第77話 前向き
「そういえば、先日の襲撃犯から色々聞き出したんでしょ?彼らの証言は利用できないの?」
「……そうだな。さすがに、あの者達の言だけではどうにも弱い」
「なるほど、それもそうね」
いくらあの3人が前国王夫妻に言われてやりました、と言っても民衆で信用する者などほぼいないだろう。いや、例え信用する者がいたとしても、実際に拘束するほどの力は持ち合わせていないのは確かだ。
「決定的な証拠でもあればいいが。あの時、僕が
再び弱音を吐き出すブランシェ。まぁ、このような事態に
「今更言ったってどうしようもないでしょう。ほら、それよりもまずは今。それと未来。今どうするかで今後が変わるんだから。今の選択で、将来後悔したくないでしょう?」
「ステラは前向きだな」
「昔からね。泣き言言ったって何もいいこと生まれないもの。だったら、せめて少しでもよくしようと思うのが我々ではなくて?」
「そうだな。……本当、キミはいい女だな」
「はいはい。そういうのはもうお腹いっぱいですから、今できることを考えるわよ」
相変わらずの軽口が出たということは、ちょっと気はそれただろうか。
我ながら、人間とは難しい生き物だな、と思う。こうは言っているものの、私だって分別がつけられなかったり、判断の正誤について悩んだりすることだってある。
未だに、後悔することがないわけではない。だが、常に前を見続けなければいけなかった。そうせざるをえない状況、境遇だったからこそこうして今いられるということもある。
振り返られるということは余裕があるからだ。今を必死に生きていたら、過去を悔やむことすらできない。
このジレンマ。だが、苦しいからこその発見や生き甲斐がそこにあると思う。
(って、こんな風に思ってなきゃやっていけないからだけど)
「ちなみに、何か動きはなくとも変わったことはないの?料理の差し替えだとか、新たな客のリストだとか」
「そうだな。特にないと聞いているが……強いて言えば、馬が出払っているくらいだろうか」
「馬……?」
「あぁ、馬小屋の清掃だとかで一時的に別の場所に移送しているようだ」
馬、で以前のクオーツ家の事件を思い出す。あの時は
(この国をあげての慶事のタイミングで馬小屋の清掃……?明らかにおかしいわね)
「それ、大丈夫なの?」
「あぁ、まぁ城で管理している馬は別だからな。有事があればそこから出せばいい」
「以前、ある一件で馬を使えなくさせられるということがあったのだけど、そういうことはない?」
「その辺の管理はしているつもりだが、……念のため確認はしておこう」
「えぇ、そうしておいて」
取り越し苦労であればいいが、なんともこういうときの勘は当たるのだ。
(当たらないに越したことはないけど、用心はしておこうかしら)
馬ということはどこかに移送しようとしているのか、はたまたここで何かをしでかして逃げられないようにしようとしているのか。
過去のことを思い返しながら、どんなことが来てもいいように、私は脳内で色々とシュミレートを始めるのだった。
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