第27話 急転
「〈いよいよじゃな〉」
「〈うん。色々とお世話になって、どうもありがとう〉」
荷物を馬に積み終わり、いよいよ出発だ。市場などに出られなかったぶん、師匠をこき使ってしまったが、必要物資は粗方揃ったのでそれはよかった。
「〈じーちゃん……〉」
メリッサはたっぷりと涙を溜める。無理もない、自分を救ってくれた唯一の肉親だ。自分の置かれた状況や今後師匠がいなくなってしまった未来等々を把握できるほど聡い子だとはいえ、別れを惜しむのは当たり前だろう。
「〈達者で暮らすのじゃぞ。なに、メリッサの前途は明るい〉」
「〈うん……〉」
ギュッと小さな拳を握り締めるメリッサ。本当はここに留まりたいのだろう。だが、それを師匠が許すわけがないこともわかっていた。
自分がいることによって与えるかもしれないダメージを考えたとき、リスクを少しでも軽くしようとしたのだろう。
ワガママを言いたい気持ちをグッと抑えて、自分のためでもあり、師匠のためでもあるという選択をこの年でできるのは凄いことである。
「〈ステラの言うことをきちんと聞くのじゃぞ。そして、命あってのものぐさ、危険だと判断したらすぐに逃げるのじゃ。いいな?〉」
「〈うん、わかってる〉」
「〈そうか、そうじゃな。ワシの自慢の孫じゃものな〉」
ポンポン、と師匠が頭を撫でるとギュッと抱きつくメリッサ。堪えきれなかったのだろう、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ落ちていた。
「〈あたし、やっぱりじーちゃんと……っ!〉」
「〈見つけたぞ!!!!〉」
「〈こんなところにいたのか!!!〉」
突如響く大声。
ハッと周りを見れば、遠方からこちらに向かって小隊が走ってきていた。
遠目から見てもわかるほど小綺麗な甲冑を見る限り、城の兵達である。
「〈マズい、勘づかれたか!!〉」
(よりにもよってこのタイミングで……!)
荷物は積んだものの、ろくに挨拶もできぬまま、メリッサを師匠から引き剥がすように引っ張る。
「〈じーちゃん!!!いやぁぁ!じーちゃんも一緒にぃぃぃぃ!!!〉」
「〈ダメよ、メリッサ!貴女がここにいたほうが危ない!!〉」
「〈ステラ!メリッサを連れて早く行け!!〉」
「〈わかった。ほら!メリッサ!!お願いだから!!〉」
今まで素直に言うことを聞いていたのが嘘のように駄々をこねるように師匠にすがりつき離れないメリッサ。
気持ちは痛いほどわかるが、現状ここで捕まるわけにはいけない私にとって、どうにか引き剥がそうと躍起になるものの、どうにも引き剥がせない。
「〈メリッサ!すまぬ!!〉」
師匠が思いきりメリッサの身体を蹴る。そして、とうとう離れる身体。そして、「〈ワシだけならどうにかなる!だから早く行け!!!〉」と師匠が大声を上げた。
「〈いやぁぁぁぁ!いやだぁぁぁ!じーちゃんーーーー!じーちゃあああああん!!!!〉」
必死で抗うメリッサ。さすがに若いといえど、師匠と共に鍛錬していたぶん力が強い。どうにか引きずるように引っ張るも、なかなか進めない。
「〈メリッサ!言うことを聞いて!〉」
「リーシェさん!!!」
ヒューベルトに呼ばれて、間一髪で矢を避ける。こちらに向かっていくつも矢が飛んできていて、このままでは私達だけでなく、馬に当たる可能性も出てくる。
「〈じーちゃん!!うぅぅぅあああああああああああ!!!!〉」
一際大きな声で師匠を呼んだかと思えば、尋常じゃない雄叫びを上げるメリッサ。そして師匠の方を見れば、そこには周りを兵に囲まれ、槍で身体を深々と突き刺されてゆっくりと崩れるように倒れる師匠がいた。
「〈師匠!!!!!あ、メリッサ!!!!?待ちなさい!!!〉」
動揺した瞬間に手の力が抜けてしまう。その隙を見計らって、メリッサは一目散に師匠の元へ駆け出してしまった。
「ヒューベルトさん、馬と共に離れててください!私はメリッサを連れ戻してきます!!」
「わかりました!」
現状、ヒューベルトは申し訳ないが戦力外だ。この状況で下手に参戦してもらうと全滅の危険性もある。
私はまずは周りの弓兵から仕留めるため、スリングを構えるのだった。
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