第55話 伝書鳩
「〈美味しかったですね〉」
「〈えぇ、本当。どれもこれも美味しくてつい食べ過ぎてしまったわ。ヒューベ……じゃなかった、ウムトさんは今のところお身体に異常はありませんか?〉」
「〈はい。今のところは特に〉」
「〈そうでしたか。それはよかったです〉」
ヒューベルトと会話していると、やけにメリッサが静かなことに気づいてそちらに顔を向けると、大きく舟を漕ぎながらとろんと目蓋を落として、今にも寝入りそうなメリッサがいた。
「〈ミリー、眠いの?〉」
「〈……うん、眠い〉」
「〈だったらもう寝てていいわよ?疲れたでしょう、おやすみなさい〉」
「〈うん、そうするー。おやすみ、ステラ……ヒューベルトさん〉」
「〈おやすみ〉」
「〈おやすみなさい、いい夢を〉」
そう言うと、ぽてぽてと多少おぼつかなくなりながらも自らの足でベッドに向かうと、そのままごろんと転がるメリッサ。
布団をかけるのすら億劫なのか、私がかけてあげると、小さく「〈ありがとう〉」と言われる。
寝ぼけていて、偽名すら忘れているようだったがそれほど眠くなっているのだろう。多分聞かれてないと思うので大丈夫だろうが、さすがに小さな身体に無理をさせすぎたと自省した。
「〈ミリーちゃんだいぶ疲れているようですね〉」
「〈えぇ、疲れてた上にお腹いっぱいになったもんだからドッと睡魔が来たみたいですね〉」
視線をベッドにやると、すぐさま寝入った様子のメリッサ。静かに寝息を立てながら、すやすやと気持ち良さそうに寝ている。
「〈とても量も多かったですしね。お1人であんなにお作りになったんでしょうか?〉」
「〈多分そうでは……?でも、短時間のわりにはいっぱいでしたよね〉」
食卓に所狭しと置かれた料理は正直圧巻だった。こんな素性も知らぬ人物達のここまでしてくれるのかと、素直に感銘を受けたほどだ。
しかも、どれもこれも美味しく手間がかかっていそうなものばかりで、ここまで至れり尽くせりでいいのかと逆に疑ってしまうほどだった。
「〈はい。常備菜もあったようですが、作り立ても結構あったようですし。そういえば最後の飲み物ってなんですかね?俺にはちょっと苦すぎて飲めませんでしたけど、ミリーちゃんごくごく飲んでて凄いなぁと〉」
「〈確かに。苦味は毒なこともあると言いますけど、あれはなんでしょうね?初めていただく味でした。いくら現地人とはいえ、あそこまで苦味が強いのはミリーも飲めないでしょうから、さすがに違うものがあてがわれたのかと。あの苦味は子供には厳しいでしょうし〉」
「〈そうですね。元気になるとは言ってましたが……〉」
元気になる、という彼女の言葉は確かに気にはなった。あの苦味の感じから恐らくハーブなどの薬草だろうが、私の知識にないものとなるというのが気になる。
(聞いて教えてくれるかしら……?)
「〈あと、そういえばリーシェさんはいつジャグリングの習得を?あのときはあまり釘付けになってはいけないとあまり見過ぎないように自重しましたが、すごいですね〉」
「〈ありがとうございます。先日サーカスを見てから見よう見まねで我流で覚えまして〉」
「〈独学ということですか!?〉」
「〈えぇ、まぁ。負けず嫌いな性格ゆえ、やりたいことがやれないのがどうにも……〉」
「〈本当にすごい方ですね〉」
「〈褒めても何もでませんよ〉」
コツンコツンコツンコツン……
話してる最中、何やら微かに音が聞こえて耳を傾ける。
「〈おや?〉」
窓から何かを突く音が聞こえてそちらに視線をやれば、鳩がくちばしで窓を何度も突いていた。
「〈どこの鳩でしょう?〉」
「〈さぁ?……迷い込んだのか、ここの部屋に用事があるのか……〉」
わからないなりに窓に近づいて窓を開けると、バサバサバサ……!と中に飛び込んでくる鳩。
よくよく見れば、足に何か紙がついていることに気づいて「伝書鳩か!」と存在を思い出し、足に括りつけられた紙を取ってあげた。
「〈何ですか、これ〉」
「〈これは伝書鳩と言って、遠くの人に鳩を飛ばして連絡をする伝達手段なのですけど……〉」
言いながら中の紙を広げる。そこに書いてあるのは
【逃げよ。追手が近い】
と、ただそれだけだった。
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