第11話 お披露目

「(待ちくたびれたぞ、アーシャ)」

「(ごめんなさい、アジャ。ちょっと、手間取っちゃって。でも、どう?素敵に仕上がったでしょう?)」

「(あぁ、さすが私のアーシャ。君にも勝るとも劣らないほどの美しさだ)」

「(んもうっ、私の方が綺麗でしょう!)」

「(そうだな、君の方が美しい)」


なんなんだ、この茶番は。私をダシにいちゃついてるだけじゃないか、と目の前で繰り広げられる甘いムードの2人を、死んだ目で見る。すると、何だか視線を感じ、顔を向ければ顔を手で覆ったクエリーシェルがそこにいた。


彼も私がいない間に着替えたようで、薄手の白い服に変わっている。普段見ない服装なせいか、なんとなくいつもよりも凛々しさがプラスされて、カッコよく見える。


普段覆われている筋肉質な腕や胸板、ガタイの良さがぴったりとした服装のために際立っている。元々目鼻立ちがハッキリしてるのもあって、とても服装にマッチしていて、勝手に胸が高鳴った。


「クエリーシェル?」

「いや、なんだ、あ、何ですか、その、なんていうか」


あからさまに狼狽えているクエリーシェルに、さらに近づく。そして、顔を覆うその手を外そうと手を伸ばすが、思いのほかがっちりと顔を覆っていて、なかなか外せない。


「ちょ、何してるの、手を外してよ……!」

「いや、ダメだ。直視できない……!」

「何の話よ。いいから、ほら、私せっかく時間かけて着替えたんだから!」


そう、あれだけ時間をかけて着替えに耐えたのも、クエリーシェルに見てもらいたいという気持ちは少なからずあったからだ。


いつも褒めてくれる彼に、また褒めてもらいたいというのは乙女心として何らおかしくないことだと思う。


「クエリーシェル!」

「……わかり、ました」


そう言って恐る恐る手を外して、こちらを見るクエリーシェル。すかさず彼の手を取り、再び顔を覆わないように両手を握って拘束する。


「どう?似合う?」

「似合うというか、なんというか、いつもと違って扇情的というか。腹は冷えないのか……?いや、冷えないのですか?」


まさかの感想が腹部の冷えで、思わず笑ってしまう。なんというか、彼らしい。一応、腹部にある先日の傷は上手い具合に服で隠してあるのだが、アーシャにこれはどうしたのだと聞かれたときは焦った。


(ちょっと訳があって、と言ったときは非常に険しい顔をしていたけど)


「大丈夫よ、基本はこちらは暖かいから。まぁ、誰かさんみたいに胸はないから、メリハリはない身体だけどね。でも腹筋は、ほら、それなりに鍛えているでしょう?」

「っ!腹部に私の手をやらないでください!」


途端、顔を真っ赤にする彼が可愛らしい。私は加虐体質なつもりはなかったが、クエリーシェルを見るとどうしてもなんかからかいたくなってしまう。


(ダメダメ、気をつけないと)


「……そもそも、服が薄すぎます」

「嫌?」

「そういうんじゃなくてな、いや、そういうんじゃなくてですね、体温が、こう、間近というか、あと身体のラインがわかるのとか……」


あまりに混乱してるのか、敬語やらタメ口やらがごっちゃになっている。確かに、コルジールでこのような服を着ることは寝間着ですらない。


人によっては、目に毒だと感じることもあるだろう。もうクエリーシェルはいい年なんだから多少は免疫があってもいい気もするが、そこは元々人嫌いで女嫌い。それならば、苦手な分野であるかもしれない。


「ねぇ、ちょっとそこ、イチャつかないでちょうだい」

「アーシャに言われたくないのだけど」


急に横槍が入ってきたかと思えば、国王とのイチャイチャタイムはいつの間にか終了していたらしい。


「そういえば、その人とはどこで知り合ったの?」


まさかのキラーパスに、何となく会話の行き先が不穏であることを察し、カジェ国語で答える。


「(アーシャも港で会ったことあるわよ)」

「(は?……って、あの毛むくじゃらの?!!)」

「(毛むくじゃらとか言わないでよ!)」

「(化けたわねー。というか、考えてみたらコルジール城にもいた?)」

「(えぇ、結構離れてたけど)」


ふぅん……と意味ありげな顔でニヤニヤしているアーシャ。そして訳がわからない顔のまま、クエリーシェルが私とアーシャをキョロキョロと見ていた。


「ま、いいわ。さて、ではこちらは晩餐会の準備をするから、その間貴方達は庭園でも見てて時間を潰してちょうだいな」


そう言うと、すぐさま応接間から放り出される。相変わらず扱いが雑だ。気の置けない仲、というせいもあるだろうが。


「何を言われてたんだ?」

「別に、何でもないです」

「(ステラ姫、庭園にご案内致します)」


侍女が再びどこかから湧いて出る。クエリーシェルは急な侍女の登場に驚いていたが、私はもう、侍女がどこから湧いても驚かない自信があった。

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