第3話 晴れて冒険者!……見習いです。

「あだだだだだだだだだだ!!」


 ひたすら打ち付けられる模造刀に、俺は成す術もなく耐えるしかなかった。

 変だろこれ、太刀筋は見えてるのに全く体が動いてくれない!

 真剣白刃取りも100%成功するレベルで見えてるんだよ?


 覚えてるだけで頭に50回以上、胴に100回以上、手足には……忘れたけどたくさん。それだけ打ち付けていると流石の冒険者も疲れているようだ。


「おま、お前、お前は、なんなんだ!?」


 息もえに聞いてきたけど、何なんだって言われてもね。


「ユグドラと申しますが」


「そ、そうだ、ったな」


 肩で息してるし、足元もおぼつかない。あれ? ひょっとして終わりか?


「これくらいで、いいだ、ろう。アルシエル、こいつの、タフさだけは、本物だ」


「お、お疲れ様です。ではユグドラさんは合格、と言いたい所ですが、タフなだけでは盾役にしかなれません。なので冒険者見習いとして登録をします」


「え! なんでですか! 耐えたら合格じゃないんですか!?」


「流石に1回も打ち返さないというのはいけません。それでは依頼の遂行に支障が出てしまいます」


「う、そ、それは……」


「なので見習いとして登録し、経験を積んだら晴れて正規の冒険者として登録します」


 ちくしょう! この世界は俺に厳しすぎないか!?


「分かりました……」


「では今日は怪我をいやして―――」


「今から出来る依頼ってありますか?」


「え?」


「はぁ!?」


 アルシエルさんと冒険者が驚いてる。え、なに? またなんか変な事言ったか?


「あのユグドラさん、そのお怪我では依頼は無理ではありませんか?」


「いえ、模造刀なので怪我はしてません。痛かったけど」


「そ、そうですか? では昼からになりますが、バグレスの街へ行く馬車の護衛が残っていますので、受けられますか?」


「護衛って見習いが受けても良いんですか?」


「今回は中級冒険者も依頼を受けていますので、そちらの指示に従ってくだされば結構です」


「わかりました、それ受けます!」




 とりあえず近くの武器屋で剣を買っておこう。使えないけど、持ってないと冒険者扱いされないみたいだから。

 店は薄暗いが品ぞろえは良い様だ。

 店内を見て回ったが、あまり良い武器は置いてなかった。もちろん斧は置いてない。

 仕方が無いからぶっ叩きやすい大きめの剣を買う事にした。


「まいど、そいつは6シルバーだな」


 しるばー?? ゲームの時の通貨はGPだった、ゴールドポイントだったっけな? シルバーって事は銀なのか? やばい持ってない。

 なのでしらばっくれて6GP渡した。


「あんちゃん、このコインは見た事がねーな。きんに間違いはない様だから、ちょっと待ってな、重さを量る」


 カウンターの横に置いてある天秤てんびんで重さを量ってる。つ、使えるよね?


「ちょっとばかし重いか? まあ1ゴールドだな。5ゴールドは返すよ、後お釣りの4シルバーだ。ありがとな」


 剣を腰に下げ、斧は背中に担いでマントで隠した。

 斧、いいのにな。


 そろそろ時間なので馬車護衛の集合場所へと向かった。

 この街はどうなんだろう、あまり大きくは無いのかな? ゲームでいう最初の街、みたいな感じだ。

 ひとつ気になったのは、魔法ギルドっぽい建物が無い事だ。

 魔法が無い世界なのか?


 集合場所には荷馬車が3台と冒険者が4人いた。

 依頼主らしき人に挨拶をし、冒険者にも挨拶を……あ。


「きたか、盾ピエロ」


 中級冒険者は、俺を小馬鹿にした、試験をした冒険者だった。


「あなただったんですね、中級冒険者って」


「そうだ。精々壁になって、俺達の役に立てよピ・エ・ロ」


 いちいちムカツク! なんなんだコイツ!


「お、お役に立てるように頑張ります」


 ああ、言い返せない自分が恨めしい。


 でも他の3人の冒険者は良い人だった。みんな男の戦士系で、1人は長剣と盾、1人は両手持ちの剣、1人は短い剣と長い剣の二刀流だ。ムカツク奴は剣と盾を持ってる。


「やぁ見習い、あいつのいう事は気にするな。いつも誰かにいちゃもん付けてるからな、気にするだけ損だぞ」


 長剣と盾の人がなぐさめてくれた。ええひとや、冒険者は優しくあるべきなんや。

 みんなと挨拶を済ませると、馬車は出発した。




 見習いのうえ初仕事という事で、一緒に馬車に乗っている冒険者が色々と教えてくれた。

 午前中はモンスターも腹が減っているから活発に行動するが、昼からは腹が膨れて寝ているとか。

 だから本来は昼の護衛依頼は初心者向けらしい。


 この人は中級だけど、どうやら狙っている強盗団があるらしく、この周辺で頻繁ひんぱんに悪さをしているためこの依頼を良く受けるそうだ。


「とはいえ、アジトも分からず、正確な構成人数もわかっちゃいない。最近では別の場所での目撃情報もあるから、ここにはもう居ないのかもしれないな」


 いろいろ話を聞き、そろそろ尻が痛くなったころ、どこかで聞いた事のあるセリフが聞こえてきた。


「へっへっへ、馬車と有り金を置いて行きな。そうしたら命は助けてやる」


 なんていう典型的な悪役のセリフ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る