第21話 昨夜の出来事
「おはよう、ステラ」
「おはよう、……アーシャ」
「なぁに、寝不足?もう、美容に寝不足は厳禁よ?」
「一体、誰のせいだと……!」
ぐぬぬぬ、と怒りで震えれば、どこ吹く風と言わんばかりに涼しい顔をしているアーシャ。
昨夜は本当に、それはそれは大変だった。
私が風呂から上がり、とりあえず髪を乾かしている間にクエリーシェルが風呂に入って、とお互いになるべく視界に入れぬように聞こえぬように意識すれば良かった。
だが、問題はその後の寝る場所だ。
クエリーシェルはその辺に転がって寝ると言うし、私は先程寝てたのだから代わりにクエリーシェルが寝てくれと言い合い、なんだかんだと結局ベッドで2人で寝ることになった。
一応ベッドはキングサイズで大きいとはいえ、クエリーシェルのガタイで言ったら、そこまでベッドが広いとも言いづらい。
そして、逆に距離を離して寝るというのも、一応相思相愛だというのに不自然ではないかとも思ってしまう自分がいる。
「とりあえず、明日も早いことだし寝るか」
「そ、そうですね」
おずおずと布団の中に入る。さすがカジェ国、生地にはとことん拘っているようで、素肌に触れる部分の肌触りが良く、とても気持ちいい。
1人だけであったなら、きっと心置きなく満足できたであろうに。
(いや、クエリーシェルが悪いわけではないけど。あくまで悪いのはアーシャなんだから)
「失礼するぞ」
「どうぞ……」
部屋のメインの灯りが消され、月明かりと他の燭台で真っ暗ではないものの、少し薄暗くなる。
(考えてみたら、添い寝って初……?)
そういえば、クエリーシェルが酔っ払って近くで付き添ったことはあるが、こうして共寝するのは初めてだ。
クエリーシェルが同じ布団に入っているという事実が、何となくこそばゆい。入ってきた途端にふわっと彼の匂いと体温を感じて、なぜか胸がきゅうと甘く痛む。
(ダメダメ、私。自然に、自然体よ。ただ寝るだけでいいんだから。寝たら、明日。そう、ただ寝るだけでいいの……!)
意識したら余計に寝れなくなってきた気もしたが、とりあえず目を瞑る。
「おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
長い沈黙。……もう、クエリーシェルは寝ただろうか?と、そっと身体をそちらに向ける。
(こうして、近くからまじまじと見るのは初めてかも)
綺麗な顔をしていると思う。黒目がちな瞳は瞼に覆われ、少し吊り上がった眦は目を閉じていることで印象が柔らかく感じる。
睫毛も多くしっかりと上向いて、綺麗な曲線を描いて生えているのがよく見えて、何となく羨ましいと思ってしまう。
こうしてじっくりとよく見ると、当初会ったときとはまるっきり別人だなぁ、と改めて思う。
髪も髭もサッパリさせて、今もそのままキープしているのだが、過去は中性的でダリュードに似ていたというのは、寝顔を見たら確かに納得してしまう部分は多々あった。
幼さが多少垣間見えて、少し微笑ましくなる。瞼を閉じて、無防備な姿を晒すというのは自分だと恥ずかしいが、人のを見るというのはちょっとだけ楽しい。
「眠れないのか?」
「!!!」
パチっと目が開いてこちらを見るクエリーシェル。まさか起きてると思わず、ドキッと心臓が飛び出しそうなくらい驚いた。
「大丈夫か?」
「いえ、起きてると思わなくて……」
「さすがにそこまで寝落ちするほどは疲れていない。それに、そこまで凝視されていたら寝るに寝れないしな」
「!気づいてたんですか……?」
「これでも気配には敏感な方でな」
(恥ずかしい)
最近は恥ずかしいと思ってばかりだ。今までこうして恥ずかしいという感情など感じたことなく生活していたが、最近ではこの羞恥心が感情を大いに揺さぶってくる。
淡白で、感情を殺して生きていたときからは想像もつかないほど、今は感情が豊かになっている。いいのか悪いのかはわからないが、ただ言えるのは自分が人らしくなってきたという実感だ。
「え、ちょっ……!」
大きな腕が私の身体に巻きついたかと思うと、グイッと彼の腕に抱き込まれる。そして訳も分からぬ状態で額と額を重ねられて、目を白黒させた。
「顔が赤いから熱でも出たかと思ったが、そうでもないか」
「ね、熱はないです!というか、離してください……!」
「リーシェは体温が低くて気持ちがいい」
クエリーシェルの髪が頬を撫でる。それが擽ったくて、こんなに近くで長時間吐息を感じることなどなくて、パニックになる。
でも、大きな身体を押したところで私の力ではどうすることもできず、彼の胸に納まったまま。だんだんと馴染む体温が温かくて、なぜかホッとして、そんな自分が恥ずかしくて。
そして、いつの間にか本当に寝てしまったクエリーシェルに悶々としながら、結局自分が寝れたのは外が白んできてからだった。
ちなみに、起きたら起きたで謎の硬い物体を手で掴んでしまい、クエリーシェルが悶絶して私がまたパニックを起こしてと一波乱あったが、そのことは思い出したくないので割愛する。
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