27.一つにしか入れないよ!
「──さて、騒がしい者たちが黙ったところで、再開するとするか」
陛下がそうおっしゃった瞬間、サバス様とビッチちゃんのお花畑二人は、怒りの表情で目の前の台をバンバンと派手にたたきだした。
……うるさいなあ。陛下がお話しされている時ぐらい静かにできないの? 今更かもしれないけれど、陛下のお言葉に反抗するように騒ぐとか、不敬にもほどがある。
わたしがそんなことを思っていると、シダースさんが再びその指を鳴らした。すると、途端にお花畑たちは動けなくなる。
……ちなみに、アーヴィン様の生誕パーティで騒ぎを起こした侯爵含む三人には、二人ずつ騎士が付いている。暴れるのを予想して、王家が配置したってことだね。通常なら付けないはずだけど、いったいどれだけ暴れ馬扱いされてるんだ。
既にあきらめたというか、死んだ魚のような目になっているビッチちゃんを除くスタイン男爵家の人たちには騎士は一人も付いてない。……まあ、この人たちは常識人みたいだからね。こんなまともそうな家族のうち、なんでビッチちゃん一人だけがあんなに電波なんだろう。
「……それでは、議題に入るとする。本日の大審議を執り行うことになったいきさつについてだが、ことの始まりはサバス・パーカーが王太子の生誕パーティで騒ぎを起こしたことによる」
陛下がそうおっしゃると、暴れられないサバス様が、不敬にも怒りのこもった目で陛下を睨みつけた。
……うわあ、陛下に対してその態度、大審議の判決に不利にしかならないってのに、アホだなあ。ビッチちゃんもだけど。
もう陛下も、あきれすぎて指摘する気にもなれないってご様子だ。
「その時に、サバス・パーカーに言いがかりをつけられていたマグノリア・ホルスト嬢が、王家主催のパーティで騒ぐのはよろしくないと注意しても彼はその意見を受け入れず、なおも騒ぎ立てた。……マグノリア嬢、これに相違ないか」
「はい、そのとおりです」
あの時のことを陛下に尋ねられたので、わたしはまじめな顔で頷いた。お花畑たちはわたしのことを
すると、陛下もご納得しているかのように頷かれた。
「うむ、周囲の者たちからもそのように聞いている。その後に、婚約誓約書が王宮に受理されてもいないのにもかかわらず、サバス・パーカーがマグノリア嬢に婚約破棄を叫んだのだな。理由は、寵愛しているビッチ・スタインを無視した、教科書を隠しただったな。それでサバス・パーカーは、マグノリア嬢を殺してやるという言葉を吐いたということか。サバス・パーカー、発言を許す」
すると、それまで怒りの表情だったサバス様は、嬉々として大きく頷いた。
「そうです! 浅ましくもビッチに嫉妬したその女狐は、ビッチをそんなひどい目に遭わせたのです!!」
……いや、ドヤ顔で言ってるけど、その程度のいじめで殺すって明らかに過剰な報復だからね? サバス様、どんだけキレやすいんだ。まあ、わたしはいじめなんてやってないんだけどね!
「……そんなささやかな子供のいじめ程度のことで、国賓も参加している王家主催のパーティで殺害予告を高らかに宣言するなど、高位貴族の子息とはとうてい思えぬ」
あきれ果てたように陛下がそうおっしゃると、再びしゃべれなくなったサバス様が、怒りで顔を真っ赤にして口をぱくぱくしてる。
いや、陛下は常識を説いておられるだけだし、自分の非には目もくれないで憤慨するって、サバス様、どれだけ自己中なんだ。
「マグノリア嬢、サバス・パーカーの言うようないじめをビッチ・スタインに行ったか」
「いいえ。サバス様を嫌っているわたしがスタイン嬢をいじめる理由もありませんし、彼女がそう申しているだけかと思われます」
わたしがそう言うと、ビッチちゃんはすんごい目でわたしを睨んできた。ついでに、わたしに嫌っていると言われたのもあってか、サバス様も睨んできてるけど。
「……マグノリア・ホルストの発言に偽りはない」
わたしの言葉を補佐するように、シダースさんが証言してくれたので助かった。精霊の彼がそう言ったら、間違いはないからね。
……あ、これは言っとかなきゃな。
「陛下、発言をよろしいでしょうか?」
「よい、許す」
「ありがとうございます。教科書のことですが、なぜかわたしもいつの間にか数冊なくなっていたのです。学園に遺失物の届は出したのですけれど戻ってはきませんでしたので、購入し直しました」
わたしがそう言うと、陛下は分かっていると言うように頷かれた。
「……ああ、そのことは調査官から報告が上がっている。しかし、同じような目に遭ったはずのビッチ・スタインは、学園に教科書がなくなったとの届も出しておらず、再び購入した様子もないのはどういうことなのだ」
「えっ、もちろん買いましたよ、学園の購買部で! マグノリア、嘘言ってんじゃないわよ! ほんとに性格悪いわね!!」
陛下が話を振られた途端に、ビッチちゃんが勢い込んでそう言った。
嘘もなにも、陛下が調査官から報告が上がっているとおっしゃってたじゃないか。わたしが性格悪いとか、虚言で人を陥れようとするビッチちゃんには言われたくないよ。
「今までのマグノリア・ホルストの発言は、真実である。……だが、ビッチ・スタインの発言は偽りである。ビッチ・スタインは購買部で教科書を再購入していない」
「えっ、なんで、わたしの味方してくれないんですかぁ!? ひどすぎます! わたしは嘘なんて言ってないのに!!」
「──ビッチ・スタインの今の発言は偽りである」
シダースさんは、きゃんきゃんと噛みついてくるビッチちゃんをにべもなく切り捨てる。見かねたのか、陛下が話に入ってこられた。
「ビッチ・スタイン、精霊のシダース様に嘘は通じぬ。この場で嘘をつくことは偽証罪になると、先程サバス・パーカーとのやりとりでわたしが申したはずだが」
「……そんなの聞いてないわよ!! あ……っ、じゃなくてっ、そのっ」
陛下に信じられない逆ギレをかましたビッチちゃんは、さすがにまずいと思ったのか、しどろもどろになる。……すごいなビッチちゃん、一つにしか入れないのに墓穴いくつ掘る気なんだ。
「……あっ、そうだ! 教科書はサバス様にもらったんです! わたしがかわいそうだからって!」
「えっ、僕が……!?」
ようやく起死回生の答えが出たのか、顔を輝かせてそう言ったビッチちゃんに、サバス様が「そうだったっけ?」というような、驚いた表情を浮かべた。
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