居場所がつかめねーから、長い間指名手配されてたんだよ」


「指名手配されたら直ぐに倒されるんですか?」


「指名手配されたら賞金が跳ね上がるからな。みんなこぞって倒しに行くのさ」


 へ~そうなのか。やっぱり指名手配って効果があるんだな。


「じゃあモンスター討伐とかは割に合わないんですか?」


「そうでもねぇな。ギルドで依頼を受けた場合はそれなりにもらえるし、指名手配が美味しすぎるってだけだ」


 そゆことね。特別ボーナスみたいなもんか。


 そんな会話をしながら進んでいると、何度か獣やモンスターの襲撃があったが、冒険者強い強い、ダベりながら倒してた。

 オレ氏、出る幕無し!


「まったくよう、モンスターしか出てこねぇんなら楽でいいんだがな。盗賊はいつ襲ってくるか分からねぇからな!」


 いや~ホントっすね~、とか言ってごめんなさい。

 モンスターも十分怖いです。

 特に目の前に広がる光景を見てしまうと、生意気言ってごめんなさいとしか言えない。


 あたり一帯にモンスターの集団が現れたのだ。

 前後左右どころか、キレイに生ける屍リビングデッドに包囲されている。

 ゾンビ、スケルトン、犬型ゾンビ、馬型ゾンビ、その他大勢……野球場満杯のリビングデッドに、流石の冒険者達も焦っている。


「馬車を囲め! 一匹たりとも近づかせるな!」


 リーダーの指示で荷馬車を中心にして方円陣ほうえんじんを組んだ。

 人型ゾンビは足がおそいが、犬型や馬型は早い。

 コイツらは飛びかかってきたり体当たりをしたりと攻撃方法が豊富だ。


 とはいえ流石は上級冒険者、そんな攻撃など当たり前のようにさばいて倒していく。


 動物型を倒し終えると次は人型が大挙して押し寄せてくる。

 クソッ、休む暇がない。


 1つ1つは弱く、ここにいる冒険者なら1対5でも平気だろう。

 しかし今は1対10かそれ以上の戦いを強いられている。


 短時間なら大丈夫かもしれない。しかし、倒しても倒しても敵の数が減らないのはマズい。

 戦闘開始から1時間程が経過した時、1人の冒険者が悲鳴を上げた。


「この野郎! 痛いだろうが!!」


 どうやらスケルトンの剣を肩に受けてしまったらしく、左肩から流血している。

 これでは全滅は時間の問題だ。

 

 なにか、なにか手は無いのか!?

 ゲーム時代の俺ならば、時間をかければモンスターを全滅させることは可能だ。

 しかし他の冒険者はもたないだろう。


 道具で使えるものは無いかとメニュー画面を触っていると、今まで出ていなかった表示が現れた。


『キャラクターチェンジ』


 これは一体……? まさか!

 指で触ると、ゲーム時代の俺のアカウント内にあった、ユグドラ以外のキャラクターが表示されている。

 魔法使い、トレジャーハンター、暗殺者、生産系、戦闘特化型。


 5人のキャラクター名を見て、今の状況に最も適しているキャラクターを考える。

 いや考えるまでも無かった。大量の敵を一網打尽いちもうだじんにできるのはコイツしかいない。


 しかしどうする、ここでキャラクターが変わったら、敵を倒したとしても騒ぎにならないか?

 せめて俺の姿が見えない場所ならいいが……よし。


「あそこで人が襲われているぞ! 今助けに行く!」


 適当な小芝居をうって、戦列から離れてモンスター集団の中に飛び込んだ。

 俺の鎧なら、リビングデッドの攻撃は通らない。斧を振り回しながら、冒険者から見えない場所まで走っていこう。


 よし、ここなら見えない。

 メニューを操作して《ルリ子》をクリックした。


 キャラクターチェンジ

  ユグドラ

 ⇒ルリ子

  しずか

  番長

  ディータ

  メイア

 ◆ユグドラ⇒ルリ子◆

 体が薄く光り、自分の姿がゆっくりと変わっていく。

 そう、やっとアタシの出番かい?

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