第32話 想定外
「一体どうなってるのですか!ワタクシ達、歓迎されるのではなかったのですの?」
「歓迎されるかどうかは元々微妙でしたけど、まさかこのような処遇になるとはつゆほども思わず……申し訳ないです」
「申し訳ないで済む問題ではないでしょう!?」
「ごもっともです……」
拘束され、男女別に投獄されてしまい、現在マーラと2人きり。クエリーシェルやヒューベルト、船長以下船員達がどうなったのか全くわからない状態だった。
(それにしたって、何を警戒して……)
あのコソコソ話的に、はなから私のことを疑っていた様子だった。
元々死んだと思われている身。そういう風に思われてもわからなくはないが、カジェ国から使者も派遣し、さらには直筆の書面まであるというのに一体この管理体制はどうなっているのだろうか。
(でも、私という存在は覚えているということよね、きっと。一体どのように私のことを伝えていたのだか)
おおよそ、伝達されていた情報とかけ離れていたことは推測されるが、それにしたって謎である。やはりまだ、幼少期にボコボコにしたのを恨まれているのだろうか。
(あー、わからない)
現状わからないことだらけだが、とりあえず危機であることには違いない。あとで話を聞くと言っていた兵もすぐに引き上げていってしまい、薄暗い牢の中、私達しかいない状態だ。
食事は先程出されたので、一応最低限の人権こそあるようだが、これがいつなくなり、はたまた処刑されてしまうかもわからない。
(最悪、脱獄……。でも、自分が出れたとしてもみんなを見つけ出して逃げ出せるかどうかと聞かれても、自信はない)
一応身包みを剥がされたわけではないので、護身用の“乙女の嗜み”は一式揃っている。だが、どうにか脱獄できたとしても、こう言った状況が不慣れなマーラを連れながらうろちょろするのは無理がある。
他のみんなもどこにいるかわからない状況だし、仮に私1人が逃げおおせたところでできることは何もなく、万事休すだ。
(さすがの私でも、この状況は想定外すぎたわ)
事前に色々何かあったときのことは想定するほうだとは思っているが、まさかここまで前触れなく、何もできないとは思わなかった。ある意味慢心していたのかもしれない。
(カジェ国でぬるま湯に浸かってしまったからね。一度、気を引き締めないと)
パチンと勢いよく自らの頬を叩くと、マーラがビクッとしてこちらを凄い形相で見てくる。その瞳は「気でも狂ったか?」とでも言いたげだ。
「あぁ、すみません。驚かれました?」
「えぇ、ステラにはいつも驚かされっぱなしですわよ!」
「それは失礼しました。とりあえず腹を括っただけなので、お気になさらず」
「は、腹を括る……?」
意味深な言葉を吐く私に、眉を顰めるマーラ。
「さすがに責任をとって自害なぞはよしてくださいよ?」
「えぇ、何もせずに自害は致しませんよ。……確かに、この状況に陥ってしまったことは不本意ですが。とにかくただこの状況を甘んじているわけにもいきませんから、早めに対策を練ります」
「対策?対策ってもう今更ではありませんか?」
マーラが言わんとしてることはわからなくはない。だが、ただここで無為な時間を過ごすわけにもいかないのは事実だった。
「とにかく考えます。まずは腹ごしらえを致しましょう」
「え、これを食べるのですか……?」
ゲテモノでも見るかのような目つきで先程出された食事を見るマーラ。視線の先にある食事は、所謂パスタと呼ばれるもので、カジェ国には馴染みのないものだった。
そもそもカジェ国には麺というものが存在しないはずなので、現在の環境と見た目のインパクトもあって食欲がわかないのだろう。
「これはパスタと言って西洋ではよく食べられている食事ですよ」
「これが……?食べにくそうだし、そもそもなぜ紐のようになっているの?」
「そういうものだからとしか言いようが……」
どうにも食べたくなさそうな様子だが、ちょこちょこ聞こえる腹の虫の鳴き声は私からではない。ということは誰の腹の虫かは、言わずもがなだ。
「……仕方ありませんね」
「何をなさっているの?」
ゴソゴソと己の胸元を漁り始める私に、マーラはさらに眉を寄せている。あまりに眉間に皺を寄せすぎてて、そこに跡が残らないか心配になるくらいだ。
「はい、これ」
「これって、干し肉……?」
「えぇ、以前お渡ししたものと同様、ウサギの干し肉です。非常食でいくつか持っておりますので、今回だけはお譲りしますが、今後は出されたものを食べてくださいよ」
「ステラだけ、狡いですわ!」
「私は危機管理能力に長けていると言っていただきたいです。そのように私に文句を言うなら、別に無理に食べていただかなくてもいいですよ」
「わ、わかりましたわよ!いいから、それを早くくださいな!」
以前文句言っていたわりに欲しがる辺り、気に入ったらしい。マーラに渡すと、早速ガジガジと干し肉に齧り付くマーラであった。
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