26.開いた口がふさがらない!

 静まりかえった大審議会場で、ふいに耳障りな笑い声が響いた。


「国の守護者だと!? えらそうに言うからなんだと思ったら、ただの国の従僕ではないか!! そんな低俗な者が侯爵家である僕や、愛しいビッチを貶めるなど許されない! 陛下、どうかこの無礼な男を極刑にしてください!!」


 ……えー……えー……えー……。

 あまりのことに、わたしや会場中の人たちも開いた口がふさがらなかった。

 サバス様、さっき陛下に無礼だって指摘されたばかりでしょ? ここまで来ると、三歩歩いたら忘れちゃうニワトリよりひどいわ。

 すると案の定、陛下がお怒りになられた。


「サバス・パーカー! そなたはなにを聞いておったのだ!? わたしは先程無礼なのはそなただと申したであろうが!!」

「え……っ、いや、しかし……っ、この男は、国の守護者だと名乗って……」


 陛下の剣幕にサバス様が途端にしどろもどろになる。

 それにしても、国の守護者って聞いて、従僕って思ってしまうサバス様の頭ってどうかしてるんじゃないの? 騎士やなんかとわけが違うよ?


「それがなぜ、従僕扱いになるのだ。そもそもシダース様がこの国の守護をされているのは、建国時に我々の祖先を気に入られ、ご厚意で今までそうしてくださっているだけにすぎぬ。それなのに、神に次ぐ地位と言われる精霊王様を極刑などと、どこまでおごり高ぶっているのか」

「えっ、えっ、えっ!? 神に次ぐ地位!? そんな馬鹿な!」


 とんでもない高位の人にやらかしてしまったサバス様は、信じられないと言うように辺りを見回す。

 当然のことながら、彼に返ってきた人々の視線は、氷のように冷ややかだ。サバス様のこの言動によって、シダースさんが守護辞めるって言い出したら、とんでもない国の損失だものね。


「っ! なんだ、その無礼な目は!! 僕はパーカー侯爵家令息であるぞ!」


 会場中から侮蔑の目を向けられたサバス様は、ありえないことに逆ギレをかました。

 傍聴席には、あなたの家より格上の家の方もいるんだけど、そんなことにも思い至らないんだろうなあ。


「いい加減にしないか、サバス・パーカー。よほど侯爵家というのが自慢らしいが、家名を汚すその言動、祖先たちに申し訳ないと思わないのか」

「ですが! あの者たちは、僕を馬鹿にするような目で見たのです!」


 この期に及んで謝罪の一つもしないサバス様に、会場中からあきれたようなため息がこぼされる。……うん、わたしもあきれてものが言えないよ。


「……馬鹿にするような目で? それはしかたのないことだろう。まさか侯爵家の子息が平民の幼子でも知っているようなシダース様の存在も知らず、あまつさえ極刑にしろなどと言い放ったのだからな」

「なっ! 陛下まで僕を侮辱するのですか!?」


 陛下のおっしゃることは、どこまでも正論でしかないのに、サバス様はしつこく陛下に食い下がる。とっとと謝罪すれば心証も違ってくるだろうに、お馬鹿すぎというか、墓穴を掘ってるとしか思えない。

 それに陛下が言われたシダースさんのことは真実で、絵本とかにも国の守護者である光の精霊王のことは書かれているから、彼のことは広く民衆に、そして他の国々にも伝わっているんだよね。

 それなのに彼のことを知らないって、サバス様、絵本すら読んだことないのか?


「──国王、もういいだろう。このような反省もない者、いくら言い募っても時間の無駄だ。そこの穢らわしい男爵令嬢も、許可がない限りは黙っていてもらおう」


 不快そうに眉をひそめて話を聞いていたシダースさんは、そう言うと指をぱちんと鳴らした。

 その途端、なにか言い返そうとしていたサバス様は声が出せなくなったらしく、喉を両手で押さえながら口をぱくぱくとさせている。ビッチちゃんもどうやら同じ状態らしく、いらついた様子で、なぜかわたしを睨みつけてくる。

 えー……、わたしに八つ当たりされても困るよ。その術を使ったのはシダースさんだよ? まあ、わたしもやろうと思えばできるんだけどね。

 ……それにしても、かしましい二人が黙ると静かでいいなあ。平和平和。

 いっそのこと、一生このまま黙っててくれないだろうか。

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