第31話 一難去ってまた一難

「【初めまして、コルジール国より参りました。カジェ国よりご連絡がいっていると思いますが、どうか現国王ブランシェ国王の謁見をお願いしたいのですが】」


着岸の際、船に攻撃こそされなかったものの、船を降りるや否や、ズラッと周りを兵に囲まれる。そして、あからさまな敵意を向けられるが、気圧されることなく胸を張って目の前にいる兵隊長らしき人物にサハリ語で申し上げた。


「【カジェ国の使者よりある程度の話は聞いているが……ちなみに、そちらの名は?】」

「【申し遅れました。私、ペンテレア国第2皇女、ステラ・ルーナ・ペンテレアと申します。以前こちらにご挨拶に参ったこともあります。どうか、陛下に謁見の機を与えていただけないでしょうか?】」


恭しく、ドレスの裾を摘みながら頭を垂れる。こちらの国でのマナーはこれでよいはずだ。あとは相手の判断次第だが、やけにコソコソと後ろで話している気がする。


「【どう思う?】」

「【いや、……明らかに違うだろう】」

「【でも、髪の色と瞳の色は合っているぞ?】」

「【染髪した可能性だってある。瞳の色だって、同じ小娘を用意した可能性だって考えられるだろ】」


コソコソ話の内容的に、明らかに私のことを言っているのがわかる。というか、何となくだが、雲行きがあやしい気がするのは気のせいだろうか。


後ろに控えているクエリーシェルとヒューベルトも、言葉はわからないものの、あまり歓迎ムードではない空気を感じ取ってか、私にちょこちょこ視線を投げてくる。


そして、なぜか船で待てと言っていたのについてきたマーラは私にしがみついて、震えている状況である。


(うーん、何かまずいかも、これ)


何か悪い予感がする。こういうときの直感はよく当たるのだが、いかんせん、だからと言って現状どうしようもなかった。


最悪、追い返されるならまだいい。だが、一方的に拘束ないし、処刑でもされたら目も当てられない。……そして、その可能性は十分にあった。


「【どう考えたって、国王陛下に言われてたような小娘ではなくないか?】」

「【確かに。どっかちんちくりんだし、皇女っぽくはないよな】」

「【あぁ、まだ隣にいる娘の方が皇女らしい】」


(どっちも皇女ですー!!)


そんなこと言えるはずもなく、近くで繰り広げられる会話に1人ヒヤヒヤしている。この会話がわかるのは私だけなので、周りもただ待つだけしかできなかった。


「【やはり、偽物ではないか?】」

「【あぁ、国王陛下も偽物の可能性もある、と言っていたしな】」


(あ、これ、もしかしなくてもヤバいやつじゃない……?)


何か疑われている?と思ったのも束の間、腕を引っ張られて拘束される。


「【直ちに連行せよ!海賊の一味の可能性もある!】」

「【え、ちょ!待ってください!!カジェ国のアジャ国王からの直筆の証明書もここにきちんと!!】」


空いた腕でカジェ国からの一筆を見せる。だが、目の前の男は一瞥したあと鼻で笑うだけだった。


「【どうせ偽造したのだろう?いいから、あとで言い分は聞いてやる!大人しく連行されろ!!】」

「【え、ちょっと、待ってください!】」


マーラやクエリーシェル、ヒューベルトも次々と拘束される。マーラに至っては悲鳴を上げている状態だ。


「【えぇい、煩い!黙れ!】」

「ステラ!一体どうなってるんですの!?」

「わ、私にも何がなんだか……。ただ、何か疑われているみたいで……!」

「ステラ様!」


クエリーシェルが、私を無理矢理連れていこうとするのを阻止するように前に出ようとするが「待って!クエリーシェル!!」と制止する。


(ここで抵抗したところで多勢に無勢。どう考えてもこの状況、こちらの不利ね)


「ですが!」

「下手に抗っても、怪我をしたり余計に疑惑を持たれたりするだけです。大人しく従うのが一番です。大丈夫です、疑惑はきっと晴らせるはずですから」

「【何をモタモタしている!】」

「【わかりました。指示に従います】」


(とにかく疑われているのはわかった。だが、どうしてこんなことに……?)


まだ理解が追いついていないながらも、抵抗することなく彼らに従いついていく。船が心配ではあったが、疑いを持たれている状態でいきなり破壊することは恐らくないだろう、とは思う。


次々にみんなが拘束されるのを申し訳なく思いながら、今の私にはこれ以上なすすべがなかった。

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