マーラの物語9

「マーラってステラと似ているよね」

「はい!?」


どこが!?とあまりにびっくりし過ぎて大声を出してしまう。慌てて口を押さえると「あれ、自覚ない?」と笑われた。


自覚も何も、ワタクシはあんなに野蛮ではないし、誰とでも分け隔てなく話せるわけでもなければどちらかというと引っ込み思案で似ても似つかないと思うのだが……。


「ちなみに、どの辺が似てると思いますの?」

「そうだなぁ、食い意地が張ってるとことか、行動力があるところとか、頑固なところとか」


思い当たることがありすぎて言い返せない。言われたことは確かに全て身に覚えがあって、言われてみればステラもそうだったような気がしないでもない。


そして、国王だからかこの人だからか、ブランシェはよく人を見ているなぁとも思った。


「あと流されない強い意志があるよね」

「強い、意志……?」


それに関してはあまり身に覚えがなくて、思わずオウム返ししてしまう。


ワタクシは両親には逆らえないし、彼らの意思に反したことをしようとすると胸が無性に痛む。自分が悪いことだとも、一般的に咎められることではなくとも、だ。


だから、そんなワタクシに強い意志なんて、と彼の言葉を否定したくなる。


「ステラもそうだけど、マーラも一度決めたら成し遂げようとするタイプでしょ?」


一度決めたら、というところで、今まで自分の行動を振り返る。


両親から咎められても読書をし、知識探究のために隠れてカルーに会ったり図書館に忍び込んだり。


先日ブランシェ国王と会ったきっかけである夜食のときだって、咎められたのにも関わらず、自分は大丈夫だと行ってしまったことは悪いことだが、それも先程の言葉に該当するだろう。


「そうかも、しれません……」

「別に悪いと言ってるわけではないよ。それに、悪いこともあるだろうけど、いいことでもあると思うし。僕はそういう意志が強いの憧れるけどな」

「ブランシェ国王が?」

「僕は意志が弱いほうだからね」


意外すぎてびっくりする。


ステラと接してるときもそうだが、自信満々で余裕がたっぷりとありそうで、見るからに国王の器のような人物だというのに、まさかそんな彼が意志が弱いというのは予想外だった。


「え、冗談ですわよね?ブランシェ国王が?」

「冗談ではないよ。僕は昔から臆病だし、言いなりになることが多かったからね。特に両親には逆えずに……それでステラにも色々と協力をあおいでいるのだけど」

「協力……?」

「あぁ、ごめん。こっちの話。……とにかく、僕はそんな大層な人間ではないんだ。その辺りはステラがよく知っているけどね。昔はそのことでよく怒られてたなぁ。しっかりしろ、国を担う器になるのなら、自分の意見をハッキリと持て、ってね」

「昔からステラはそういうのがハッキリしてらしたんですね……」


似ている、と言われても実際にはとてつもなくかけ離れていると実感する。ステラは幼少期から自立していたにも関わらず、自分は両親に依存し、自発的に行動をすることはなかった。


何かしら思うことはあっても、ワタクシは変わることを恐れて、忍び隠してきたというのに。


「ワタクシも、ブランシェ国王と同じように両親が苦手です」

「マーラも?」

「えぇ。彼らはワタクシのことを想っている、とうそぶきながら自分達の理想の娘像をワタクシに投影しているだけですから。ワタクシのことなんて、実際に想ってくださっているのか……」

「そうそう。僕の両親もキミの両親と同じように、自分の手駒である国王を育てたかったようなんだよね。僕もそれが嫌になってね。まぁ、ステラに言われるまでそのことには気づかなかったんだけど」


どこか遠い目をするブランシェ国王に、既視感を覚える。自分もそう自覚したときの切なさが胸に込み上げてきて、苦しくなる。


そして、自分と同じような境遇だってだろう彼に、少なからず親近感を感じた。


「僕達も似たもの同士なのかもね」

「そうかもしれませんね」


お互いに笑い合う。


いつの間にか、ステラの情報交換だったはずの逢瀬が、ただの世間話をするだけになり、こうして逢瀬を重ねるのがワタクシの密かな楽しみになっていた。

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