第56話 謎の手紙

(どういうこと?逃げろというのはどういうことなのか。そもそも追手って……)


わからないことだらけで眉を顰める。ヒューベルトが私の様子に察して覗き込むが、字が読めないようで「〈何と書いてあるんです?〉」と尋ねてくる。


「〈逃げよ。追手が近い。と、ただそれだけです〉」

「〈追手……?どういうことでしょうか。そもそもこの鳩はどこから?〉」

「〈それもわかりません。一体、誰からかさえも……〉」


どういう意図でここに送られてきたのか。そもそも私宛てなのかさえも怪しいが、何となくこれは私宛てなのだろうということはわかった。……というのも、


(この字は帝国の言葉……よね)


つまり帝国の言葉が読める人物に限られてくる。そして、こんな文を私宛てに送るというのは恐らくギルデル以外に想像がつかない。


(でも、何で私がここにいると?もしやつけられていた?)


だが、追跡されているかどうかに関しては細心の注意を払っていた。だから私達の跡をつけたというよりも、違う観点から考えたほうがよいだろう。


(となると、情報が漏れている?)


他に可能性として、私達が事前にこの村に来ることを想定していた可能性が考えられる。ギルデルは執政官派だと言っていたし、何かしらの情報から推測することはできなくはないだろう。


でも、一体どこから?そもそも、なぜ今このタイミングでこの村のこの家にいることを知ることができたのか。いや、100歩譲って情報が漏れていたとしても、逃げろだなんて、一体どこに。


謎が多くて判断ができない。下手に動くと策略にハマる可能性もある。


「〈とりあえず、この鳩を外に返しますか?〉」

「〈えぇ、そうですね。どこから来たのかもしかしたらわかるかも〉」


そう言って部屋の片隅にとまっていた鳩を捕まえる。鳩は人馴れしてるからか、大人しく捕まり、手の中でも抵抗することなく納まっている。そして、私が窓の外に放るとそのまま月の光の中を飛び立っていった。


(向かう先……方向的には……)


月の位置を確認しながら地図と照らし合わせる。すると、やはり想定していた通り、先程滞在していた街、ジャンスと同じ方向だった。


(でも、これだけではまだギルデルからの忠告だとの確信が……)


不確定要素が多すぎて、下手に信用するわけにはいかなかった。もし軽率に動いて、一網打尽にされてしまったらどうしようもない。


(こうなったら、確信が持てるように詮索するか、手がかりになりそうなものを探し出すか)


時間は限られている。判断に時間を要してはいられなかった。


「〈ちょっと待っててください。今、確認してきます〉」

「〈えぇ!?か、確認ですか?でも、どうやって?〉」

「〈その辺はお任せください。ウムトさんはこのままここで待機してください。いざとなったらすぐここを離脱します〉」

「〈いや、ですが。リーシェさんにそんな危ないことを……っ!〉」


私の性格はこの旅路の上である程度把握されてしまっているからこその言葉だろう。だが、毎度のことながらそんなことを言ってられる状況ではなかった。


「〈ウムトさんより私の方が身軽ですし、いざというときにミリーを守れるのは男性であるウムトさんのほうが心強いですから〉」

「〈ですが……貴女に何かあったら……っ!〉」

「〈大丈夫ですよ。何かあったら燃やします〉」

「〈も、燃や……っ!?〉」

「〈そういう思いきりがあるのは私の方だと思いますし、これでも死地は何度も超えて来ています。悪運だけは強いのが売りなので、ご安心ください〉」


自信たっぷりに言えば、ヒューベルトは言葉に詰まった様子で口をパクパクとさせていた。


実際幾度となく危険な目に遭ってはいるが、いずれもどうにか乗り越えてきたというのは事実だし、慢心しているわけではないが、場数を踏んだという意味では自信はあった。


「〈わかりました。……でも、ご無理なさらずに〉」

「〈はい、ありがとうございます〉」


ヒューベルトは渋々と言った様子で折れると、私は早速静かに部屋を出て階下へと向かうのだった。

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