第49話 呼び出し

あれから毎日リハビリもし、だいぶ歩けるようになった。クエリーシェルは領主の仕事の傍ら私の見舞いにも頻繁に来てくれて、リハビリも手伝ってくれている。


「確かに、若いだけあって回復が早いな」

「ケリー様は、怪我や病気にはくれぐれもお気をつけてください」

「どういう意味だ」

「さぁ?」


なんて、以前にも増して軽口を言い合う仲にはなっている。そして、あの事件から1ヶ月半で、それなりに生活が送れるようにはなってきた。


「大丈夫か?無理はしないほうが。振動が傷口に障らないか?」

「だからもう大丈夫ですから。心配症ですね、今日は国王と謁見するだけですし、すぐに帰宅しますから」

「とはいえだな、ほら、もし貧血を起こして倒れたりでもしたら」

「だから、大丈夫ですって……っ!」


国王からある程度治ったなら会いに来い、と呼び出しを受けたので謁見することになった馬車の中。


私が自分の身体を顧みないほど無茶をすると知ってからか、クエリーシェルはこのように小言が多くなったように思う。こういうところはあの姉マルグリッダにそっくりだ。


正直、心配してくれるのはありがたいが、今までこのように心配をされたことがないので、少々過保護すぎやしないか、とも思ってしまう。


でもやはり、心配されていること自体は嬉しいので、あまりに酷いとき以外はなるべく言うことを聞くようにはしている。


実際、自分が無茶をするのは幼少期よりの仕様だ。私も私で好奇心のまま、また自分が正しいと思ったまま行動するタイプなので、それはそれで彼との相性としてはちょうどいいのだと、と勝手に思うことにした。


「そうそう、家には護衛をつけたぞ。そろそろずっと2人というか、私が不在のときはリーシェ1人だと危ないしな」

「そうなんですか。では、今度挨拶せねばですね」

「あぁ、ちなみにバースという青年だ。私同様、人嫌いの気があるから、その辺りは配慮してもらえると助かる」

「承知しました」


そうこうしているうちに王城へと到着する。


着くや否やすぐにエスコートしてくれて、さながら姫のように扱われる。いや、実際には身分としては元姫なのだが、周りの私の身分を知らぬ者からしたらさぞや不思議な光景であろう。


「お待ちしておりました、ヴァンデッダ様、リーシェ様。こちらにお越しください」

「謁見の間ではないのか?」

「いえ、王の私室へとご案内致します」


あぁ、なんとなく話したい内容は察した。というか、元々わかってはいたが、要は私の処遇についてだろう。


とりあえず言いたいことはある程度脳内でまとめておく。


「こちらです」

「ありがとうございます」


通された王の私室はさすがコルジール王、と呼べるほど細部までこだわった部屋だった。


調度品も家具もどれもこれも調和していて、どれもこれも一級品であることには間違いない。


その部屋の主人あるじはベッドそばの椅子に腰掛けるとここまで参れ、と私室の中央まで入るように促された。


「改めまして、正式なご挨拶が遅れまして申し訳ありません。私、ペンテレア国の第2王女、ステラ・ルーナ・ペンテレアと申します」

「あぁ、堅苦しいのは良い。大体のことはそこの大男に聞いている」

「左様ですか」

「で、今後について話し合いたいと思ってな」


(やはり私の処遇についての話し合いか)


まぁ無理もない。下手に私を匿うことで、帝国に目をつけられることになるのはごめんだろう。


「私は現在ゴードジューズ帝国のバレス皇帝より追われる身。恐らく、あの皇帝はペンテレア最後の生き残りを殺そうと躍起になっていることでしょう。ですから、もしこの身がこの国に不都合であれば、私はこの国を出ようと思います」

「な!聞いてないぞ!!」


(だって、言ってないもの)


後ろでギャアギャアと騒ぎ立てる男に国王は「煩い、黙れ」と一喝する。


「カジェ国に行くつもりか?」

「えぇ、まぁ。……ご存知でしたか?」

「あの例の話をしたあとに、カジェ国の王妃とお前の姿が消えたとの報告は受けていたもんでな。悪いが、こちらも国を運営している身、そういうことは把握せねばならんからな」


ということは、私の身分など粗方把握済みであったということか。やはりこの国王は食えない男だ。


「お察しの通り、ペンテレアとカジェは古来より親交がありまして、彼女とは幼馴染の間柄です。年は離れているものの、関係としては悪友という感じですが、それなりにはお互い信頼はしていると思います。なので、こちらを出るとなるとそちらを頼ろうとは思っています」

「何か帝国に対して策はあるのか?」

「なきにしもあらず、と言ったところでしょうか。さすがの私も無駄死にはしたくありませんので」

「なるほど」


思考を巡らせているのだろう、腕を組んで俯き何かをぶつぶつと言っている。恐らく考えごとを整理するために声を出しているのだろうが、正直その姿は異様でちょっと恐い。


「ステラ、いや、リーシェと呼んだ方がいいか?」

「ステラの名は捨てましたので、リーシェでかまいません」

「ではリーシェ、其方にこの国への滞在を許可しよう。その代わり、持っている情報は全てこちらに寄越せ」


(あぁ、なるほど。私は手駒にすると都合がよいと判断したのか)


「身の安全との引き換えに情報を、ということですか?」

「まぁ、そういうことだ。帝国とマルダスの結託は未だに続いているようだからな。少しでも戦力になるものは欲しい。あと先程から、私に睨むように熱い視線を送ってくる男も面倒だからな、リーシェが面倒見てくれたほうが助かる。どうだ?」

「私は構いませんが、いいんですか?」

「いいも何も私が決めたのだ、異論はない。だが、其方そちらの出生に関しては内密にするように。先日の港町で名乗り上げたそうだが、あの混乱と騒ぎの中で聞いた者は早々おらんし、一応いた者はほぼほぼ処分してある。だが、下手に早く情報がマルダスや帝国に渡っても不利だからな。その辺は気をつけてもらいたい」


想定外の展開ではあるが、これもまた人生だ、と受け入れる。私を必要としてくれる人がいる、という事実だけでも幸福であった。


「承知しました。この話、お受け致します。ただ……」

「ただ?」

「恐れながら、1つだけ条件、というかお願いをしてもよろしいでしょうか?」

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