第35話 木を隠すなら
「〈木を隠すなら森の中、人を隠すなら街の中〉」
「〈え?〉」
「〈じーちゃんが言ってた。下手に恐がっていてもダメだって、案外どうどうとしてたらバレないって。昨日だってそう、ヒューベルトさんと私が行ってもバレなかったし〉」
「〈た、確かに……〉」
その意見は一理ある。人目を気にしておどおどしていたら誰だって目につくし、不審者だと思われるだろう。であれば、堂々と振る舞っていたほうが心理的に目につきにくい。
一般人として普通に過ごしていたほうが溶け込む、ということだろう。
「〈じーちゃんもそれであそこに住んでいたし、気にしなければ多分大丈夫だと思う〉」
「〈なるほど。ヒューベルトさんはどう思います?〉」
「〈確かに、メリッサちゃんの案はいい案かと。昨日も堂々と振る舞っていましたし、俺がもたついたときもサッと機転をきかして仕事を探しにきた夫婦という設定で乗り切ってくださいましたし〉」
(夫婦……?)
今聞き捨てならないワードが聞こえてきた気がしたのだが、とメリッサを見ると俯いて顔を赤らめている。
(うん、まぁ、ヒューベルトさんは気づいていないみたいだけど、きっとこの様子だと下心ありだったわね)
なんという可愛らしいアプローチなのか、と思いつつもここでそれをほじくり返したら可哀想なので、あえてスルーしておく。
「〈なるほど、ではその作戦でいきましょうか。最悪、バレても人混みにまぎれたら躱せる部分はあるでしょうしね。さすがに一般人を巻き込んで捕獲、というのはしないでしょうから〉」
「〈そうですね。ですと、ルートの再編が必要ですね〉」
「〈えぇ、ここの森から出たら一番大きな街に入りましょう。その後、情報収集してまたルート再編、と言ったところでしょうか。必要なら夜間移動も加味して、夜間移動できるように装備を整えていくのもアリですね〉」
そうと決まれば、と早速荷物をまとめて出発の準備を始める。あまり同じ場所に長居しすぎても兵に気づかれる可能性が高まるし、よくないだろう。
テントにしていた布を手際よくまとめ、馬に積んでいく。当初より買い出し分が多くなってしまったため、荷物が増えてしまったが馬は大丈夫だろうか。
「〈荷物、ある程度調整しないとこのままでは載せるのが難しくなってきますね〉」
「〈馬はあまり積荷を載せるというより、荷台を引くほうが適しているからね。荷物を積むならラクダのほうがいいと思うけど……〉」
「〈ラクダ……今度の街でその辺りも検討してみましょうか〉」
今後砂漠地帯に行くのであれば、ラクダで移動するほうが適しているかもしれない。とにかくまずは情報収集だ。
どうにか荷物をまとめて馬に乗る。今回は荷物の関係で私が荷物を載せた馬に乗り、もう1頭にヒューベルトとメリッサに乗ってもらった。
まだ多少メリッサは緊張しているようだが、多少慣れてきたのかくっついていてもそこまであからさまに抵抗していないようでホッとする。
ヒューベルトは察しがいいから、何かメリッサが不調であるとすぐに気遣いそうだから、その辺りも心配していたのだが、どうやら杞憂で済みそうだった。
「〈では、出発しましょう〉」
2人を先頭にして、私は後方から追いかける形にする。というのも、最悪いざとなったら荷物を落として火炎瓶を投げつけ、燃やして通路を塞ぎ、逃げるためだ。
(最近ツイてないけど、このまま順調に行けばいいなぁ……)
そんなことをぼんやりと考えながら、私は馬のバランスを取りつつ、彼らのあとをついていくのだった。
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