第91話 長かった1日

 これでいいのかハバメヤメ。


「どうかしたか、市長殿」


「いえ、色々と大丈夫なのかと」


「ふむ。大丈夫かというのは?」


「まずジラーテさんを使った物質輸送と交流なのですが。そもそも恐怖の対象でしたよね、ジラーテさん」


「それは今まで意志疎通ができなかったからな。意志疎通が可能な者がいて、さらには自分達が襲われないことがわかれば、こんなに心強いことはないぞ」


 心強いか。そんなに簡単に切り替えられるもんなのかね?


「勿論、過去のしがらみがある者もいるだろうがな」


 だろうな。縄張りに近付くものは手当たり次第襲ってたらしいし、どう考えても身内を襲われた人もいるだろう。


「だがそこは時間をかけていくしかないだろう」


「それで納得できるのであれば、私は構いませんが」


「まあそうは言ってもな、実はこの数十年でジラーテ殿に襲われたのはエンデルベの連中ばかりなんだよ。ハバメヤメの民達やレハパパの火鱗族にとってはジラーテ殿は禁忌の存在だったからな、近づくのは本物の阿呆くらいだ」


 なるほどね。そもそも畏怖の対象ではあったが、怨み辛みが向けられる相手ではないってことか。

 それなら慣れさえすればなんとかなるのかもな。


「それでだ。交流の方は人員の選抜もあるからまだ先の話だが、物質に関しては今日から持っていくのだろう?」


「ええ、今日のところは私が運びますよ」


「市長殿が? 結構な量になるが大丈夫なのか?」


「色々あったおかげで大丈夫なんですよ」


「そうか。まあ、大丈夫と言うならば大丈夫なのだろう。なんせ市長殿達に俺の常識は通じないからな」


 って、さすがにソフィアさん達と同列は……


「端から見たらどちらも常識の外だから大丈夫よMy Lord」


 ジャーメレナさん、それは大丈夫ではないと思うんですが。


「そうそう、戦勝の取り分は何をもらうつもりなんだ?」


 戦勝の取り分? ああ、戦後交渉のことか。


「その辺はエンデルベに伺う機会があった時にですかね」


 伺う機会があるのかもわからんけどな。


「ん? 何を言っている市長殿。国を伺う必要はないぞ」


「戦後交渉なのにですか?」


「戦後交渉? 何の話だ?」


 あれ? 微妙に話がかみ合っていない?


「戦勝の取り分のお話ですよね?」


「そうだ。あれだけ派手な勝ち戦だからな、かなり好条件の裁定が下されるんじゃないのか?」


 裁定? 一体何の話だ?


「どうした? もしや神託が下りていないのか?」


 神託?


「ふむ、どうやらまだのようだな。どうやら戦神が処理に戸惑うほどの戦果らしい。まあ、あれだけの力をもってすれば当然のことか」


 レンドンドさん一人で勝手に納得してくれてるけど……全く意味がわからん。

 全く意味が分からんが横から余計なことは口にするなオーラが溢れてるし、とりあえず口はつぐんでおこう。


「レンドンド、私が情報漏洩なんて許すと思う?」


 ですよね。良くわかっています、わかっていますからこっちにまで殺気飛ばさなくても大丈夫ですよ。


「おっと、すまんな。どうにも好奇心がうずいてな」


「好奇心を否定はしないけど、時と場合を選ばないと命を落とすわよ」


「だな。余計な詮索だった、申し訳ない市長殿」


 よくわからんが、とりあえずジャーメレナさんに乗っておくか。というか乗らないと大剣でぶん殴られそうだ。


「そうですね。今後良好な関係を続けるうえでも注意していただけると助かります」


「肝に銘じよう。市長殿を敵に回すのだけは絶対にご免こうむりたいからな」


「そうならないことを祈りますよ」


「ああ。今後とも末永くよろしくお願いするよ、市長殿」


「ええ、こちらこそレンドンドさん」


 ま、なんにしても揉め事は少ないに越したことは無いからな。


「さて堅苦しい話はここまでにして、祖国奪還と救国への協力に感謝の意を表して市長殿を宴に招待したいのだが、お誘いしてもよろしいか市長殿」


 そろそろログアウトしたいところだが……。さすがに断る空気ではないよなぁ。


「わかりました、長居はできませんが」


「感謝する」


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「おかえりなさいませ、市長」


「ただいま戻りました、セリスさん」


 召喚用ホールが半壊してる。大人数は想定してたけどさすがにジラーテさんの大きさの住民は想定外だった。


「またホールを新築しなくてはなりませんね」


「ジラーテ様の大きさを想定したものですね。鳳仙様に伝えておきます」


「お願いします。それと今日はありがとうございます、本当に助かりました」


 交渉関係ふくめ裏方をはほぼ一人で担当してくれたからな。


「やるべきことをやったまでです」


「それでもですよ」


「であれば一つだけ我儘を」


 セリスさんの我儘……。


「板切れ一枚で川を下る等でなければ」


 今日はさすがにその元気はないぞ。


「いえ、そこまで難しいことでは」


「わかりまし、むぐっ」


 また毒ですかっ!?


 …………。


 あれ? 今日は毒なし?


 …………。


「では、失礼いたします」


 ……。


 えーと……今日はちょっと急展開が目白押しすぎるな、とりあえずログアウトしよう!

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