第8話 招待状
「あの娘、有能すぎるんだが」
「それは、いいことじゃないか」
適当にあしらわれているような気がして、クエリーシェルはなおも食い下がるように畳み掛ける。
「まだ
「ほう、薬湯。聞いたことはあるが試したことはないな。そんなに優秀ならそのメイドを城に登用しようか」
「何を言ってる、ダメに決まってるだろう!」
「じゃあ、わざわざ有能さを自慢するでない」
国王クイードにピシャリと言われて、それもそうだ、とクエリーシェルはそこで納得する。
「それにしてもマシュ族の娘だったか?随分と珍しいものを拾ったな」
「マシュ族の生き残りとのことだが、そんなに有名なのか?」
自国のことは詳しいものの、他は興味があまりないクイードがこのように興味を示すのは珍しい。だから私も、普段追及することはないのだが、話を掘り下げてみた。
「マシュ族が有名というか、一時期流行ったのだよ、占術が。占術と言えば、少々離れた国でのことらしいが、それで争いが起きてな、怨みをかっただか何かで虐殺されたとかどうとか」
「虐殺……」
「噂では、なんでも占術で運命や未来がわかるとかどうとか、それを信じて戦争を起こして見事に敗退したそうでな」
(完全な逆恨みじゃないか)
占いというものを信じない身からしたら到底信じられない話である。馬鹿馬鹿しいとすら思うが、まさかそんな理由で国民が虐殺されるだなんて。
「……つまり、その責任を取らされて」
「まぁ、本当か嘘かは知らんがな。俄かに信じられない内容ではあるし、眉唾物の話だ。そもそも、詳しくは本人に聞けばいいだろう。あの一族は東洋の占術もかじっていたと聞いているし、その娘もそれでそのような物事に詳しいのだろう」
言われて納得する。なるほど、年の割に知識に長けているのは、元々一族としてそういう知識に長けていたからということか。
「まぁ、一度会って話してみたいものだがな。あと、ぜひともマッサージを受けたい」
「王妃様にそのようなことを聞かれたら大事だぞ」
王妃はこのだらしない国王に比べて、とてもしっかりしている姉さん女房だ。だが、それゆえか、嫉妬深いのも事実である。愛されている証拠ではあるのだろうが。
「で、わざわざこの話をしに呼んだのか?休暇だというから、せっかく羽を伸ばそうと……」
「どうせ、家でぐうたらしてるだけだろう?お前宛ての手紙だ、そろそろ宛先を自宅に変えて欲しいのだがね」
「王城や軍本部にいることの方が多いのだから、都合がよいだろう?」
「もう、有能なメイドがいるのだから必要ないだろう?こうしてわざわざ呼び出すのも面倒だしな」
言われて差し出された手紙を見れば、国内でも1、2を争う大富豪であり大貴族であるシュタッズ家からのパーティーの招待状だった。日程は1週間後であるようだ。
「使用人もいることだし、そろそろ本格的に婚活でもしたらどうだ?いい年だろう?」
「クイードも同い年だろう」
「私は誰かと違って結婚もしているし、娘も息子もいるからな。そろそろマルグリッダも心配してるんじゃないか?」
「姉さんは、私のことを未だに幼い坊やだと思っているからな」
「だったら、一人前になって安心させてやれ」
幼馴染であるクイードに諭されて、なんとも言えない気持ちになる。
本音を話せるという間柄ではあるが、身分は違えどやはりそれなりの地位である分別はあるので、それが最もな言葉であることは理解していた。
「わかってはいるんだがな、こればかりは」
「今回のパーティーは規模が大きい。誰かしら気の合う人はいるだろうから、出会いは自ら作っていかんとな。あぁ、そうだ。服も新調して身なりもきちんと整えておけよ。なんなら、そのメイドに一通り誂えてもらえ。優秀であれば、そういうこともそつなくこなしてくれるのではないか?」
「……そうだな、頼んでみる」
「返信は早くするのだぞ」
「わかっている」
クイードの自室から退室すると、手紙を眺める。
「はぁ……、パーティーか」
気が重い。だが、領主の長男として産まれたからには逃れられないものでもある。
「リーシェに頼んでみるか」
あまり人に頼ることのないクエリーシェルはそうぼやくと、王城から自宅へと戻るために馬車に乗り込んだ。
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