第9話 頼みごと
「ふぁぁぁ、いい天気」
欠伸をしながら、大きくうーんと背伸びをする。今日も雲1つない、すっきりとした快晴である。
しっかり寝かしつけたおかげで自分もゆっくり眠ることができた。……疲労のせいか、ちょっと寝すぎたくらいだが、領主よりも早く起きれたので問題ない。
彼が起きてきたのは朝食というか最早ブランチの時間だったのだが、久々に休みが取れたと喜んでいたのに、ブランチの途中に国王の従者と名乗る者が来て、そのまま彼は拉致られた。ご愁傷様である。
(彼もまた、不幸な星の下に生まれてしまったようだ。合掌)
というわけで、また私1人でお留守番である。
いるものリストには目を通したのか、はたまた放任主義なのか、私がいると思ったものは適当に買い足しておけとの言質をいただいたので、これは好き勝手してもいいということだと勝手に認識している。うん、ありがたい。
そんなわけで、近くにある街でだいぶ色々なものを買い足してきた。
食材から備蓄、腐食してた壁の補強用品や虫食いされてた衣類の補修用布まで買っていたら随分な量になってしまった。
(今度来るときは、荷物持ち代わりに領主を連れてこよう)
本来使用人としてはあってはならない考えだが、私しか使用人がいないのだから仕方ない。そもそも彼は今まで1人でやってきたということだし、文句もないだろう。
(帰ったら食事の準備と庭の整備と……)
そういえば、領主はやけに薬湯が気に入ったようだったなぁ、と思い出す。
昨日はたまたま庭の草むしりをしていたついでに処分するなら有効に利用しようと考えての行動だったのだが、正解だったようだ。
蓬はあの後乾燥させておいたので長期保存が可能だし、他にも利用できそうな野草を集めて備蓄しておこう。料理にも使えるし。
「出掛けていたのか」
ガラガラガラガラ、と馬車が横付けされたところで、領主が窓からにゅっと顔を出す。馬車から顔を出す大男というのは側から見たらちょっと面白い光景であるが、あえて反応はしない。
「えぇ、買い出しに。今、お戻りになられたのですね」
「あぁ、これで本当に休暇に入れる。というか、随分と買い込んだな。重たいだろう、乗っていけ」
「ありがとうございます」
こういう人の好意は素直に従っておくのがいい、とリーシェは経験上わかっているのでそのまま従う。従者に荷物を預けると、領主の向かいに座る。
「何をあんなに買い込んだのだ?言ってくれれば馬車を出したというのに」
「食材や備蓄が減っていたので。あとは諸々」
「そうか、悪かったな。今度は一緒に買いに行こう」
「ありがとうございます」
この見た目と気遣い、地位も金もそれなりにあるのに来ない嫁。
きっとこの肩書きがなければ彼とお互い手を取り合い愛しあえたのだろうに、残念だなぁ、と勝手に不憫がるリーシェ。
その眼差しに気づいたのか、訝しげな顔で見られる。いけないいけない、下手なことをして嫌われてしまって安寧生活とおさらばするのはごめんである。
「どうかしたか?」
「いいえ、何も。お夕食ですが、ご希望はございますか?」
「ん?あぁ、帰ってから今回買ったものを見てから考えよう。ところで、頼まれて欲しいことがあるのだが」
(頼まれごと)
今まで命令されたことはあれど、頼まれごとなどあまりされたことがなかったことを思い出す。ちょっとは信用してもらえているということだろうか。いや、そもそも留守番を任されている辺り、程々には信用されているのか。
「私ができることなら何でも」
「パーティー用に服を見繕って欲しい」
「お洋服ですか、構いませんが」
「あぁ、よろしく頼む」
パーティー、パーティーか。どういったパーティーなのだろうか、婚活パーティーか?国王に呼ばれたということだし、大きいパーティーであることには間違いないだろう。
となると重鎮達が集まるだろうし、それなりに敷居の高いものになるだろう。国王も参加するとなると他国からの要人が来る可能性もある。ならば、きちんとした装いを見繕わないといけないだろう。
もし、服を新調する場合には採寸せねばならないが、いかんせんこの男は身体が大きいから採寸するにも大変だろうな、と依頼内容の難易度が高そうなことを懸念しながら帰路についた。
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