第23話 波乱の見合い
(なるほど。こういうことね……)
思わず目が座ってしまう。そして視線の先には、若い女性に囲まれているクエリーシェルがいた。
「(私、クエリーシェル様みたいな方がタイプですぅー)」
「(えーー!クエリーシェル様は今回参加されないのですか?)」
「(ご結婚されてないならご参加でいいではありませんか!ここ、カジェ国は一夫多妻制ですし、私は妾を何人取ろうが気にしませんよ?)」
キャイキャイと、女性らしい甲高い声が耳につく。クエリーシェルはカジェ国語が然程わかっていないからか愛想笑いばかりで、それが余計に癪に触る。
(何よ、もう。デレデレしちゃって……!)
一応外交ということで、下手に荒立ててはいけないとクエリーシェル自身もわかっているから、この対応だと言うことは私もわかっている。
わかってはいるが、実際にこうして自分の想い人が異性とくっついているのを見ると、どうしても苛々が抑えられなかった。
(ロゼットの時は、なんとも思わなかったというのに)
あの例の舞踏会のときは誰かと良縁を結ばねばと思っていたというのに、今では心中がまるっきり違うことに我ながら驚く。恋慕というのはある意味恐ろしいと思いながら、気を紛らわすために他のメンバーを見回ることにした。
今回の集団見合いは、一応男女比で言うと女性を多目にしてもらっている。というのも、このカジェ国では一夫多妻が認められているからである。
男女比が偏っているための制度だが、それなりに資産がある彼らなら養うことはできるだろう。
そもそも今回は、カジェ国の貴族の方々も来ているし、いくら一夫多妻と言えど男性が極端に少なければ養うにも限度があるということで今回の見合いが要請された。
カジェ国内でも、貴族ばかり囲ったところで、派閥やら何やらで軋轢が生まれるのは必至だということでの配慮だそうだ。
そのため、今回のお見合いは例え国際結婚だったとしても、お互いに子孫は作れるし、血が近くならず、資産も守れるとのことで、双方悪い話ではないというわけだ。
(やはり女性が多いだけあって、ある程度はバラけているのね)
人それぞれ好みがあるように、いい感じに人が配分されているようにも思う。一番懸念していたヒューベルトも、数人の女性と歓談しているようだ。
とりあえずホッと胸を撫で下ろして再びクエリーシェルを見れば、いつの間にかさらに人数が増えている。自然と眉間に皺が寄っていることに気づいて首を振った。
(ダメダメ。今は自分の仕事に集中)
「(お話弾んでますか?)」
「(ふふふ、えぇ、問題なく)」
「(お気遣いどうもありがとうございます)」
巡回してそれぞれのグループを見て回っているが、見ている限りでは言語に問題がありそうな人はいなそうだ。
「次のお食事、ワタクシはクエリーシェル様のお隣がいいですわ!」
高い涼やかな声でコルジール語が聞こえて、そちらを向く。すると、褐色の肩ほどで切り揃えられた黒髪の美しい女の子が、クエリーシェルの腕にくっついていた。
「(コルジール語がお上手ですね)」
「ワタクシには、コルジール語でお話いただいて結構ですわ!マスターしておりますもの」
「まぁ、それは素晴らしい」
「できる奥方になるには当然ですわ!」
ふふん、と胸を張って言う姿は美しい見た目ではあるものの、どこか幼いというか、背伸びしている印象を受けた。
独学で覚えたのだろうか、「私」というのが少し独特な訛りがあって、それも可愛らしい印象を助長している。
とはいえ、言っている内容は少々鼻につくが。そもそもクエリーシェルは今回サポートで来ているだけだというのに。こんなことになるのならば、部屋で待機させておけば良かったと思うものの、後の祭りである。
「ちなみにクエリーシェル様は今回のお見合いの参加者ではありませんので、申し訳ありませんが……」
「でも、未婚で婚約者がいないのでしょう?だったらいいではありませんか!ワタクシは他の誰でもないクエリーシェル様がいいのです!!……そもそも何ですか、貴女。ただの司会でしょう?ワタクシはこれでも第8皇女ですよ?指図なさらないでちょうだい」
「」
まさかの皇女に閉口する。いや、確かにここカジェ国は一夫多妻故に派生して分家としての皇子皇女が多いことは知っていたが、まさか皇女が出てくるとは。
(しかも、狙いがクエリーシェルだなんて)
厄介なことになったなぁ、と思いながら顔に出すことはできないので愛想笑いを顔に貼り付ける。
「一応、私は国使としてコルジール国より遣わされているものです。今回の見合いをスムーズに運営するためにも、ぜひともお名前はえーっと」
「……ワタクシの名はマーラよ」
「マーラ様には別の方をお願いしたく……」
「嫌よ」
取りつく島さえない態度に段々と苛つくが、ここは大人の対応だとグッと我慢する。
「マーラ様にはもっと相応しい方が」
「それはワタクシが決めること。いい加減しつこいわ、貴女。さっさとどっか行ってちょうだいな、オバさん!」
「お、オバ……!!?」
まさか、17という年齢でこのような扱いを受けると思わず絶句する。そしてクエリーシェルを見れば、下手なことを言ってはまずいと判断したのか、申し訳なさそうに顔を歪めるだけだった。
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