第10話 着せ替え完了
「はい、終わり!」
「これで、全部?」
「えぇ、これで全部おしまい」
「はぁぁぁぁあああ、やっと終わったぁぁ……」
女性の美にはお金も時間もかかると言うが、さすがにこれはかけすぎなような気がする。まさか、着替えだけで疲労困憊するなどと、誰が思おうか。
「鏡見る?(姿見、持ってきてちょうだい!)」
アーシャが手を小気味よく、パンパン!と叩くと、侍女達が大きな姿見を持って現れる。そして、姿見を置かれて映った自分を見て、思わず声を失った。
「……誰?」
「やだ、自分の顔も忘れちゃったの?」
「いや、だって、でも……変わりすぎでしょ!?」
西洋の化粧とはまた違って色々な色味を足すイメージだが、私の白い肌に合わせて、きちんと馴染む化粧をしてくれたらしい。
普段、日に焼けて少し小麦色になってしまった肌は綺麗に白い色で覆われ、シミなども綺麗に隠してくれている。
頬紅や口紅も綺麗な薄紅色の発色で、あまり派手すぎず、かと言ってきちんと主張はしていて、ぷるぷるのふっくらとした唇に仕上がっていた。
眦もしっかりとアイラインが引かれ、目の印象が強くなって、さらにアイシャドウで瞳と同系色も緑や青が使われ、大人っぽく見える。
鼻立ちも際立たせるためのシャドウが入れられており、全体的に顔がハッキリとくっきりとしたようになっている。
髪も普段のように全て結い上げているのではなく、一部結い上げてあとはそのまま流している感じだが、それもまた化粧に合っていた。
(私も化けるものね……)
ある意味感心してしまう。ここまでとは、想像以上の出来栄えだった。
そもそも元々童顔なため、まさか大人っぽいような仕上がりになるとは思わなかった。また、今までにない化粧に驚きが強く、上手く反応することができなかった。
「私の手にかかればこんなものよ」
「いつもこんなに手間かけてるの?」
「私は自分に合う色やものがわかってるから、半分くらいしか時間はかからないわ」
(半分はかけてるんじゃない)
美貌を保つのはもちろんだが、きちんと隠せるものは隠してるらしい。まぁ、私よりも8つ上なのだから、そりゃそうっちゃそうだろうけど。
「今、失礼なこと考えたでしょ」
「気のせいよ」
「これで、あの彼氏も骨抜きにできるんじゃない?」
「だから、そういうんじゃないってば!」
「まぁ、いいわ。とりあえず殿方をお待たせしたっきりだし、早く行きましょう?」と再び腕を拘束されて歩き出される。
さすがに、行きに比べたら服が乱れるとのことで多少手加減してるものの、それでも私の腕をホールドして離すつもりはないらしい。
「待っていたのよ、ステラが来るの」
「それは、……どうも」
「本当、可愛げないんだから。父上も母上も貴女に謝りたいんですって」
「別に、私は謝られに来たわけじゃ」
「そうかもしれないけど、ね。罪の意識に苛まれてる人達だから、謝ることで気持ちを楽にしたいのよ。わかってあげて」
何とも言えない複雑な気持ちになる。謝ってくれたからと言って事実は変わらない。そして、謝られたら許さなくてはいけなくなる。
(でも、何を許せばいいっていうの?)
家族を失ったことは悲しい。でも、それでも私は前に進まねばならない。だから私はここに来た。ただ安らかに死ぬのではなく、新たな自分の生きる道を確保するために。
「老人の戯言だと思って聞き流してちょうだい。そうそう、晩餐会にはアルルも来るわ」
「アルルは元気?そうそう、アマリス皇女からアルル宛に手紙を預かっているわ」
「あら、ではあとでいただくわね。アルルは元気よ。元気過ぎて困っちゃうくらい。早くステラも子供を産みなさいな。私の第2子と貴女の第1子は同い年にしましょうよ!」
冗談なのか本気なのかわからない提案を笑顔でしてくるアーシャ。
「結婚する予定もないのだから、馬鹿なこと言わないでちょうだい。しかも、私まだ17だし」
「でも、コルジールだと成人なのでしょう?」
「そうだけど!……とにかく、まだ戦争も終わってないのだから、そういうことすぐには無理でしょう」
最もなことを言うと、途端アーシャが黙り込む。神妙な顔をすると、歩調がゆっくりになった。
「……そうね、早くこの戦争を終わらせたいわ。戦争なんて、私達の代で全部終結させないと」
「えぇ、私のような想いを、もう誰にもさせたくない」
(アルルにもアマリス皇女にも。もうこんな何も生まない戦争など早く終結させなければ。そのためには、打倒バレス皇帝!)
「ちなみに日程としては、明日にお見合いをして、お互い落ち着いたら戦況や今後の目標などについて話しましょう?」
「わかったわ」
飄々としているようで、なんだかんだ聡いアーシャ。こういうところも自分に似ている要素だと思うし、この国を背負っている人間だということがよくわかる。
喋っているうちに、あっという間にクエリーシェルの待つ応接間に到着する。
(どんな反応するかしら)
以前ドレスを着たときは褒めてくれたけど、今回は好みに合うだろうか。
(褒めてくれたらいいなぁ)
そう思いながら、私は応接間にアーシャと共に入るのだった。
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