第90話 烈乱の女王

 〈王様、城が見えてきたぞ〉


「ジラーテさん、お城の真上まで向かってください」


 〈わかった〉


 さて、どこに降りようかね? なにせジラーテさんの大きさが大きさだからな。

 いっそ領地へ送ったほうがいいかな?


 …………。


 転送案は脚下だな。なにやら物騒な人達がウロウロしてるし、威嚇の為にもジラーテさんには空に君臨しててもらおうか。


「ジラーテさん、ここで待機していただけますか?」


 〈わかった〉


「それではジャーメレナさん、行きましょうか」


「あら、良くわかっているわねMy Lord」


「貴女の表情を見れば一目瞭然ですよ」


「ふふふ。女性の気持ちを察する男は素敵よ」


 いや、察するというか、これだけの満面……いや邪悪?な笑みと期待の眼差しを向けられればねぇ。


 あとは……


「失礼しますね、もし嫌であれば言ってください。体勢をかえます」


「あら、My Lord。えらく手慣れた手つきね」


「それなりに経験もありますから」


 子ども相手が多いけどな。


 ぬおっ!?


「次はその首、切り飛ばすわよ。いい、私は子どもではないわ、この体は種族の特性よ」


「子ども扱いした覚えはありませんよ」


「ふん、それならばいいわ」


 俗物が!みたいな人かと思ったけど、案外可愛らしいところもあるんだね。

 怒り方は全然可愛くないけどな。ってかその体勢お姫様抱っこで大剣首筋寸止めとか器用だな、おい。


「さて、それではちょっと行ってきますね」


 とうっ!


 うーん、地上数十メートルを平気で飛び降りられるのは、ソフィアさん達に染まってきてる証拠なのかね。


 さて、とりあえずセリスさんが降りた所に降りてみたけれどっと。

 お、誰か来た……あれはレンドンドさんか。


「お待ちしておりましたっ!?」


「お久しぶりね、レンドンド」


「なぜお前がそこにいる!」


 この二人知り合いなのか。

 まあ、ジャーメレナさんもえらい人っぽい感じだったしな。王様と知り合いでもおかしくはないか。


「市長殿。なぜこのような女と共に?」


「あら、随分な物言いね。そういえばお仕事の方は順調かしらレンドンド


 新王? どういうことだ?


「無茶苦茶なタイミングで業務を放り出した奴のせいで、大忙しだよ!」


「それは結構なことね、精々精進なさい」


 えーと、仲が良いって空気ではない感じだが。とりあえずわからないことは聞いてみるしかないか。


「あのお二人はお知り合いのようですが………」


「元上司と部下の関係よ」


「ということはジャーメレナさんはレンドンドさんの元で働いていたということですか?」


「逆よ逆」


 ?


「私の配下がレンドンドだったのよ」


 へ?


「私が王だったてことよ」


「王とは……あの?」


「そうよ」


「ハバメヤメの王様はレンドンドさんでは?」


「お城が襲撃される少し前に、王位を譲渡したのよ」


「譲渡ですか」


「そ、エンデルベが焦土作戦をとるっていうし。焼け野はらの真ん中で一人で王様なんかやりたくないから王位を譲渡して、エンデルベに帰ることにしたのよ」


 なんか簡単に説明してくれたけど……。


「ち、まるで不要な物を捨てたかのような言い種だな」


「そうね。そこまで大切な物って意識はなかったわよ。そもそも私達は外様だもの」


 外様?

 ………ああ、そうか。


「先ほど言っていたエンデルベですか」


「そ、私は100年程前にハバメヤメを占領したエンデルベ軍の子孫。

 前ハバメヤメ王兼ハバメヤメ方面軍総司令官よ」


 侵略者の子孫と言えば外様だが……それでも100年もたてばそれなりに受け入れられそうなもんだが。


「何が王だ。この100年お前らが何をやってきたと思っていやがる!」


「しらないわよ、そんな過去の話。私が王だったのはこの5年くらいだもの」


「なんだとっ」


「それに、この5年間は貴方達にとってもまだマシだったんじゃない?」


「それはっ……」


 マシだったのか……。


「だかそれにしたって、マシだった程度の話だろうが!」


「それはそうよ。私の仕事はこの国をエンデルベが望む形で維持することだったのだから。貴方達の生活が豊かになるように骨を折るつもりなんて更々ないわよ。それに貴方達だって私に協力するつもりなんて全くなかったでしょ?」


「誰が自国の民を苦しめることに協力などするか」


「そ、だから、私の政策は貴方達が渋々手を貸した案件以外はほとんど進まなかったじゃない」


 ん?


「当たり前だ」


「それならそこまで青筋たてなくてもいいんじゃない? 私が出したのは貴方達が苦しむようなだけだもの」


「な!?」


「弱者をいたぶるのは趣味じゃないのよ」


「ではなぜ俺達にあれほど苛烈な圧力を」


「レンドンド、貴方達は弱者ではないでしょ?」


 ジャーメレナさん……なんというか面倒臭い人だ、うおうっ!?


「何かしらMy Lord」


 危うく首と胴が離ればなれになるところだった。


「せめて寸止めでお願いしますよ、ジャーメレナさん」


 完全に首筋に刃が入ってるからな。さすがによそ様のお城で斬殺死に戻りとか迷惑だろ。


「し、市長殿? ぶ、無事なのですか?」


「はい、なんとか」


「大丈夫よ、私の新しい上司様はこの程度ではびくともしないわ」


 いや、びくともしますよ。油断したら首と胴体がさようならですから。


「上司? 市長殿……本当に?」


「ええ」


「くくくくく。そうか、そうですか。やはり貴方達は凄まじい!レハパパの火竜のみならず、烈乱の女王すら手なずけるとは」


 何かある度に、大剣叩きつけられる状況は手懐けたとは言わないと思いますが。


「どう、少しは安心したかしらレンドンド」


「少なくともお前らに怯える必要がなくなったということがわかった」


「それだけでも十分な成果でしょ?」


「ああ、それではお話を始めるとしようか、市長殿」


 よくわからんが話はまとまったみたいだな。

 それにしても烈乱の女王……ぬぐおっ!?


「胴ががら空きよMy Lord」


 照れ隠しが苛烈すぎるよ、烈乱の女王様。ってかジャーメレナさん、教育係なんか無理じゃね?

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