第22話 お見合い当日
「(……で?昨日は何かあったの?)」
わざとクエリーシェルに聞こえないようにか、カジェ国語でこっそりと聞かれる。
「(別に、何もないわよ)」
「(そう?侍女から朝、ステラの部屋で騒いでるのが聞こえたと聞いたけど、気のせいなのね。……残念)」
(やはりこの女、私をからかって遊んでるな!)
そう確信したものの、ここで朝から喧嘩したところで何もいいことはないので、グッと我慢する。
そもそも、朝からその一件でバタバタしたせいで、身支度が遅れてしまって今に至るので、あまり強くは出られなかった。
「今日はお見合いでしょう?貴女が司会なのだから頑張ってね」
「わかってるわよ。頼まれたことは無碍にはしないわ」
「そうよね、ステラは昔から頼まれごとには弱かったものね……」
「?」
急にしみじみと言われて、なんだか調子が狂う。たまにこう、なんていうか、姉様みたいに私を見るときがあってドキッとする。
そして、そういうときは少しだけ居心地が悪いというか、居た堪れないというか、そういう感覚に陥る。
「さて、あんまりダラダラしててもしょうがないし、朝食終えたらさっさと行きなさい?」
「わかってるわよ」
「口が悪いわよ」
「アーシャに言われたくはないわ」
再び減らず口を叩くいつものアーシャに戻ったので、私も応戦する。
「(頑張ってね、ステラ。言っておくけどあの人、コルジールではどうか知らないけど、この国では結構モテるわよ?)」
「(は?でも、クエリーシェルは別にお見合い参加はしないし)」
「(そうだとしても、よ。未婚なんでしょう?ま、せいぜい虫がつかないように頑張って)」
そう言って、「私は忙しいからまた明日以降~じゃあねー!」と優雅に去って行くアーシャ。
相変わらず主導権を握られて、あまりいい気持ちはしないものの、最後の彼女の言葉が気にはなる。
(クエリーシェルは参加しないのだし、大丈夫よね)
「大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫です。ささ、遅くなってしまったぶん食事をさっと終えて向かいましょう」
そう言って、私はアーシャとの会話を気にしつつも空気を読んで離れていたクエリーシェルと共に、朝食会場へと向かうのだった。
◇
食事を終え、見合いの会場に到着すると見合いメンバーは既に到着していたようで、私を見つけるやいなやニコニコで手を振られる。
「リーシェ先生!お待ちしておりました!」
「おはようございます、みなさん。今日は気合いが入ってますね」
微笑ましくなるほど、皆こちらの民族衣装を着こなしている。一応アーシャが侍女達を手配してくれたらしく、こちらの様相に合わせた格好で身支度を整えてくれたらしい。
こういうところは本当に気が回るというか、できる王妃だと言える部分だろう。だからこそ、悔しく思ってしまうのだが。
「リーシェ先生はいつものドレスなんですね」
「私は、今回参加するわけではありませんから。あくまで国使兼司会ですので。みなさん、今日は頑張ってくださいね」
そわそわしている彼らが、何となく可愛らしく思える。それは恐らく自分にとって関係ないからであり、他人事であるからだと自分でもわかる。
(とりあえず、彼らの見合いが上手くいけばいい。せめて、半分の組みくらい決まってくれればいいけど)
見合いメンバーの中で一際気合いが入っているのが、ジュークだ。彼は講義の時もそうだったが、人一倍思い入れが強そうである。
(……あれ?)
メンバーがそれぞれ、どういう子がタイプだとかこういう子がいたらいいな、と会話を楽しんでいる中、なぜかヒューベルトだけが1人壁に背をつけて男性陣を眺めている。
元々積極的ではないことはわかってはいたが、こうして見るとなんだか1人だけ雰囲気が違うことに気づく。
(そういえば、講義のときからちょっと異質だったのよね)
みんな配偶者を得るために奮闘しているのに対して、ヒューベルトはどこか冷めているというか、消極的というよりも参加者を観察しているという方がしっくりくるような気がしていた。
そして、その観察に関しては私も含まれる。
(まぁ、とりあえずは様子見ね)
下手にここでちゃちゃを入れたところで仕方がないので、とりあえず今回の見合いの様子を見つつ、考えることにした。
(さて、私も今日は頑張らないと!)
今日のスケジュールとしては、懇談会と食事会だ。
まずは、懇談会でそれぞれの国のことなどいくつかお題を用意しているため、それに則って会話してもらう。その後、食事会でこちらの料理や文化に馴染んでもらいつつ、会話を楽しんでもらう寸法だ。
「(リーシェ様、会場のご用意ができました)」
「(それは、どうもありがとうございます)」
侍女がこそっと話に来る。
ここでは私はステラではなくリーシェだ。それもきちんと配慮してくれて、事前根回しもバッチリのようだった。
「では、会場の準備が整ってとのことですので、皆さん会場に向かいますよ!」
まるでツアーコンダクターのように声を張ると、ぞろぞろと男性を従えて会場へと向かうのだった。
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