第78話 素直じゃない2人
「【ブランシェ陛下。そろそろお時間です】」
「【あぁ、わかった。我々も出る。来賓の方々の手配も無事に済んでいるか?】」
「【はい、滞りなく】」
従者は言うことだけ言うと、すぐさま去っていく。自分達は多少悠長にしていたものの、侍女や従者達は会場のセッティングから料理の手配や客人の管理までバタバタだろう。
その辺りは申し訳ないと思いつつも、私が気になったのはそこではなかった。
(来賓……?今、来賓って言ったわよね?)
国内だけの秘密裏に行うのではなかったのか、一体どういうことだ、と険しい表情でブランシェを見ると、私の考えていることを察したようで、苦笑される。
「そんな顔で見ないでくれ。キミ達コルジール国の方々への手配のことだ。彼らにも今回の式に参加してもらうからな。それ相応の格好をしてもらうためにも、衣装等々の手配をさせていただいたんだよ」
思いきり肩を竦ませて、無罪アピールしてくるブランシェ。言うまでもなく不機嫌の内容を察せられてしまい、しかも勘違いで勝手に先走って感情を発露させてしまったことに、バツが悪くなる。
「あ、あぁ、なるほど。ごめんなさい、勘違いしたわ」
「恐い恐い。キミを怒らせるとすぐに手や足やら飛んでくるからな」
「……なっ!そ、そんなことはないわよ!」
なんとなく言い返したものの、図星は図星で居た堪れなくなる。別に暴力を振るうのが普通ではないし、今は振るうことは滅多にないが、それでも過去やらかした事実がある自分としてはあまり強く言えない事柄だった。
「はは、冗談だよ。とにかく、そういうことだ。キミのいい人にもきちんと用意させたよ」
「それは、どうもありがとう」
クエリーシェルがこちらの正装を着たらどうなるんだろう、と想像したら一気に顔が熱くなる。あの体格で引き締まった体躯が、ブランシェの着ている正装のようであるならば見惚れてしまう気がする。
「……相変わらずキミは僕のこと眼中になさそうだね。言っておくけど、僕も普段とは違ってそれなりにおめかししてるんだが」
「あぁ、うん。それはわかってるけど」
「本当につれないな」
言われてから注目したが、確かに今のブランシェは見る人が見たら卒倒しそうなくらいにはカッコ良く決まっているだろう。
癖のある短い髪は普段よりもしっかりと整えられているし、服もがっしりとした体躯が目立つようなフィットした服になっていて、筋肉フェチの人からしたら
(まぁ、私はブランシェよりもクエリーシェルのほうが気になるけど)
「そういえば、マーラ様が衣装喜んでたわよ。とてもよくお似合いだったわ」
実際、本人から直接嬉しい!という言葉は聞いてないが、あの様子から嬉しかったのは伝わったということで、多少の誇張表現は認められるだろう。
「そうか。それは良かった。彼女の褐色の肌に似合うように色味は色々と試行錯誤してな……」
「確かに、マーラ様がまるで花の精のように美しかったわ」
「そうだろう、そうだろう。僕の見立てた通りということか。これは、見るのが楽しみだな」
口元が緩んでいるブランシェを見ながら、こんな顔もできるんじゃない、と内心思う。まるで幼子が何か真新しいものを発見したような、純然な愉悦がそこにあった。
(全く、お互い素直じゃないわね)
過去の自分を棚に上げておきながら、リーシェは彼らのことを微笑ましく思う。やはりなんだかんだとこの2人はお似合いなのではないか、と密かに思うのだった。
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