第85話 覚悟と興味(side:ジャーメレナ)
「申し訳ありません、ジャーメレナ様」
まさかレハパパ攻めが失敗するなんて。
「それで、戻ったのはあなた達五人だけ?」
なにかしら? 心なしか目に覇気が無い……何かに怯えている?
「はい、前線に出ていた冒険者達は全滅しました」
はあ。
復魂の陣に参戦した者全員分の火護石。あれだけお膳立てしてやったのに、あんな未開地域の蛮族の村一つ落とせないなんて。
何がこの辺一帯では最大の組織よ。所詮は数だけ集めた冒険者風情ということかしら?
「火鱗族がそれほどの戦力を持っているとは予想外だったわ。やつら本当にあの火竜でも連れ出したの?」
「いえ……、ただ我々が遭遇したのはそれよりもはるかに恐ろしいものかと」
「竜より恐ろしいもの? それはどういうことかしら?」
「レハパパの火竜であれば我らとあの冒険者たちでもそれなりに戦うことができます、ですが…」
「続けなさい」
「あれはそんな生易しいものではありません、信じられますか? 開戦から10分で部隊が半壊、その後10分たらずで全滅したのです」
な!?
「1000人からの大部隊がものの20分で全滅したと? 冗談にしてもありえないわ」
「そのありえないことがあったのです」
「……それで相手は一体何なの?」
「わかりません」
「は?」
「わかりません……我らは相手を知る前に全滅させられたのです!」
「いったい何を言っているの?」
「我々が体験した事実です。ジャーメレナ様、我々はあそこに手を出してはならなかった! 我らは触れてはならぬ場所に触れてしまったのです」
……。
竜をみても怯えない連中がこの様子。竜をはるかに上回る戦力か……これはまずいわね。
「ジャーメレナ様、どうかされましたか」
「私たちがハバメヤメを出る理由は知っているわよね?」
「祖国へ航路が使えるようになったため、帰国の途に就くためと」
表向きはね。
「それとは別にあそこが戦場になるからってのもあったのよ」
「ハバメヤメが……まさか本国が動いたのですか!?」
「そうよ。あの海の魔物がいなくなった今、エンデルベ海軍の進撃を遮るものはなにもないもの。ハバメヤメを蹂躙する大艦隊がすぐそこまで来ているわ」
「な!? 占領ではなくですか?」
「ええ、今回は殲滅するつもりらしいわ。だからこうやって私達も巻き添えにならないように、ハバメヤメを捨て海に出てきているのよ」
本国からの話だと、本当にハバメヤメを跡形もなく滅ぼすつもりらしいのよね。
折角王位に返り咲いたのにぬか喜びになってしまうわね、レンドンド。あなたのあの苦虫を潰したような顔が見れないのは、ちょっと心残りだわ。
「ではあの鉱山を攻めたのも」
「そ、皇国の指示よ。なんでもあそこでとれる鉱石が皇国の戦略に必要不可欠らしいわ。それと火鱗族の連中を本国のお貴族様がご所望だそうよ」
「では此度の戦の結果は」
「まあ、このままいくとエンデルベに帰った時に少しまずいことにはなるわね」
「そんな……」
「まあ、でもあなた達の報告を聞いてる限りだと、それもどうなのかってところになりそうだけど」
「あらあら、なかなか鋭いお嬢様ね」
!?
「なにやつ!」
「武器を引け、私達じゃ相手にもならない!」
こいつはまたとんでもないのが出てきたわね。
もしかしてこいつが兵たちが話していたレハパパの……。
「どうやらただのお嬢様じゃないみたいね」
冷や汗が止まらない。
たしかにこれなら火竜相手の方がよっぽどましだわ。
「こちらに抵抗の意思はない、用件を聞こう」
「うふふふ、話が早そうで助かるわ。それじゃ遠慮なく、今回の騒ぎの責任者のいる場所を教えてくれないかしら?」
今回の騒ぎの責任者。命令の出どころはエンデルベ皇国、その責任者となると……。
「わかった答えよう。ただし情報を提供する見返りとして、この船に乗っている者たちの安全を約束してほしい」
「ふーん。この状況でワタシの力もある程度理解した上で、そんなこと言えるなんてなかなか度胸のあるお嬢様ね」
「このくらいもできない者に、縁も所縁もない異国の地で王なんてできないわよ」
「うふふふ、いいわ。アナタに免じて、今この瞬間の無事だけはワタシが約束してあげる」
今この瞬間だけか。それでも何もないよりはましよね。
「それじゃあ教えてちょうだっ!?」
っ!?
「早く口を開くでござる」
「そうなんだぞ」
な、なんなのよこの二人……まずいなんてもんじゃない、話を聞いてるだけで意識いや、命そのものを狩りとられそう。
「ちょ、ソフィアちゃん、ロカちゃんそんなに殺気立ってどうしたの?」
「御屋形様が狙撃されたでござる」
「親分が狙われたんだぞ」
「あら、それはゆるせないわね」
く、この筋肉男も。
「お嬢様、ワタシ達がこの船を消し去る前にさっきの情報をいただけないかしら?」
さっきまでのは本当のお遊びだったようね。これはたしかに私たちが近づいていい相手じゃないわ。
「あ、ああ。私たちに命令を下していたのはエンデルベ皇国の皇帝だ」
「エンデルベでござるか。娘その国はどこにあるでござるか?」
「そ、そこに海図が」
「その皇帝っていうのはどこにいるんだぞ?」
「こ、この場所にある城にいるはずよ」
「娘その言葉に嘘は無いな?」
こ、これは視線と圧力だけで命がもぎ取られそうね。
だけどここで視線は逸らせない、逸らせばそこにあるのは確実な死のみ。
だったら!
「もちろんよ。私の全てを賭けるわ」
「ふむ。娘、なかなかの胆力でござるな。その言葉信じるとしよう」
「じゃあ行こうか、ソフィ姉、鳳仙」
「そうね。あ、そうそう。お嬢様、あなたの親玉にお仕置きしたら次はあなた達よ。ひどい目にあいたくなかったらここでおとなしく待っててね」
ここで見逃してもらえるほど甘くはない……か。
「部下共々寛大な処置を期待するわ」
「うふふ、それはご主人さま次第ね。それじゃちょっと行ってくるわ」
飛んだ!?
「き、消えた?]
「あら、私以外にも気を保てる者がいたのね。それとあれは消えたんじゃないわ、凄まじい速度で飛んで行ったのよ」
「飛んで……まさか!?」
「そ、多分行先はエンデルベ城」
触れてはいけないもの……か。
あれは想像以上、いえ、想像なんてものの範疇をはるかに逸脱しているわ。本国は終わったわね。
「ジャーメレナ様、どうなさいますか?」
「私はまだ死にたくないわ、だからこの場所に待機よ!」
あの三人のご主人さまってのも見てみたいしね。
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