第51話 自己嫌悪

「何てことだ……」


ふらふらとベッドに戻る。まさか自分が隠せていたつもりなことが、全然全くこれっぽっちも意味をなしてなかっただなんて。


(ある意味、恥ずかしい……!)


くそくそ、と内心自分に毒づきながらベッドの上を転がり回る。その様子はまるで思春期の子供だった。


(いや、そもそも前はできてたはず)


ついこの前囚われてたときだって、マーラに表情が読めないと言われたばかりだ。でも、他の人には……?


少なくともクエリーシェルの家に来る前後はできてたはずだ。そこは自信がある。でも、正直その後はあまり自信がない。


総合して鑑みるに、きっとクエリーシェルとの交流によって色々な部分が露呈してしまっているのだろう。意図していなかったことではあるが、ある意味以前クエリーシェルに言われた「年相応でいてくれ」の通りになってしまった。


(それがケリー様だけでなく、他の人まで察せるほどボロが出てるなんて……!)


「あぁあああぁあぁああああ」


枕に顔を突っ伏しながら、羞恥のままに謎の言葉を吐き続ける。考えれば考えるほどに己れのダメダメさを思い出してしまって自己嫌悪に陥る。


気の緩みすぎ以外に他ならず、あまりのていたらくに穴があったら入りたい気分だった。


ガタガタ……っ


「……っ」


素早く物音に気づいて、布団に潜る。


(一体誰だろうか。まさかもう、私を攫いに?)


不意打ちに、心臓が激しく鼓動を打つのを息を殺しながら落ち着かせる。


(そっちはその気なら……)


侵入者が布団に手をかけた瞬間、ガバッと勢いよく侵入者に向かって布団を蹴り上げると、そのまま視界を奪うように被せる。


そして、その勢いのまま、身体を捻らせて顔面らしき場所に蹴りをお見舞いすると、すかさず首があるだろう部分に脚を絡めて締め上げる。


「うぐ……っ!う、あ……、……シェ……!」


首を締め上げているからだろうが、ジタバタとしながら何かを言っている。何だろう、と耳を傾けると布団で覆われてるためにくぐもっていて上手く聞き取れなかったものの、何となく聞き覚えのあるような声だった。


「リー……っ、シェ……っ!……だ、……っ」

「……ん?」


なぜか名を呼ばれた気がして、脚の力を緩める。恐る恐る布団を剥がすと、そこには顔面を腫らしたクエリーシェルがいた。


「け、け、ケリー様!??な、なぜここ……っふが……っ!!」

「しー!静かに。黙って抜け出してここまで来たのだ。大きな声を出すでない」

「あ、ごめんなさい。でも、何で……」

「リーシェに会いたかったからだ」


言われて、キュンとしてしまう。先程まで散々ブランシェに口説かれていたというのに、クエリーシェルからの言葉は一撃だった。


カッと顔が熱くなるのが自分でもわかる。こんな一言で舞い上がってしまうなんて、我ながら単純だ。


「わ、私も会いたかったです……」

「そうか……」


ギュっとクエリーシェルにしがみつくように抱きつく。久々の彼の逞しい体躯に抱きしめられて、匂いや体温などに癒される。


(久々に触れられる)


そうして、束の間の幸せを感じているときだった。


「ステラ!大丈夫か!?今、大きな物音がしたが……!」

「あ、やば」


先程の私の大声に気づいたのか、慌ててブランシェが自室から駆けつけたようで、コンコンと大きなノックを何度もしながら外で叫んでいる。


しかも切羽詰まっている様子から察するに、今にでも突入してきそうな勢いである。


(これはまずい)


「ケリー様、隠れて!」

「え、ちょ……!リーシェ!?ふが……っ」


勢いよくクエリーシェルの腕をひくと、そのまま自分が入っている布団の中に引き入れる。多少こんもりと山ができているのは致し方ないが、どこかに隠す時間もないし、どうにか誤魔化せるだろう。


「ステラ、無事か!??」


そう思ったと同時に、ブランシェが転がる勢いで入室してきたのだった。

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