マーラの物語8

「ところで、どうしてこんな時間に出歩いていたんだい?さすがにこの時間に女性が歩くのは感心しないなぁ?」

「申し訳ありません……」


ブランシェ国王からも指摘されて、穴があったら入りたいくらいに羞恥を覚えるとともに情けなさでいっぱいだった。


「部屋が窮屈だったとか?」

「いえ、そんなことは……」

「では、何か困ったことでも?」

「困ったことというか……そうですね、ある意味困ったことではあったんですが……」


(空腹だったから、ステラをダシに出歩いていた、だなんて言えない)


ワタクシの様子に何かを察してくださったのか、んー、と何か思案げにしているブランシェ国王。一体何を考えているのだろう、と1人でソワソワしているときだった。


「せっかくだ、もしよければ今後もまたこのように会うのはどうだろうか?」

「……はい?」


一体何を言い出すのか、と眉を顰めれば、弁解するように「違う違う」と慌てて手を振り始めるブランシェ国王。


「あぁ、勘違いしないでくれ。僕はあくまでステラの婚約者だから、マーラとどうこうしようとか考えているわけではないよ?」

「それは、わかりますが。つまりは、えっと、どういう……?」


意図が読めずに首を傾げる。すると、いいことを思いついたとでも言いたげな様子でブランシェ国王が口を開いた。


「せっかくだし、ステラの話を聞かせてもらおうと思ってね。僕はステラといた期間が短いから最近の彼女のことを知らないから、ぜひとも教えてほしいんだ。でも、日中にこういうことを聞いていることを本人に聞かれたらまずいだろう?だから内緒で、ね?」

「ワタクシは、かまいませんが……」

「それはよかった!あ、もちろんマーラにもメリットがあるように、今回同様にお夜食を出すっていうのはどうだい?」

「ワタクシは別に……お夜食がなくてもかまいませんが、わかりましたわ」


正直ワタクシ自身もステラのことをそれほど詳しく知らないにも関わらず、なぜか引き受けてしまった自分に驚く。


(ま、まぁ、お夜食に釣られてしまったからには仕方ありませんわよね)


そう自分に言い聞かせながら、ブランシェ国王の申し出を引き受けた自分を納得させるのだった。





あれから何度目かの逢瀬。


ブランシェ国王は数日おきにワタクシを密かに呼び出し、先日の個室で密会するという日々を何度か繰り返していた。


「へぇ、カジェ国のアーシャ妃と仲がよかったのか。それは知らなかった」

「古くからの幼馴染みだそうですわよ」

「へぇ、ということは昔のお転婆な頃も知っているのか」

「ステラって昔からあんなに無茶なことをなさってたんですか?」

「あぁ、僕はよく怒られてたし、普通にボコボコにされてたよ。今はどうかは知らないけど、当時は本当すぐ手が出るし、無駄に賢いし生意気だしで、なんなんだこいつって思ったけどね」


確かに、そう思うのはわからなくはない、とは思う。自分も頬を叩かれた経験者としては、ステラが暴力的であるということはわかる。


そもそも、捕らえられていたときに変な液体で物を壊したり、城の衛兵を素手で倒したり、とまさに物語の主人公ばりの異次元の強さだし、バイタリティだと思う。


これで亡国の姫だというのだから驚きなのだが。


「それなのに、どうしてステラのことがお好きなんですの?」


ブランシェの話を聞く限り、好きになる要素は1つもない気がするのだが……と不思議で仕方がない。


いや、別にステラを貶すつもりはないが、先程の話ぶりや内容的に一体この方はどこに惹かれたのかと興味があった。


「んー、どうしてだろうね。何ていうのかな、彼女には自然と惹きつけられるものがあったんだよね」


なんとなくわかる気がする。


最初こそ印象はあまりよくなかったものの、今はいないとほんのちょっと寂しいし、張り合いがない。心の中で、カルーのように気軽に話せる人物が増えたことを喜んでいたのは事実だった。


「普通の人とは違うだろう?考えも行動も。でも、だからといって無責任なわけじゃなくて、本人なりの考えがあって自分ないし相手のことを思いやってやっているところがいいのかなって」

「相手を思いやる……。確かに、変に情に厚い方ではありますね」


ワタクシを叱ったのだって、ワタクシを想ってくれたからこそだった。


夜に出歩くな、っていうのも先日の一件のようなことを危惧してもあったし。なんだかんだ言葉は悪いが、気にかけてくれているのはよくわかっていた。


ステラは無茶することはあれど、ワタクシと違ってリスクがあっても自分なりに対処できるから行動する、という行動理念があるようだった。


また、それに伴って自らを鍛え高めていて、知識や知恵、鍛錬等を人に見えない部分でしっかりとやっている。


ワタクシのように思いつきで、適当に行動しているわけではなく、常に色々なことを想定して行動しているのだということに最近気づいたのだった。


「口では素っ気ないところもあるけど、なんていうのかな……決してないがしろにしてないんだよね。僕が幼かったときも、見捨てることもできたのに、国のことや僕のことを立て直すために色々と根気強く指摘したり指導してくれたりしたし。本人は姉に言われたから、とか言い訳するだろうけど、そうだとしても実直で真面目な性格なんだと思うよ」

「なるほど、確かにそうですわね……」


実際に接してみたら、惹かれる要素がたくさんあるのはわかる。なるほど、こういう方を殿方は恋い慕うのか、とちょっぴり胸が痛んだ。


自分にはない要素。彼女のように自分を高めてもないし、自信があるわけでもない。共通点といえば姫だということくらい。全てワタクシが身に纏っているものは虚栄であり、本物など何1つなかった。

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