第33話 見張り

「……くしゅん……っ!」

「大丈夫です?見張り、変わりますよ」

「っ!びっくりしたぁ……ヒューベルトさん、いらしてたんですね」


メリッサがいなくなり、1人で黙々と作業を始めてだいぶ経った。夜も更けて来たからか、風の勢いが増し、焚き火の炎が大きく揺れ動き、肌寒さを感じていたときだった。


不意にくしゃみと同時に背後から声をかけられ、連弩造りに集中していた私はびくりと大きく身体が跳ねさせる。


ヒューベルトもまさか私が、こんなにも驚くと思っていなかったのだろう。彼も私同様、目を見開き驚いていた。


「すみません、驚かせるつもりはなかったのですが」

「あぁ、いえ、こちらも集中してたもので。てか、すみません。集中してたら見張りの意味がないですよね」

「いや、まぁ……うーん、そう、ですかね?とりあえず、見張り代わりますよ」

「素直にダメって指摘していいですよ」


はぐらかそうとしたようだが、どう考えても見張り中に違うことに没頭し過ぎるのはよくないと自分でも反省する。


警戒するのは敵兵だけでない。ここは森の中なのだ。獣がいる可能性だってあるのだから、私が試作機造りに没頭していたら気づけるものも気づけないと自分で自分を叱咤した。


「まぁ、そうですね。褒められることではないですね。というか、何をなさってるんです?」

「武器を作ってまして」

「武器?」

「はい。随分と奇怪な形ですねぇ……」

「異国の武器なので。簡易の弓のようなものですが、自動で装填できるんですよ」

「じ、自動ですか……っ!!?」


最初はちょっと訝しむような表情だったのが一転、自動装填というのに興味を持ったらしい。食いつきが凄まじい。こんなヒューベルトを見るのは初めてだった。


「えぇ、自動です。と言っても引き金は引くんですけど。ここを押すとですね、ここに矢をつがえて、引くと発射できる仕組みです」

「へぇ、そんなことができるんですか……」

「一応10本くらいは矢が装填できるようにはしますが、後方支援にはなってしまいますが、ヒューベルトさんに使っていただければと」

「え、俺が、ですか!?」


まさか自分用とは思わなかったらしいヒューベルトは、驚きのあまり大きな声が出てしまったようだった。慌てて口を押さえて周りを見渡すが、特にメリッサが起きたわけでも獣が来るわけでもないようでホッとした。


「す、すみません。大きな声を出してしまって」

「いえ。とりあえず、完成したらちゃんと扱えるように特訓してもらいますよ?下をどこかに固定したら片手で撃てますし、持ち運ぶなら命中率は落ちると思いますが口で引くこともできなくはないかと」

「なんだか、色々お気遣いさせてしまってすみません」

「ほら、謝らないって前にも言いませんでした?」

「はっ!そ、そうでしたね、ありがとう……ございます」


以前もこんなやりとりがあったなぁ、と思い出す。いつも謝ってばかりのヒューベルトだからこそ指摘したのだが、やはりすぐに性格を直すというのは難しいだろう。


「以前も言った通り、後方支援とはいえビシバシこき使うと言ったでしょう?私達のピンチのときには活躍してもらいますからね!」

「はい、承知しました」

「明日には完成を……っくしゅん!」


風が強いせいか、身体が冷えてしまったようで再びくしゃみが出る。話に夢中になって気づかなかったが、指先もなんだか冷えてかじかんできた気がする。


「リーシェさん、随分と身体冷えてますよ。ここは俺が見てますから、お休みください」

「でも、もうちょっとで完成で……」

「リーシェさん?」


語気を強めに圧力をかけられてしまって、おずおずと引き下がる。なんだかクエリーシェルに似てきたような気がするのは気のせいだろうか。


「わかりました。仕上げは明日にします」

「そうしてください。ほら、女性に冷えは禁物だと聞きました、身体を温めて寝てください」

「わかりました。ヒューベルトさんはお身体は?」

「俺は先程寝かせてもらったので大丈夫です。というか、騎士ですからそれなりには鍛えておりますよ」

「そうでしたね、失礼しました」


では、おやすみなさい、と挨拶をして肩にかけておいた外套代わりの布を身体に巻きつけてテントの方へ向かう。


テントをくぐれば、メリッサがすやすやと大人しく寝ていて、その安らかに眠る様子が微笑ましくて口元が緩んだ。


(さて、私もダラダラせずに寝ないと)


メリハリは大事だ、と自分に言い聞かせて寝転がる。先程まで冷えていたはずの身体は、メリッサの体温を感じたからか、少しずつ温かさを取り戻し、ゆっくりと眠りにつくのだった。

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