第21話 舞踏会
「ヴァンデッダ様!いつも素敵だとは思いますが、今日はいつにも増して素敵ですね!!」
馬車を降り、舞踏会会場に着くなりニールが犬の様に纏わり付いてくる。好かれているのはなんとなくわかるが、あまり男同士でくっつくのはいかがかと、クエリーシェルはそれとなくニールと距離を取った。
「ありがとう。リーシェに見立ててもらってな」
「また、あのメイドですか……」
ぐぬぬ、となっているのはあえてスルーする。
何かと彼はリーシェと張り合っているようだが、そもそも彼らの立っている土俵が違うのだから気にしたって仕方ないことだと思っているが、言ったところでどうこうなる問題でもないと、あえて追及しなかった。
「おや、誰かと思えばヴァンデッダ卿ではないですか、本日はイメチェンですかな」
「シュタッズ様、この度はお呼びいただきありがとうございます」
声をかけてきたのはジュード・シュタッズ、このシュタッズ家の当主である。
細身ながらも凛とした佇まいは、歴史ある侯爵家としての風格があり、なかなかのオーラがあった。
「いい歳ですので、身なりにも気をつけようかと」
「そうだな、貫禄があるのもよいが、女性には今のようなほうが好まれるだろう。せっかくの舞踏会だ、ぜひ楽しんで行ってくれたまえ」
「ありがとうございます」
確かに、今まで来ているどの舞踏会とも扱いというか、周りが自分を見る目が異なっていることがわかる。
以前では遠巻きにされていたような雰囲気が、なぜか自然と視線を感じるようになっていた。
(リーシェのおかげだな)
礼服を一式、体型に合わせてデザインも整えてくれていたおかげか、身体が大きく誇張されることなく、引き締まって見える。
色も深緑は普段選ばない色だが、落ち着いた雰囲気になりつつも、金刺繍のおかげで気品も備わり、ある程度さっぱりと切った髪をしっかりと結い上げられたことで、キリッと顔つきが凛々しく見えるようになっていた。
髭も女性からの印象が悪い、と綺麗サッパリ剃られてしまったのだが、野暮ったいイメージだったのが洗練されて、自分で言うのもなんだが、野獣が王子に化けたくらいの大きな変化があった。
「リシェル?!」
「あぁ、姉さん。久しぶり」
来ているだろうとは思ったが、会うや否や人目も憚らず、驚愕している姉に苦笑する。
「どうしたの!ちょっと噂には聞いていたけどすごい変わったわね、貴方!」
「そうかな?」
「そうよ、見違えすぎて誰かと思ったわ。いつも無頓着な貴方がこんな素敵になって、いよいよちゃんとお嫁さんをもらう気になったのね!」
興奮している姉に、それとこれとは別だ、と思いつつも、下手に水をさしてもしょうがないので苦笑して誤魔化す。
実際のところ、それなりに何か出会いがあればいいが、と思っているのも事実ではある。
だが実際のところ、どのような娘がいいかと考えたときに、真っ先にリーシェが思い浮かぶ。
彼女のような一緒にいて苦ではなく、話も合ってお互いにちょうどいい距離感で……、と考えたところで思考を停止させる。
いやいや彼女はメイドだし、そもそも年が離れすぎている。彼女だってこんなおじさんは嫌だろうし、あくまでリーシェ本人ではなく、彼女のような女性がいいのだ、となぜか自分で自分に言い訳する。
普段、なかなか女性と接する機会がないせいで身近な者を考えてしまうのだろう、と勝手に自己分析しながら、うんうんと長考していると「リシェル?」と声をかけられる。
「何でしょうか」
「そうそう、聞いたわよ。使用人を雇ったって。で、その子がすごい優秀だって」
「クイードだな」
「こら、ちゃんと国王陛下と呼びなさい!」
全くあいつはすぐに告げ口を、と内心毒づく。何となくお節介焼きなところがあるが、そこまで心配されるような年齢でもない。……はずだ。
「どんな人を雇ったの?」
「若い娘です」
「え!まさかそっちの気が?!いや、ねぇ、若い子に越したことはないけど、ねぇ……」
姉がすごい白い目で見てくるのを、慌てて訂正する。きっとこの表情的に12、3か、下手するとそれより前くらいの娘を想像してそうだ。
「いやいや!16なのでそこまで若くはないですが、そんなつもりは。そもそも、使用人に手を出すつもりは毛頭ないです」
「なーんだ。まぁ、そりゃそうよね。でも、それにしたってリシェルをここまで変えるなんて。今度会ってみたいわ」
「そのうち遊びに来てください。歓迎致しますので」
「あら珍しい。そうね、ダリュードも連れて遊びに行くわ」
甥の名前が出てきて、そういえば甥と年が近いことを思い出す。そりゃ、年齢差を感じるわけである。
(って、なぜ感傷に浸っているんだ、私は)
「そういえば、ダリュードは今いくつですか?」
「もう13よ!本当、子供って早いわぁ。貴方、ダリュードに先越されないようにね」
しっかりと釘を刺される。確かに甥の方が先に結婚というのもなきにしもあらず、ということが想像できてしまう自分が恨めしい。
実際、自分の結婚というのがあまり想像できない。好意を抱き、逢瀬を重ね、結婚して子供を授かる。理屈としてはわかるが、どうにも自分がやるとなると実感がわかないのだ。
「さて、私とばかり話しててもしょうがないでしょう。気になる女性はいないの?ほら、ダンスホールに行くわよ」
ぐいぐいと腕を引かれて、ダンスホールへと引っ張られる。大男が小柄な女性に引っ張られていくさまは、とてもシュールな光景だった。
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