第2話 輝かしい未来は牢屋から

「ちょ、ちょっとまってください! どういう事ですかこれは!」


 鉄格子てつごうしを揺らしながら門番に言い寄る。


「どうもこうも、怪しい奴が居たら捕まえるのが俺の仕事だ」


「私は怪しい者じゃありませんよ!」


「怪しい奴はみんなそう言うんだ」


 なんだよこれ! 異世界転生していきなり逮捕って! 

 前代未聞ってレベルじゃねーぞ!


「しばらく大人しくしていろ。何も無ければ数日で出してやる」


「そ、そんなぁ」


 俺の……俺の華々しいデビューがぁ……。




 結局牢屋を出られたのは3日後だった。


「どうやら本当に怪しい奴では無い様だな。出ろ」


「はい……」


 やっと、やっと出れる……でも……この世界は厳しいな。


「冒険者になりたいのなら冒険者ギルドへ行け。場所はここだ」


 門番が地図を見せてくれた。結構近かったけど、こんなテンションで冒険者になるのか~。

 いや、いきなりつまづいたけど、ここから先は明るい未来が待っているはずだ!

 よし! 気を取り直して向かおう!




 冒険者ギルドは街の中心から少し離れた場所にあり、周囲には武器屋や防具屋、道具屋などが立ち並んでいる。冒険者には必要な物だから、近くに店があるんだろう。


 木製の扉を開けて中に入ると、冒険者らしい人達が沢山いた。

 おお~、絵に描いた様な冒険者から、職業不明な人まで様々だな。

 えっと、取りあえず受付はっと。


「おいお前、サーカス団から逃げて来たのか? ピエロが冒険者に鞍替くらがえしますってか? ガーッハッハッハ」


 体の大きないかつい顔の冒険者が話しかけて来た。そういえば門番もピエロって言ってたけど、この世界のピエロって赤青黄のシグナルスタイルなのか? 俺の知ってるピエロとは随分違うな。

 でもなんかムカつく。


「ピエロじゃありませんよ。冒険者登録をしたいのですが、受付はどこですか?」


「ああん? なんでぇ冒険者ですらなかったのかよ。あっちだあっち」


 親指で差した先にはカウンターがあり、受付のお姉さんらしき人物が座っていた。


「ありがとう」


「あ?」


 ん? なんで口をあんぐり開けてるんだ? 変なこと言ったかな。

 まぁ受付だ受付。


「こんにちは。冒険者に登録したいのですが、こちらでいいですか?」


「え? ああはい、こちらで大丈夫ですが……?」


 なぜかお姉さんが戸惑っている。このお姉さん、肩まである真っ直ぐな銀髪で、細い眼鏡が知的な美人さんだ。胸は小さいが、うむ! ヒロイン候補だな!


「では登録をお願いします」


「あ、は、はい! ではこちらにご記入願います」


 出された紙には名前と職業、使用武器や装備を書く項目がある。

 結構細かいな。


 名前はユグドラ、職業は戦士、使用武器は斧、装備? 鎧かな? プレートメイルっと。


「これで良いですか?」


「確認します」


 目が文字を追っている。ん? なんか驚いたゾ。怪訝けげんそうな顔つきになった。


「あの、斧を使うのでしたら伐採ばっさいギルドになるのですが」


「え? 違いますよ、冒険者になりたいんですよ」


「しかし斧は武器と認められていませんので」


「はえ?」


「ブアーッハッハ! 斧でなにしようってんだ? 相手は木みたいに止まっててくれないんだぜぇピエロちゃん」


 さっきの冒険者と一緒に他の冒険者も爆笑している。えーっと、おーのー?


「おいアルシエル、こいつの試験は俺にやらせろ」


「それは構いませんが、手加減してくださいね? 前みたいに初心者が数日寝込むなんて事はダメですよ?」


「それはコイツ次第だ。弱ければ数日どころかずっと寝る事になるかもな」


 受付のお姉さんがため息をつく。


「それではユグドラさん、今から試験を行いますので、隣の訓練場までいらしてください」




 案内されたのはギルドの横に併設された訓練場。といってもただの広場だ。

 申し訳程度に訓練用のカカシが数体有るだけだ。


「それではユグドラさん、剣! を使って試験を行います」


 なぜだかいま剣だけ強調したぞ。そして試験の説明を冒険者が始めた。


「試験内容は簡単だ、最後まで耐えるか、俺に一撃入れるかのどっちかだ」


「耐えるってどういうことですか?」


「単純だ、俺が飽きるまで我慢すりゃーいいのよ!」


 そう言って冒険者は模造刀を振り回してきた。

 なるほど、実戦的な試験なのかな? この冒険者に一撃入れるか、殴られ続けて冒険者が飽きるまで我慢すればいいと……誰が我慢なんてするか!


 クックック、ここで俺の実力を見せつければ、きっと冒険者のランクも上がって、受付のお姉さんも『キャーユグドラさんカッコイイー』ってなるに違いない!


 よっしゃ! 手始めにこの冒険者をボコってやるぜ!


 剣を構えようとするが、あれ? 剣ってどうやって使うんだっけ?

 俺は思い出した。斧スキルはMAXだが、剣スキルは0だという事を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る