第34話 練習
「うん、いい調子!もう少し右上でしょうか、2時の方向に微調整できますか?」
「はい、やってみます……っ!」
ガガガ……ガシュン、と音を立てて矢が飛んでいく。的にした木に矢が刺さり、中心とは言えないが、真ん中辺りにいったかな?という感じだ。
「難しいですね」
「最初は難しいですし、慣れるまでは大変でしょうが、ヒューベルトさんならできると思います」
「そうですね。まずはちゃんと狙えるようにしなければなので、とにかく練習頑張ってみます」
「はい、頑張ってください」
私とヒューベルトで連弩を使い練習していると、ひょこ、とメリッサが現れた。朝食の支度が終わったらしい。私達の様子を見ていたのか、ちょっと興奮気味だった。
「〈ねぇねぇ、私もやってみていい?〉」
「〈いいけど、気をつけてね〉」
ヒューベルトから連弩を預かると、ひょいっと持ってみせるメリッサ。だが、いくら軽く作ったとはいえ、持ち手の部分を持って狙いを定めるとなるとちょっと難しいようだった。
狙いを定めて撃ってみてはいるが、木はおろか、どこか全然違ったところに撃ってしまうありさまだ。
「〈んー、こうして持つとちょっと重いね〉」
「〈そうね、持ち手変える方法も考えたんだけど、なかなかそうすると狙いを定めるのが難しくなっちゃって。改良できるならしたいんだけど……〉」
「〈ううん。まだまだあたしの鍛え方が悪いんだろうし、鍛えるの頑張る〉」
(師匠に育てられただけはあるわね)
考え方がどちらかというと男性寄りである。私もそうだが、まずは自分ができるところから、というのは私もメリッサも共通している部分と言える。
無意識にだが、師匠のそういう意志を継いでいるのだろう。
「〈ありがとう、ヒューベルトさん〉」
「〈いえ、どういたしまして〉」
以前と比べたら、ちょっとだけ親密になれたのだろうか。ぎこちなさがいくぶんかマシになっている気がする。
「〈さて、じゃあさっそくご飯にしましょうか!今日は何作ったの?〉」
「〈魚のサンドイッチ。ステラが仕掛けてた罠にいくつか魚がかかってたから〉」
「〈それはよかった!食べるの楽しみだわ。ねぇ、ヒューベルトさん?〉」
「〈えぇ、とても。メリッサちゃんの料理は絶品ですしね〉」
「〈もう、そんなお世辞言ったって何も出ないんだからね……っ〉」
照れてるメリッサに朝からほんわかしながら、メリッサの作った朝食をいただいた。
◇
「〈さて、これからどうしましょうか〉」
「〈そうですね。この森を抜けるといくつかの街に出ますが、あまり街は避けて通ったほうがいいでしょうけど、昨日街で聞いた感じだとこの辺りは結構人が通るメイン通路らしくて〉」
「〈そうなんですね、それは……うーん、どうしましょうか〉」
聞いてた情報内容との差異はつきものだから情報更新は常にしなければならないが、今回の情報はあまりよろしくないものだった。
メインとなるとこの辺りはよく人が行き交うということ。つまり、きっと兵も多いのだろう。
モットー国だけでなく、帝国の兵も常駐してるとなると見回りなどに当てられる人数も自然と多くなり、移動するのが困難になってくると言える。
そうなると日中を避け、夜間に移動するのがベストなのだろうが、メリッサもいることとあの寒さ、そして獣が出ることなどを考えると夜間移動はあまり得策とは言えない。
現在地から考えると馬を走らせたとしてもブライエ国まで早くてあと2、3日はかかるだろう。だが、日中の移動が制限されながらとなってしまうともっとかかってしまう。
身を隠しながら馬を走らせる、となると海岸沿いは危険だし、砂漠地帯も難しい。森ももうすぐ終わってしまうし、はたしてどうするか……。
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